第146話

『さぁさぁ泣いても笑ってもこれが最後のチーム。前代未聞のちみっこ1年生がここまで残るとは誰が予想できたのか!?さぁ最後の出場者よ。カモン!!』


ラグナとウィリアムとセシルはいわれた通りに出てくる。


『およ?魔法師チームなのに1人だけ剣を持っているね?まさか、まさか~!!ドラゴンに対して魔法師が剣で勝負を挑むとでも言うのか!?これは面白い。面白い展開だぁぁぁ!!』


ウィリアムとセシルはどこにでもいるオーソドックスな杖にローブという魔法師スタイル。


しかしラグナは軽装に剣を構えた騎士とも違うスタイル。


闘技場自体がザワザワと騒いでいるのがわかる。


『確かに……確かに魔法師が剣を使ってはいけないというルールは存在してない!!良いんだね?本当に良いんだね?呼んじゃうよ?呼んじゃうからね?それじゃあ逝くよ!!君に決めた!!』


光の球が現れて転がってくる。


そして……


「グルゥゥァァァァ!!」


スモールアースドラゴンが出現する。


『最後とあってスモールアースドラゴンも気合い充分だ!!』


「ラグナ、本当に大丈夫か?」


「うん。とりあえずさっき話をした通りでお願い。」


『それじゃあ行くよ~!!レディー、ゴー』


開始の合図と共にセシルとウィリアムによる無詠唱のウォーターボールの連打が開始される。


必要に顔を狙い視界を遮る。


「グラァァ!!」


顔をぶんぶん振るがすぐに水が掛かることにイライラしている。


「はぁぁぁぁぁ!」


ラグナは剣に魔力を流す。


『おっとー!!まじか!!まさかの魔法剣だぁぁぁ!!あれは魔道具の偽物ではない本物の魔法剣だぁぁぁ!!』


貴賓室より見ていた2人が再び驚き立ち上がる。


「魔法剣だと!?だが先ほどは魔法も使っていたではないか!!何故2つも使えるのだ!」


「ますますあの子が欲しくなってきたよ。身分はともあれ、あれはうちの娘に相応しい存在だね。」


ラグナは魔法剣を発動させる。


『ウォーターソードだぁぁぁ!!』


わぁぁぁぁ!!


観客の生徒のボルテージもうなぎ登り。


ウォーターボールが止まり、ラグナとスモールアースドラゴンとの目が合う。


「グルゥゥ。」


「いくよ。」


1人と1頭が息を合わせたように動き出す。


『これは大変なことになったぁぁぁ!!接近戦、接近戦をやるつもりだぁぁぁ!!』


スモールアースドラゴンはラグナに対して口をあけて牙を向ける。


「ガァァァァ!!」


ラグナを噛み砕こうと振るわれた口はガキンと音を立てた。


ラグナは噛まれる寸前に膨大な魔力を身体強化魔法に注ぎ、小さな身体を生かしスモールアースの懐に飛び込む。


そして右前足を斬りつける。


「ギャァァァ!!」


斬りつけられたスモールアースドラゴンはたまらず声を上げて後ろに引き下がる。


そして今し方斬りつけた存在を探すがいない……


すると突然尻尾から激しい痛みと喪失感を感じる。


「グルゥゥァァァァ。」


ラグナは右前足を斬りつけた勢いのままさらに後方へと踏み込んでいた。


そして一歩後方に下がったスモールアースドラゴンの尻尾を両断。


「今だよ!!」


ラグナの合図でウィリアムが再びウォーターボールを連打。


もう一方のセシルは詠唱を開始する。


「寒い、極寒の氷に囲まれ束縛されよ!氷の牢獄アイスプリズン


試合会場が冷気に包まれていく。


そして動きが鈍ったスモールアースドラゴンの周囲が氷によって囲まれていく。


「グルゥゥァァァァ!!」


氷によって囲まれたスモールアースドラゴンは徐々に凍りついていく。


身体を動かそうにもあまりの寒さに満足に動く事すら出来ない。


まだ尻尾があれば違う結果も見えたかもしれないが……


そしてスモールアースドラゴンが完全に凍りつく。


『試合終了~!!タイムは12分35秒~!!まさか、まさかの1年生代表チームのぶっちぎりの優勝だぁぁぁ!!』


わぁぁぁぁ!!


