第144話

セシルの兄であるロイとザイト2人は、こそこそと話し合っていた。


「あっ、兄貴……本当に大丈夫ですよね?」


「魔法学園の生徒に金を掴ませてやらせたから、たぶん大丈夫だろう。更に認識阻害のローブを被らせて、最下級組の生徒から魔法学園の生徒へと頼んだから誰かはわからんはずだ。」


「なら良いのですが……それにしてもあの1年危険ですね……」


「あぁ。1回戦目でもやり手だとは思っていたが、まさか爆炎魔法が使えるとはな……決勝で我ら6年生と戦うのは奴らだろう。」


「だ、大丈夫ですか?」


「ふん。ながったらしく詠唱しなければ、あれは発動出来んのだ。ならば一気に接近戦で仕留めればいいだけだ。しょせん魔法師など我らの敵ではない。」


「流石、兄貴!セシルの奴のことも頼みますよ!」


「あぁ、わかってる。それよりもまずはドラゴンだ。まぁドラゴンにはあれを使うから大丈夫だろう。」


そういって高価な宝飾により包まれている剣を見る。


『それじゃあ最終試練いっくよ~!!紳士、淑女の皆は覚悟いいかな~!!』


きゃーー!!


ロイ様頑張ってー!!


学園最強の騎士様~!!


女性達からの声援に応えながら試合会場へと突き進んでいく。


「このドラゴンの討伐時間によっては、まだ逆転は可能だ。我らにはこのドラゴンを討伐するための武器も揃っている。全力でいくぞ!!」


『いでよ!スモールアースドラゴン!!』


見たこともない魔法陣が展開されると大量の煙が吹き出す。


「ギャオーーン!!」


煙か晴れていきその姿を見ることが出来た。


3メートルほどの羽根のないドラゴン?が現れた。


あれがドラゴン……?


「ねぇ……あれがドラゴンなの?」


真っ青な顔色のウィリアムが頷く。


「あれがスモールアースドラゴンだ……あの強靭な歯で獲物を噛み砕くんだ。そしてあの尻尾もギザギザ状の堅い鱗に覆われていて、肌に触れると肉が削がれるらしい。」


あれがドラゴン……


ギザギザ状の鱗は特徴だけど、どう見てもあれはワニじゃないか!!


ロイが剣を鞘から抜く。


『おぉ~!!ドラゴンキラーとはよく準備出来たね!!』


宝飾品に飾られた鞘とは裏腹に刀身は禍々しい紫色をしている。


仲間の2人は剣に魔力を流すと刀身が凍っていく。


『さらにアイスソードまで用意するとは流石だね~。本気になっちゃうぞ~!!』


スモールアースドラゴンが地面を尻尾でビッタンビッタン叩きつけている。


『噛まれたら痛いからね~!尻尾ぶんぶんにも注意だよ!!それじゃあ覚悟は出来たかな?いっくよ~!!3、2、1、ゴー!!』


スモールアースドラゴンは開始と共に地面に尻尾を擦りながら3人がいる方へと尻尾を振り抜く。


「防御!!」


ギザギザ状の尻尾に擦られた地面は抉れて石や土の塊が飛んできていた。


回避できないことを察したロイは直ぐに盾を構えて自らの身体を守る。


「くっ!!意外と威力があるな!」


盾を構えていた左腕が防御した際の衝撃により少し痺れたが、ほぼ無傷で防ぐことが出来た。


「被害は?」


「ありません!!」


「ギャオーーン!!」


スモールアースドラゴンが咆哮をあげると上空に土の飛礫が大量に発生。


「魔法とは、厄介な!」


ロイ達へと飛礫が発射される。


すぐさま再び防御する。


カンカンと凄まじい音が鳴り響く。


きゃーー!!


やめてー!!


