第158話

「え……?フィオナ?」


未だに信じられないのか思考がフリーズしている両親。


「はい。魔物討伐戦では大変お世話になりました。」


「いや、フィオナって……お前、そんなにも子供じゃなかっただろ?」


「それが……いろいろあって何故か若返りまして……」


その言葉でグイドは絶句する。


たしかフィオナは妻であるミーナとほぼ同年代だったはず……


それがどうだろうか。


今目の前にいる女の子はどこからどう見ても10代前半の女の子にしか見えない。


でもその前に……


「でも大臣の説明ではフィオナは魔族からの攻撃により重傷を受けて死んだと……」


「グイドさん、書類上ではフィオナ・パスカリーノはもう死んだことになっています。今の私の名前はフィリス・アブリック。戦略魔法大臣であるビリー・アブリック様の庶子と言うことになっています。」 


「何がどうなって……」


ミーナもフィオナの容姿をみて動揺が隠せない。


同じ年齢の女性が若返っているのだ。


「ねぇ!?なんで!?どうやったの?ねぇ?私にも!私にもそれは出来るのかしら!?」


母さんが先生の肩をガッチリとホールド。


激しくフィオナへと問いつめる。


「お、おい!ミーナ!」


あまりにも強引に問い詰めるのでグイドが慌てて止めに入るが……


「あなたは黙ってて!!これは私達女性にとってとても大切な事なの!」


グイドは自分が今まで見たことが無いほど真剣な表情でフィオナに問い詰めるミーナの豹変に驚きを隠せなかった。


同じくラグナもこんな反応をしている母親の姿を見たことなど無かったので驚いていた。


そして以前話をしていたことが嘘ではなく本当なのだと目の前の光景を見て実感する。


『若返った事が広まれば内戦になる。』


母さんでこれなのだ。


もしもこれが権力者の妻、権力を持つ女性だった場合はどうなるかは想像に容易い。


『あれは本当だったのか。本当に国内の内戦を防ぐために……』


両肩を掴まれてブンブンされているフィオナはミーナに声を掛ける。


「ミーナ!少し落ち着いて聞いて欲しい!私自身も何で若返ったのか正直な所、わからないんだ。」


「わからないですって?じゃあどうやって若返ったって言うのよ!」


「ミーナには全部話すから。だから一旦落ち着いて聞いてほしい。」


ふぅ、ふぅと息を整えながらもミーナはフィオナから手を離すとドカッと地面に座る。


そして一言。


「聞きましょう。わかっていること全てを。」


妹であるメイガは母親の豹変に驚き、父親にずっと抱きついていた。


「かあちゃま、こわぃ……」


「まずは私が生きていることは誰にも話さないで欲しい。グイドさん、今のミーナの姿を見て判りますよね?若返った事実が広まってしまったら、本当に内戦が起こりかねないんです。。もしもこの事実が広まってしまったら、お二方夫婦だけでなくラグナやそこにいる娘さん、それに私の命も無いと思う。だからこれだけは絶対に守って欲しい。」


