第161話
「それじゃあ夏休みになったらまた帰ってくるよ!」
「気をつけてね~。フィリス、ラグナを宜しくね!手を出しちゃダメだからね!!」
母さんにイジられたフィリスは一瞬にして顔が茹で上がる。
「出すか、バカ者!デリカシーの無い奴め!」
馬たちの顔を撫でて『またよろしくね。』と挨拶すると馬車へと乗り込む。
「それじゃあ出発するぞ。」
リビオさんに御者をお願いして、再び王都へと馬車は動き始める。
「また帰って来いよ~!!」
「元気でね~!」
両親だけでなく村の皆総出でお見送りをしてくれた。
俺も馬車から身体を乗り出すと、
「夏にまた帰ってくるからそれまで元気でね~!!」
姿が見えなくなるまで俺は手を振り続けた。
「それにしても……まさかワイバーンと戦闘になるとは思ってもいなかったな。」
「本当だよ。誰も怪我をしなくて本当に良かった。でも、なんでワイバーンなんかが急に現れたんだろう?」
たまたまウチの村の近くに来ちゃっただけならいいんだけど……
「わからん。奴らは突然飛来するからな。事前に対策を取れたことなど、私は聞いたこと無いぞ?ほとんどが後手に回って何ヶ所もの村が襲われ、壊滅してから異変に気付くのがほとんどだ。それに討伐するにしても、最低でも伯爵領が保有する領軍でなんとか犠牲を払いながら討伐出来るかどうか。男爵や騎士爵程度ではあっと言う間に喰われて終わりだろう。まず領主の軍が援軍で来ないからと、近くの街に避難するのではなく単独で討伐を検討するアオバ村がおかしいんだ。」
まぁ普通ならすぐさま逃げるんだろうけど……
「ウチの村は元々魔物を討伐する事で収益を得ているからなぁ。他の村や領地に比べたら圧倒的に鍛えられてるでしょ。魔物との戦闘経験だけはナルタの領軍よりも上じゃない?でもまぁ自分で言うのもあれだけど、学校が休学になって本当に良かったよ。もしも村に帰ってなかったらって思うと本当にぞっとする。もしかしたら誰かの命が奪われていたか、大怪我を負っていたかもしれないしね。」
本当にたまたま村に帰っているときで本当に良かった。
そして村を出発して馬車に揺られること6日間。
王都へと到着した。
「リビオさん、本当にお世話になりました。リビオさんにはこれ。サイさんにはこれを。」
俺が手渡した品に驚くリビオさん。
「お、おい!本当にこんな物貰ってもいいのか?」
リビオさんに手渡したのはワイバーンの牙1本。
サイさん用にはワイバーンの爪と皮をお礼として手渡した。
「うん!今回もリビオさんやサイさんにはお世話になったし、僕が持っていても使い道が無いからね。本当に何から何までありがとうございました。」
何だかんだとほとんど御者をやってくれたり、宿の手配をしてくれたりと本当にお世話になったからそのお礼。
本当にリビオさんには助けられた。
リビオさんをエチゴヤ商店の近くで降ろした後はフィリスに御者をチェンジして牧場まで。
「ここまで運んでくれてありがとう。」
「ブルルゥ。」
出来れば側にいたいんだけどね。
まだ学生の身ではそうも言ってられないか。
「そう言えばフィリスさんや、この子達に名前は無いの?
「名前?教えてなかったか。牡馬がキータブラック、牝馬がマリンライトだ。まぁいつもブラックとかマリンと略して呼んでいるけどな。」
うん?なんかどっかで似たような名前を聞いたことがあるような……
あっ、あれだ!