「こうも連続で来られては攻めれないか!!」


「どうします?」


「3人が固まっていると狙われる!散開するぞ!」


ロイは真正面からスモールアースドラゴンと対峙する位置に。


スモールアースドラゴンの左右にはアイスソードを持つ2人が。


スモールアースドラゴンは左右にいる人間には興味を見せず、ロイに狙いを絞ると大きな口をあけて迫っていく。


思っていた以上の俊敏さに驚くが、身体強化魔法を発動して突撃を避ける。


しかし……


すれ違い様に尻尾による攻撃がやってきた。


「こいつ!!」


咄嗟に盾で防ぐものの、身体強化魔法を使用しているとはいえ軽々と吹き飛ばされる。


きゃーー、ロイ様ー!!


すぐに足へと魔力を回して身体強化する。


「大丈夫ですか!」


「あぁ!大丈夫だ!尻尾には気をつけろ!」


くそっ!左腕が痺れてる。


次は防げるかどうか……


その後も防戦一方の流れが続く。


「ロイ様、このままでは!!」


「わかってる!!」


攻撃しようにも尻尾が邪魔だ。


「2人はこいつの注意を引きつけてくれ!」


「わ、わかりました。」


恐怖に顔をひきつらせながらも2人はドラゴンの顔に対して攻撃を仕掛けていく。


アイスソードの刃が当たる度に嫌がっているのか顔を振って暴れる。


ロイはスモールアースドラゴンの視界から外れるように動き、後方へと回り込む。


「ぐわぁ!!」


注意を引きつけていたひとりが吹き飛ばされる。


『今だ!!』


吹き飛ばした1人に対してトドメを刺そうと突撃し始めた為、スモールアースドラゴンの警戒が緩んだ。


その瞬間に、ロイのドラゴンキラーがスモールアースドラゴンへと牙を剥く。


尻尾へとドラゴンキラーを身体強化魔法の力を借りて、力の限り振り下ろす。


「ギャァァァァー!!」


振り下ろしたドラゴンキラーは尻尾の半分以上を切断。


突然訪れた激しい痛みに、スモールアースドラゴンはバタバタと暴れまわる。


「今だ!!いくぞ!!」


このチャンスを逃すまいと次々に切り刻んでいく。


まずは尻尾を完全に切断。


更に後ろ足にも攻撃を与えて怪我を負わせる。


続いて前足も。


両足を負傷し満足に動けなくなったスモールアースドラゴンへ、さらに激しく攻撃を繰り出す。


そして……


「これで終わりだ!!」


ロイは動きが鈍くなったスモールアースドラゴンの上に乗ると脳天へとドラゴンキラーを突き刺す。


「グラァァァァ……」


ビクビクとスモールアースドラゴンは痙攣した後、動かなくなる。


『試合終了~!!お疲れ様~。タイムは29分58秒~!!頑張ったね~。』


きゃーー!!


ロイ様ー!!


カッコイいー!!