ミーナが目を閉じて頷く。


「……わかったわ。だから全て話しなさい。」


フィオナはグイドとミーナに魔族襲撃事件についてわかっていることを詳しく説明する。


魔族の容姿、自身の魔法が効かなかった事。特に2人が驚いていたのは爆炎魔法が魔族には効果が無かった事だった。


「嘘だろ!?お前の魔法が効かなかったとでも言うのか!?」


「えぇ。全くダメージを与えることが出来なかったんです。他にも大臣の護衛として来ていた現役の魔法師団の魔法を受けても効果が無くて。」


フィオナの爆炎魔法ですら効かない生物がこの世に存在したことに2人は驚いていた。


現役時代は魔物討伐戦で何度も共に共闘しているのでフィオナの魔法の威力はこの目で何度も見ている。


魔族は人間とは比べ物にならないほど強靱な肉体を持っていると昔話として語り継がれてる。


大抵は大袈裟に誇張されていると考えていた人間が大多数だった。


しかし実際に現れた魔族の強さは聞いている限り誇張でもなんでもない。


果たして目の前に魔族が現れた時、自分は生き残る事が出来るのだろうか……


「そして魔族の反撃を一発受けただけで、私は命を失う寸前のダメージを負ったんだ。両手両足はあらぬ方向を向いていて腹部の一部は吹き飛んでいた。本当に死を待つだけだったんだ。そして魔族が私の息の根を止めようと行動し始めた……あぁ、負けたのかとその時は本気で死を覚悟したんだ。そんな状況下だよ。誰もが絶望し動けない中、ラグナは私を守ろうと魔族に対して急襲したんだ。」


フィオナの全力でも全く相手にならないほど強大な相手に対して、自分の愛しの息子はフィオナを守るべく奮起し絶望的な状況の中、魔族へと立ち向かっていった。


なんて誇らしい息子なんだろうか。


両親である2人はラグナを近くへと呼び寄せると2人で抱き締める。


「よくフィオナを守ってくれた。」


「頑張ったわね。」


少し照れくさいけど『うん。』と返事をする。


フィオナはその後のラグナの身体的な変化とそしてうっすらと青く光る何かがラグナから自分に流れ込んできたこと。戦闘終了後に起きた奇跡についても話をした。


「つまりフィオナが若返ったのはラグナのおかげって事?」


さっきまで優しくハグをしてくれていた母さんの腕が変化する。


絶対に逃すまいと力を込められた。


「ねぇ、ラグナ。もう一度その青い光って言うのを出せないかしら?ねぇ出せるわよね?ねぇ?」


母さんからの謎の圧力に屈した俺は出来る出来ないに関わらずやるだけやって見ることに。


「はぁぁぁぁ!」 


徐々に魔力を練り上げていく。


しかしいくら練り上げても結果は変化無し。


「母さん、ごめんね。出来なかったよ。正直な所、僕自身は必死だったから自分の髪の毛の色が変化してるとか青い光を纏ってたって言われても自分では見てないからわからないんだよ。」


言われるまで本当に知らなかったし……


「ふぅ……仕方無いわね。もしも自由に出来るようになったら母さんに青い光を流すのよ?わかった?」


諦めたようで諦めきれていない母さんは俺に念を押してくるのだった。


「それで、フィオナ。なんでラグナがあなたのパスカリーノ家を継ぐことになってるの?」


「はっきり言えるのは戦略魔法大臣と軍務大臣がラグナをこの国に引き止めたいってことが一つ。もう一つはラグナを貴族共から保護する為。」


ラグナの実力は一部上級貴族に知られてしまっている。


このまま平民にしておけばよからぬ考えを持った貴族がラグナに手を伸ばしてくる可能性が大きかった。


だから戦争の道具として捕まる前に同じ貴族に引き上げた事をミーナに説明する。


「後は私の次。次代の爆炎魔法の使い手としてラグナを選んでしまったのも原因の一つだと思う。その結果ラグナはパスカリーノ家を引き継ぐことになってしまったんだ。私と同様に爆炎魔法が使えるから……2人の息子を巻き込んでしまい本当に申し訳ありません。」


地面に頭をつけてフィオナはラグナの両親である2人に謝罪する。


「……フィオナ。顔をあげてくれ。」


グイドにそう言われてゆっくりと顔を上げる。


「確かにラグナが貴族になり、パスカリーノ家を引き継ぐ原因となったのはお前が関係しているかもしれない。でもな、俺達夫婦はラグナを王都に派遣した時点で何かしらが起きるだろうとは覚悟していたんだ。ラグナは本当に幼い頃から賢い子だったからな。」


「そうね。このままこの村にいてもラグナはきっといつか貴族達に目をつけられてしまう。それは確信していたわ。その時に平民の私達ではラグナを守りたくても限界があるの。例え、命を放り出したとしてもね。でもラグナが魔法学園で様々な魔法が使えるようになればきっとそれはラグナ自身を守る力になると思って学園行きへの許可を出したのよ。まさか1年でこうなるとは想像出来なかったけどね。」


