第139話

あれから3ヶ月。


少し時間は掛かったけど先生は立ち直った。


最近ではくっきりと出ていた目の下の隈も薄くなってきた。


ちゃんと寝れるようになったらしい。


試験休み明けの先生の姿をクラスメイト達が見たときには、あまりにも覇気が無く驚いていた。


たった数日で何があったのかと……


フィオナ先生は何でもないから気にするなの一点張りだった。


先生とはあれ以来も何度か一緒にお墓参りをしている。


1度だけ元部下だったという現役の魔法師の人に会ったけどあれは酷かった……


「お久しぶりです、隊長!あっ、男連れっすか~。って子供じゃないですか!犯罪っすよ、犯罪!道理で俺達にチャンスが来なかった訳だ。隊長の男の趣味はこれでしたか。」


フィオナ先生をちらっと見ると顔を真っ赤にしてプルプルと震えていた。


『あっ。これはヤバい奴だ。』


危険を察知してすぐに離れる。


「死ねっ!」


一瞬にして現れた炎の塊が元部下へと発射される。


「うぉっ!」


元部下の人はすぐにウォーターボールを発動させてすぐに対抗してみせた。


『凄い!すぐに防ぐ判断力。発動の冷静さ。これが現役の魔法師……』


冷静に対処していた事にラグナは驚いていた。


「まったく~、隊長は茶化すとすぐに怒るんだから。」


「怒ってなどおらん!それにもう隊長ではないし、こいつは私の男でもない。私が担当している魔法学園の生徒だ。」


「へぇ~……てっきり隊長の趣味かと思いましたよ。とりあえず自己紹介でもするか。俺は元第2魔法師団特攻部隊隊員のキエフだ。よろしくな。」


「はじめまして。ヒノ魔法学園1学年特級組のラグナです。よろしくお願いします。」


手を差し出されたので握手する。


「ちなみに俺は隊長に5度アタックしたが全て玉砕してる。まぁ1番アタックしたのはこいつだったんだけどな。」


そう言って石碑の名前を触る。


「アンドレイさんですか……」


「あぁ。こいつは戦場に行く前には必ず隊長にアタックしていたな……子作りさせてくれって。その度に髪の毛をチリチリにされていたんだ。」


「……戦場に行く前に、あんな事を言うバカの相手などごめんだ。」


そう呟くが、フィオナ先生はやはりどこか寂しそうだった。


「隊長……」


「……お前も軍を辞めたんだってな。」


「……はい。第2魔法師団の団長があの傀儡になってからは酷いの一言でした。」


「やはり裏で動いているのは……」


「はい。第1師団の奴らです。」


「そうか……」


なんか聞いてはいけない会話を聞いてしまった気がする。


「わかってるな、ラグナ。」


急に先生に話を振られて身体がビクッとする。


「何のことでしょう?僕は何も聞いていません。」


「完璧に調教済みじゃないっすか!後は自分好みに仕上げれば完成ってことですかぃ?」


「そ、そんなわけあるか!」


フィオナ先生が顔を真っ赤にして反論する。


「その反応はまじか……まじっすか。隊長が落ちた……」


「……どういう意味だ。」


「いや。何でもないです。それよりも隊長。一言だけアドバイスを。」


さっきまでのふんわりとした空気がピリッと変わった。


「奴らの手が学園にも伸び始めています。気を付けて下さい。」


「わかった。この事、学園長は?」


「あの方も気がついているとは思います。ただ……いろいろと雁字搦めで身動きが取れていないのかと。」


「やはりか……私の方でも気を付けておく。お前も気をつけろよ。」


「わかってますって~。それじゃあお元気で。ラグナって言ったな?隊長のこと頼んだぞ。」


「わかりました。お任せください。」


「お前は……子供に何を頼んでるんだ。」


あはははと笑いながらキエフさんは立ち去って言った。


「今のは聞かなかったことにしておけ。おまえ達は気にせず勉学に励んでいればいいんだ。」


「……わかりました。」


こんなやりとりをしていた。



「さて。1年生も残り3ヶ月。あと3ヶ月後には進級&クラス入れ替え試験が行われる。まぁおまえ達は大丈夫だろうが……この試験で最低限の能力を身に付けていない者はこの時点で退学となる。だがその前に来月の半ばに隣に併設されている騎士学園の生徒との交流試合が行われる。」


交流試合?