前世の時に父親がテレビを見ながら『逃げろ!逃げきれ!キ○サ○ブラック!』って叫んでたり、『マ○アライト、いけ!差すんだ』って叫んでたなぁ。
「ブラック、マリンまたね。」
二頭の顔をとんとんと撫でて別れを告げる。
牧場からフィリスの家へ。
「うちまで着いてきてくれてありがとうございます。楽しかったです。」
そう言うとフィリスはキョトンとした顔をしていた。そして首を振る。
「私は私でお前の両親と話がしたかったから構わない。むしろこちらがいろいろ迷惑を掛けたんだ。すまなかった。」
「別に先生は気にしなくていいんですよ。どうにもならない流れだったんですから。むしろ俺がいけないような……」
若返らせちゃったのはそもそも俺なんだし……
「……その先生とかフィオナとか呼ぶのは、もう禁止だからな?何度も言っているだろう。学園が始まったらどうするんだ。私はフィリスだ。フィリス!わかったな?」
「だって1年間そう呼び続けたんですよ?まだ慣れませんよ……」
「そうは言ってられんだろう。あと10日で学園が始まるんだ。向こうでは間違えられんのだぞ?」
「善処します……」
某国家の政治家のような返答をしながら先生の荷物を家の中へ運び込むと別れを告げて学園へ。
「ただいまー!!」
誰かしら庭で訓練してるかな?って思っていたけど庭には誰もいなかった。
俺の声に気がついたのかミーシャさんが小走りで来てくれた。
「ラグナ様お帰りなさいませ。久々の帰郷は如何でしたか?」
「久々に両親や村の人達に会えて楽しかったよ。」
「それならば良かったです。それにしても随分と大きなお荷物ですね。何か購入でもしてきたのですか?」
ラグナは食堂のテーブルの上にカバンを置くと荷物を取り出す。
「ちょっといろいろあってね。はい、ワイバーンのお肉。定期的に氷魔法で凍らせていたから傷んだりはしてないと思うよ。」
カチカチに凍ったワイバーンの肉塊をテーブルの上に。
ワイバーンの肉塊と聞いてミーシャさんは驚いたのか目を見開いて動きを止めていた。
「こ、このような食材をどこで……?購入したのですか?」
「ううん、違うよ。僕が村に帰る少し前に、魔の森の浅いところにワイバーンが居ついちゃったらしくてね。狩人の人達や父さんと一緒に討伐したの。その時に解体したお肉。貰って来ちゃった。もう皆帰ってきてる?」
「いえ、ラグナ様以外はまだ。あの……ワイバーンを討伐と仰いましたがお怪我などは……?」
ミーシャさんが俺の身体を触ってチェックし始めた。
「怪我?うーん、狩人の人達がすり傷作ったくらいかな?後は特に無かったよ。」
「あのワイバーンですよ!?それを無傷で??」
「う、うん。危ないときは何回かあったけど特に怪我はしてないかな。」
「あ、ありえない……もしかして領軍の方の援護でも?」
領軍ってナルタに引きこもってたからな。
「領軍はナルタを守護するからって来てくれなかったよ。だから村の人達と僕だけで討伐したんだ。」
「村人だけで討伐……本当に無事で良かったです。」
ミーシャさんの顔色があまり良くないように見える。
「ミーシャさん、どうかした?」
「い、いえ。何でもありません。それでこちらの食材はどういたしましょうか?」
「皆が帰ってきたら食べようかなって思ってたけど。保存って出来る?」
「はい。冷凍の保管所がありますのでそちらに収納しておきます。」
「それじゃあ食べるときは僕達だけじゃ食べきれないからミーシャさん達も食べてね?」
「ありがとうございます。それでは保管所へと保管してきますね。」
深々とお辞儀をした後に凍ったままの肉塊を布で包むと両手で運んでいった。
『ミーシャさんって何気に魔法使うの上手いよな。今だって肉を持つ瞬間にさり気なく身体強化魔法使ってるし。』
ミーシャと別れた後は部屋へと戻る。
荷物を収納スキルから取り出し収納していると扉がノックされる。
「どうぞ~。」
訪ねてきたのはミーシャさんだ。
「失礼します。お伝えするのを忘れてしまいました。ラグナ様にお手紙が届いております。」
手紙を受け取るとミーシャさんは再び部屋から退出した。
「おっ、商業ギルドからだ。」
手紙を開いて読んでみる。
『例のお茶のレシピの件について話がある。時間がある時に商業ギルドまできて欲しい。』
すっかり忘れてた。
ミルクティーの件を放置したままだったよ。
そうだ、魔道具のお店とか魔法書のお店も行こうと思ってずっと行ってないからなぁ……
学園が始まる前に行くか。
ついでに2年生からは学園からの指定装備から解放されるし、武器とか防具も揃えたいし。
今日は出掛けるには遅いからまずは明日、商業ギルドに顔を出してからだな。
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