再び母さんは優しい顔でフィオナを抱きしめる。


フィオナに対して責任を感じる必要は無いと。


「それにフィオナ……あなた、ラグナに惚れてるわよね?」


「「なっ!?」」


ミーナの突然の振りに3人は驚いて声をあげる。


ラグナの父であるグイドはそんな馬鹿な!?という驚き。


ラグナは母さんの突然のぶっこみに。


フィオナは図星を突かれたので。


「いつ?何時なの?隠しても無駄よ。女同士判るんだから。」


「……年の差があるのは重々承知してるんだ。私がおかしいことも。確かに私はラグナに惚れてるんだと思う。初めてなんだこんな気持ち。」


「それで?きっかけは何だったの?」


フィオナから直接惚れていると聞かされたラグナは恥ずかしさに悶えていた。


「きっかけ……きっかけか……最初はあれだな……軍にいた時代の部下が死んだと聞かされて絶望した時だ。私が軍を辞めていなければ死ななかったんじゃないかとの考えが頭から離れなかったんだ。事実から逃げるように自宅で1人酒を飲んでいた時にコイツが突然うちに1人で乗り込んできたんだ。」


「なんでラグナがフィオナの家に?」


じっと母さんに見られる。


「試験の結果が良かったからご褒美で1日だけ学園から外出出来る許可がおりたんだ。クラスのみんなで買い物をしているときにふと思い出したんだよ。試験の日に先生の様子が明らかにおかしかった事に。それで元気を出してもらおうと、お土産を買って持って行ったんだ。」


「だからうちにドライフルーツが置かれていたのか。ラグナが家に来るとやや強引に部屋に入ってきたんだ。そして酒臭いからシャワーに入ってこいと無理矢理シャワー室にぶっ込まれて。仕方なく言われた通りにシャワーを浴びたんだ。まぁ子どもとは言えラグナは男だからな。ちょっと警戒しながらシャワー室から出てみるとテーブルにはラグナが作った手料理が並べられていたんだよ。あの料理の数々、本当に美味しかった。そして食事をした後に満腹になるとな……部下が亡くなった事実を再び思い出したんだ。辛くて押しつぶされそうな気持ちに包まれていったよ。そしたらラグナが急に私を抱きしめてきて、『泣きたいなら泣いてもいい。』って言ってくれたんだ。その後は涙が止まらなくなって泣き続けていたら気がついたらベッドで寝ていたよ。起きた時にはもうラグナは居なくなっていた。部屋は丁寧に食器の片付けまでされていたよ。」


両親2人からじっと見つめられる。


「フィオナがラグナに惚れたのはラグナのせいね。我が息子ながら恐ろしい。フィオナはそれがきっかけでラグナに惚れたの?」


ううんと首を振る。


「自分の気持ちにはっきりと気がついた時はあれだと思う。魔族の攻撃で死にかけてる時にラグナが魔族に急襲を仕掛けながら叫んだんだ。フィオナから離れろってな。命懸けで私を守ってくれたんだ。惚れてしまうだろう?」


我が子の大胆な行動に両親は驚き、ラグナを再びじっと見る。


そして一つの答えにたどり着く。


「フィオナは悪くない。私だって同じ事をされたらラグナに恋愛感情を持ってしまいそう。うん。悪いのは全部ラグナ。フィオナは気にする必要無いわよ。」


「俺も聞いていて思ったけど、ラグナがやり過ぎたんだ。ここまでされて惚れない女性はいないんじゃないか?」


フィオナはラグナの両親への謝罪を無事?に終える。


その後は昔話をしながら話が盛り上がる。


「そろそろ泊まる場所を探さなきゃ。空き家とかあるだろうか?」


「うん?気にしないでいいわよ。うちに泊まりなさいな。」


「いいの?」


先生は10日間俺の実家に泊まることが確定した。

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