第138話

自分でも何でここまでしたのかよくわからない。


今の姿の先生を放っておくことが出来なかった。


ここ数日、ほとんど食事を取って居なかったみたいなので、料理を作ってご飯を食べさせることに。


メニューは肉とサラダをパンに挟んだサンドイッチとスパイスとニンニクが効いたスープ。


デザートにドライフルーツのプルーンを添えて。


「とりあえず冷める前に食べて下さい。」


本当は何があったのか聞きたい気持ちもあるけど……


先生がお酒を取り出そうとするので、すぐさまグラスに果実水を注ぐ。


「お酒ぐらい、いいだろう?」


「ダメです。お酒はご飯食べ終わってからにして下さい。それにまだお酒抜けてないでしょう?」


普段の先生だったら、この時点で俺の髪の毛は終わりを迎えているはず。


でもちゃんと言う通り我慢してくれた。


先ずはスープを一口。


「……お世辞抜きに美味いな。」


それはそうだろう。


なんたってスパイスが違うからな。


アウトドアスパイスは万能なのだ。


先生はスープを飲み続ける。


「この少しピリッとくるのが美味い。」


そしてサンドイッチにかぶりつく。


葉物野菜が新鮮だったのでシャキシャキと音が鳴る。


「これは肉にもスープと同じ様に味付けしてあるな。これは好きな味だ。まさか10歳の子供なのに料理まで出来るとは。」


久々の食事だったからか、女性とは思えないほど物凄いハイペースで食べ進めた。


「久々に飯の味がしたな……ありがとう。」


「どういたしまして。少しは落ち着けましたか?」 

その言葉で先生は眼を見開く。


「あぁ、少なくとも酒に逃げるのは止める。現実を受け入れなきゃいけないんだな……」


先生は目を閉じると顔を上に上げる。


でも止まらないのか、涙が溢れてきて身体が震えていた。


見ていられなくて思わず先生を抱きしめた。


所詮は10歳の身体なので体格差はかなりあったけど。


『そうか……なんで放っておけないのか判った。創造神様に見せてもらった、俺が死んだ後の彩華先輩の姿と被ったんだ。だから放っておくことが出来なかった。』


俺に抱きしめられた先生は、我慢していた涙が溢れて止まらなくなった。


「我慢しなくていいんです。辛い時、泣きたい時は泣けばいいんですよ。」


それがきっかけになり、先生は声をあげながら泣き出した。


抱きしめながら先生が落ち着くまで背中をトントンする。


しばらくそうしていると泣き疲れたのか寝息が聞こえてきた。


『寝ちゃったか……隈が凄かったからあんまり寝れなかったんだろうな。こうして大人しいと綺麗な人なんだけど。とりあえず寝室まで運ばないと……』


久々に身体強化の魔法を発動させて先生を持ち上げる。


『これは俗に言うお姫様抱っこってやつかな。』


先生を抱っこしたあと寝室まで運んで毛布を掛ける。


『とりあえずぐっすりと寝てるし……片付けしたら帰るかな。』


洗い物を終わらせゴミを纏めておく。


そして書き置き+プルーンを残して寮へと戻ることにした。


『何か聞ける雰囲気じゃなかったから何も聞かなかったけど、何か悲しいことがあったんだろうな。』


既に空は夕方だった。


夕食に間に合うように急いで寮へと戻った。


次の日。


俺は朝から驚くことに。


ぐっすりと寝ていた俺。


「起きろ。」


その一言と共に毛布が引っ剥がされた。


俺はそのままベッドの下に落ちる。


「いてて……」


あまりにもびっくりした寝起きだった。


でもさっきの声は誰だ?


顔をあげると部屋の中にはフィオナ先生がいた。


えっ?