「はぁはぁ……お前たち、大丈夫か?」


「大丈夫です。」


思っていたよりも時間が掛かってしまったが、弱体化しているとはいえドラゴンを倒したことに気分を良くしていた。


「お前たちも良くやってくれた。2人が注意を引き付けてくれたからこそ、隙をつくことが出来たんだ。これからもよろしくたのむ。」


「「はい!!」」


『さぁ、魔法師ども。お前たちにドラゴンが倒せるのか見物だな!!』


高笑いをしながらロイは見学場所まで下がっていく。


次は魔法学園、6年生の順番。


「ドラゴン討伐、私達も成し遂げるわよ!」


「「おぅ!!」」


6年生代表である3人は自分自身に活を入れると試合会場へと突き進む。


今年の代表戦は悔しいが選ばれるのはあの規格外の1学年だ。


練習内容を聞いたときには狂気を感じた。


魔力欠乏症。


普通の魔法師であれば、余程の緊急事態でも無ければ避けるのが当然の代物。


激しい眩暈、吐き気、脱力感。


それが一気に襲ってくる。


しかもある程度魔力が回復するか魔力回復薬でも飲まないと、その状態がずっと続く。


普通では耐えられない。


それをアイツ等は入学時からずっと続けている。


しかもそんな状態について徐々に慣れてくるからとさらりと流していた……


果たして自分達は同じ様に出来るかどうか……


そこまで厳しい練習を重ねたからこそ、6年生代表である自分達よりも短期間で力をつけたのだろう。


でもおかげでさらに上を目指せる糸口は掴むことが出来た。


1年であそこまでの実力をつけた成功例があるのだから。


「まずは目の前の試練を乗り越えることを考えよう。」


『いらっしゃいませ~。ご注文のスモールアースドラゴンをお持ちしました~!!』


ドンと激しい音と共にスモールアースドラゴンが現れた。


『ご注文は以上でお揃いでしょうか?それではごゆっくりお楽しみください。』


勢いよく突撃してくるスモールアースドラゴン。


それに慌てること無くエマは対処する。


「アースウォール!!」


スモールアースドラゴンの目の前にアースウォールを発動させて動きを止める。


予定だった……


ドカァン!!


エマが発動したアースウォールは一瞬で破壊される。


「なっ!!」


「ウォーターウォール!!」


咄嗟にソリダスはウォーターウォールをスモールアースドラゴンの目の前に発動させた。


突然目の前に現れた水の壁に対して先ほどとは打って変わり、強行突破するのを止めた。


「グルァ!!」


「こいつの弱点は水だ!!」


「「ウォーターボール!!」」


3人でウォーターボールを発動してスモールアースドラゴンへと打ち込む。


「グルゥゥ。」


水がよっぽど嫌なのか身体を捻って暴れている。


「いける!!このまま!!」


「グルゥゥァァァァ!!」


スモールアースドラゴンの激しい叫びと共に尻尾を地面に擦り付けながらこちらへと振り抜く。


大量の土や石の飛礫が飛来する。


「防御!!」


魔力障壁を展開して防御するエマとソリダス。


ただ1人……


咄嗟の判断に遅れてしまった。


「ぐわぁ!!」


モロに大きな飛礫を身体に受けてしまい倒れ込む。


「タリアン!!」


「う、うぐ……」


ケガはしていないものの、あまりの痛みにうずくまってしまう。


「グルガァァ!!」


さらにスモールアースドラゴンは尻尾を地面に擦り付けて攻撃を続けた。


うずくまっているタリアンは防御することも、避けることも出来ずに石の飛礫が直撃。


そのまま倒れ込みピクリとも動かなくなる。


『おっと~!1人脱落だぁぁぁ!!』


タリアンの身体が光り輝くと試合会場から救護室へと自動転送された。


「くそっ!!」


残り2人になると更に攻撃は激しくなる。


ひたすら飛来する飛礫に一歩も動くことが出来ない。


「もう魔力が……」


ソリダスよりも先にエマの魔力が尽きかけてしまい魔力障壁が解けてしまう。


「キャッ!!」


エマにも飛礫が直撃。


しかしすぐさまソリダスが身代わりとなり攻撃を受け続ける。


「くそがぁぁぁ!!」


ソリダスが悔しさのあまり声をあげる。


そして魔力が尽きると自らの身体を壁にしてエマを守り続ける。


全身満身創痍の相手に対してスモールアースドラゴンが行った攻撃は尻尾による薙ぎ払いだった。


「ぐはぁっ!!」


2人は一緒に吹き飛ばされて場外へ。


そして救護室へと転送される。


『試合終了~!!結果は残念だったけど……身を挺して守るあの姿は感動ものだったね。みんな~、素晴らしい友情見せてくれた彼らに拍手~!!」


パチパチパチパチ。


結果はとても残念だった。


しかし身を挺してエマを守るソリダスの姿はとても好印象に捉えられていた。

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