何をするんだろう。


「まず各学年より3名の代表が選ばれる。我が1年生の代表は既に学園長より指名されている。まだ私も誰が代表なのか見ていないが特級組から選出するとは聞いている。」


先生が手紙を取り出すとおもむろに広げる。


「1年生代表 1番 ラグナ 2番 ウィリアム 3番セシル  上記三名を代表として選出する。騎士学園の面子を潰せ。以上 ヒノ魔法学園学園長 イアン」


「ほぅ。ミレーヌではなく学園長はセシルを選んだか。まぁそれは仕方ないか。理由は後で説明しよう。とりあえず学園長からの指示だ。全力で行くぞ。」


……過激すぎない?


「えっと……何故そこまで?」


「我が魔法学園と騎士学園は言わば犬猿の仲だ。我ら魔法師は騎士を脳筋と罵り、騎士は魔法師をモヤシと罵る。お互いに気に入らない存在だな。まぁ軍に入れば、内心ではどう思っていようがそんな事も言っていられない。騎士が活躍するには魔法師の援護が不可欠。逆に魔法師が活躍するには騎士に守って貰わねばならない。若い頃はそれが理解出来ない奴らが大多数だから昔から仲が悪いのだ。」


「でも何故学園長はそこまで過激なことを?面子を潰せとか……」


「それは簡単な答えだ。ここ10年ほど魔法学園は騎士学園との試合に負け越しているらしい。そのせいでOBからの突き上げが凄いんだ。寄付金を減らすとの話も出ているとか……まだイアン学園長が赴任して数年だと言うのに学園長の能力不足だと騒ぐ奴らがいるんだ。どうしても魔法学園の足を引っ張りたい勢力がいるようだな。」


これはこの前キエフさんが話をしていたことに関係するのかな。


「それにしても試合とはどの様なことをするのでしょうか?」


「各学園、各学年代表者3名による魔物討伐戦だ。魔物討伐と言っても実際の魔物と戦う訳では無いらしい。初代勇者とその仲間と共に作られた魔道具が設置されている施設があるんだ。それは闘技場と呼ばれているもので、その中で受けたダメージは痛みを感じるが怪我はしないらしい。そして一定以上の痛みを感じると意識を失うという訳だ。よくわからんが現実では無い魔物が複数回魔道具によって出現するのでそれを討伐したタイムの合計時間によって競われる。そして最後には騎士学園と魔法学園のトップタイム同士の練習試合が行われるという訳だ。これも魔道具によって怪我はしないらしい。まぁ何とも不思議な空間だな。」


「でもそれなら魔法師が有利では?魔物とは言え遠距離からバンバン魔法を撃てば良いだけですし。」


「考えてもみろ。魔法師が前衛の守りも居ない状態で冷静に詠唱が出来るとでも?他のクラスではひたすら動かない的を魔法を詠唱して狙ってるような奴らだぞ?実戦で戦える訳が無い。それに比べると騎士学園では常に打ち合いをしているんだ。つまり戦闘の経験が魔法学園の生徒に比べて圧倒的に多い。だから有利なんだ。魔法学園が勝つようなるには教育方針を変えるしか無いんだが……何分頭の固い連中ばかりだからな。なぁ、ラグナ。お前なら判るだろう?魔物が急に現れたとして戦えるか?」


「……いや。普通は無理でしょうね……魔物は殺す気で迫って来るんです。そんな状態で落ち着いて詠唱出来るとは思えません。みんなもこの前、ワイルドボアの肉を見たでしょ?あれよりも大きなサイズの魔物が全力で走って突っ込んで来るんだよ?のんびり詠唱出来る?」


みんなは首を振る。


「それが今回ミレーヌではなくセシルが選ばれた理由だな。言い方は悪いが箱入り娘であるミレーヌが魔物と急に戦えと言われて戦えるとは思えん。だがセシル。お前ならある程度は動けるだろう?」


セシルはコクリと頷く。


「魔物と戦ったことはありませんが、幼き頃より戦闘訓練の教育は受けてきました。ちなみに兄2人が騎士学園に在籍しております。6年生と3年生です。私の予想では2人共代表として選ばれると思います。」


小さい頃より戦闘訓練ってセシルのお家は軍関係なのかな。


それに兄2人が騎士学園か。


妹であるセシルはなんで魔法学園に来たんだろう。


「とりあえず1ヶ月間は今まで以上に実戦に近い訓練を行っていく。覚悟を決めろよ!」


「「はい!!」」


こうして1ヶ月。


今まで以上に地獄のような激しい訓練が行われていくのであった。

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