「なんでフィオナ先生が!?」


なんか心なしか先生の顔が赤い気がする。


「はやく着替えろ。」


「えっ!?」


「聞こえなかったのか?」


先生の指先に炎が出現した。


よく意味が分からないまま急いで着替える。


「それじゃあ行くぞ。」


説明も無しに部屋から連れ出される。


「あら?フィオナ先生?朝早くに寮まで来てどうしたんですか?」


「ミレーヌか。ちょっとラグナを借りていくぞ。」


「え?えぇ、わかりましたけど……どちらに?」


「ちょっとな。ほら、いくぞ。」  


ミレーヌさんが戸惑って俺に目で訴えてくるけど……


俺もよくわかってないから首を振る。


先生に連れられて寮を出るとこれを持っておけと手渡されたのが外出許可書だった。


??


学園の外に行くってことか……?


でもどこに……


無言で歩く先生の後ろをついて歩く。


外出許可書を提出して学園の外へ。


あらかじめ待機していたのか馬車に乗り込むと、どこかへと進んでいく。


相変わらず先生は無言のまま。


ちらっと見ると手が震えてるように見えた。


そのまま馬車に揺られること数十分。


馬車が止まった。


「行くぞ。」


そう言葉を発した先生の顔色は真っ青だった。


相変わらず手も震えてる。


10歳の子供がすることじゃないんだろうけど……


先生と手を繋ぐ。


一瞬ビクッとしたがすぐにぎゅっと握ってきた。


先生に連れられて歩き続ける。


そして到着したのは石碑だった。


何人もの名前が彫られている。


先生は彫られていた名前を次々と手で触る。


「アンドレイ……フィム……ザッパ……ミーム……コンテア……サラフィム……バカが……何で……何で教えを守らなかった!命を一番に考えろと教えてきただろ!……くっ……うぅぅ……あんな奴らの為に無理する必要なんて無かったんだ……なんで……私が……私がアイツ等の策略に引っかからなければ……すまない……本当にすまない……」


石碑を抱きしめるように泣き続けるフィオナ先生。


『先生は以前軍に所属していた時の仲間を失ったのか……』


そっと先生を後ろから支える。


だからあんなにもお酒におぼれていたのか。


現実を受け入れることが出来なくて……


策略……


先生が首になったのは誰かに仕組まれていたのか……?


とりあえずは先生だ。


先生を振り向かせてぎゅっと抱きしめる。


先生もいろいろとずっと苦しんでいたんだな……


落ち着くまで昨日と同じ様に抱きしめ続けた。


1時間ほど泣き続けてようやく落ち着いた。


「いろいろとすまない。」


「僕は大丈夫です。気にしないで下さい。」


「そうか……ありがとう。」


ふっと笑う先生。


でもやはり悲しそうだ。


フィオナ先生の手をぎゅっと手を握る。


「……何も聞かないのか?」


「今はいいです。先生が話す気になったら教えて下さい。」


ぎゅっと抱きしめられる。


「ラグナ……一つ聞いていいか?」


「何ですか?」


「……お前は本当に10歳なのか?」


ん?


「何でそう思ったんです?」


ぷぃっと顔を背ける先生。


「10歳にしては女の扱いに慣れすぎてる。」


「そ、そう言われても……俺は10歳ですよ!?」


まぁ前世を含めれば30手前だけど……


「そうだよな。今のセリフは忘れてくれ。」


「今日の事は誰にも言うつもりはありませんよ。」


「……助かる。お前のおかげで何とか現実を受け入れることが出来た。話を聞いて以来、怖かったんだ。現実を知るのが……」


仲間の死か……


辛いよな……


「お前は居なくならないよな?」


周りに人が居ないことを確認する。


「大丈夫ですよ。僕は女神様の使徒ですからね。」


フンスと力こぶを見せるポーズをする。


「ふふふっ。そうだったな。おまえは使徒様だったな。これからもビシバシ鍛えていくからついて来いよ?」


「はい!これからもよろしくお願いします。」


先生の空元気に付き合う。


1日もはやく元気になって欲しい。

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