前代未聞。


学園創設以来初めての1年生代表チームの優勝に闘技場全体がお祭り騒ぎになる。


『そして最後の交流戦は騎士学園6年生対魔法学園1年生の対決が決定だぁぁぁ!!試合は30分後!!それまでゆっくり休んでくれぇぇい!!』


観客席で観覧していた生徒達に見送られながら、控え室へと戻る。


控え室に入ると救護室から復帰した6学年の先輩達から出迎えられた。


「良くやってくれた!!」


パチパチパチパチ!


他の学年の先輩達からも良くやったと声を掛けられた。


「決勝もこの勢いのまま頑張れよ!」


「そうだ!騎士学園の奴らなんて倒してくれよ!」


ソリダス先輩が俺の元に来てポンと頭に手を置く。


「俺達はもう少しで卒業だが、明日からはお前たちと同じメニューで自分を鍛えようと思う。」


「先輩達だけズルいぞ!!もちろん俺達もお前たちと同じメニューで練習したい。今度やり方とか教えてくれ!」


チラッと2人を見ると頷いている。


「わかりました。授業終わりに寮でお待ちしてます。」


その後も先輩達とわいわい話ながら休憩時間を過ごした。


そしていよいよ、最後の交流戦が行われる。


『赤コーナー 騎士学園代表6年生チーム、出てこいやぁぁ!!』


ロイ率いるチームが試合会場へと現れる。


きゃぁぁぁ!!


ロイ様~!!


こっち向いて~!!


ロイは観客席に手を振る。


きゃぁぁぁ!!


魔法師なんてやっつけちゃってぇーー!!


『青コーナー 魔法学園代表1年生チーム!!カモーン!!』


続いてラグナを先頭に魔法師チームも試合会場へ。


ラグナく~ん頑張って~!!


ウィリアム様~!!


セシルお姉様~!!  


まさかの声援に3人がビクッとする。


「僕はくんなのにウィリアムは様なのかよ。」


「お前は見た目が小さいから仕方ないだろ?」


「2人ともまだいいじゃない……なんで私だけ先輩達からお姉様って呼ばれなきゃいけないのよ。」


「「確かに笑」」


「もう!!」


『おっと1年生チームは余裕なのか~!!お喋りしてるぞ~!!』


ロイがその様子を見て目元がピクリと動く。


そしてセシルへと話し掛ける。


「よぅ!久し振りだなぁ。我が愚妹よ。我が家の恥曝しめ。よくまぁこんな所までやってきたものだ。」


ラグナはイラッとして言い返そうとするがセシルに服を引っ張られる。


「大丈夫だから。」


セシルの顔を見ると頷くのでセシルに任せる。


「お久しぶりですわね、お兄様。随分と余裕が無い様子ですが大丈夫ですか?不安なのですよね、皆の前で負けるのが。」


「何だと!!無礼なやつめ!!不安などあるものか!!」


「そうでしょうか?ならば『あんなこと』いちいちしなくても良いのではなくて?」


セシルがそう言うと目に見えて狼狽えるのが分かった。


「な、何のことだかわからん。」


めっちゃ動揺してるな。


でもあんなことって何だろう。


『さぁさぁ、泣いても笑っても怒っても叫んでもいよいよ最終試合!!自分の持てる力を全力で出し尽くすんだよ!!遠慮は無用!!さぁ選手のみんな、配置についたかな?準備はいいかね?』


ラグナは対人戦なので魔法剣は封印。


純粋に魔法で行くことにした。


「魔法剣じゃなくていいのか?」


「だって相手は騎士だよ?剣術じゃ向こうが有利だよ?……それに怪我をしないとはいえ、人を斬る感覚なんて味わいたくないじゃん。」


「まぁ確かにそれはそうか。」


騎士の3人は武器を手に臨戦態勢に入る。


俺達は杖を構える。


『それじゃあ、いっくよ~!!運命の最終戦!!勝利はどちらの手に!?レディー・ゴー!!』


いよいよ最後の戦いが始まるのであった。

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