第137話

「ようこそ我がエチゴヤ商店へ。次代を担う若者達よ!」


ブリットさんの大歓迎に迎えられながら俺達はエチゴヤ商店へと到着した。


「……恥ずかしい。」


ミレーヌさんの顔が噴火したように真っ赤になってしまった。


クラスメイト達はブリットさんに案内されながら店内を回るらしい。


俺もついて行こうとしたら店の奥からサイさんがひょっこりと顔を出して手招きしてきた。


「ラグナ君、元気そうだね。」


「サイさん!お久しぶりです。王都に来てたんですね。」


「というよりナルタでの仕事は他の人に引き継いだんだ。これからは王都で父上の仕事を手伝っていく予定だよ。ラグナ君こそ、魔法学園の1年生は外出禁止って聞いていたのに今日はどうしたの?」


サイさんにも理由を説明する。


「そうだったんだ。おめでとう!そう言えばラグナ君、両親にお手紙とか一切送って無いみたいだね?2人とも寂しがっていたよ。きちんと送ってあげないと。」


忘れてた訳じゃないんだけど……


なんか気恥ずかしくて1度も送っていなかった。


「け、検討します。」


「まぁ気持ちは分からないでもないけどね。でもね、ラグナ君。人はいつか死ぬ生き物なんだ。それが今日かもしれないし、明日かもしれない。自分で後悔しない生き方をするんだよ?私は後悔してばかりだったから。」


そう言いながらサイさんは寂しそうにブリットさんとミレーヌさんを見つめる。


「さぁそれよりも、せっかくうちに来たんだ。皆と一緒に是非買い物をしていって欲しいな。それじゃあ私は仕事に戻るよ。」


そう言うとサイさんは仕事へと戻って行った。


『物凄い寂しそうな表情だったな……』


この時のサイさんの表情が目に焼き付いていた。


『2人に手紙……書いてみようかな。』


ラグナは皆と合流すると一緒に買い物をする。


「あ~、買いすぎたわ!あんなごっつぅ安くしてくれるんやもん。」


「流石にあれは買いすぎだよ、姉さん。あんなに買ってどうするの。」


「ちょっと買いすぎたかしら……」


「……私も。」


ブリットさんが特別料金と言い安くするもんだから皆あれこれと買っていた。


ルーはよくわからん魔道具やら触媒やらを買い込んでいたけど本当に使うのだろうか?


俺は両親に書く手紙一式に素振り用の木剣を購入。


あとは学園では売っていない細々としたものを。


ミーシャさん達も結構買い込んでいたけど、俺には化粧品やらなんやらは全くわからん。


「今日はうちの店に来てくれてありがとう!これからも、ミレーヌちゃんのことをよろしくね!」


「こちらこそ、ここまで安くしていただき本当にありがとうございます。」


ミーシャさんが深々と頭を下げてお礼を伝える。


続いて俺たちも感謝を伝える。


「「ありがとうございます!!」」


「ラグナ君、ミレーヌちゃんのことをよろしく頼むね。」


「わかりました。お任せ下さい。」


「頼んだよ。」


そう言うとブリットさんは俺の肩を叩いて店の奥へと消えていった。


エチゴヤ商店での買い物を終えた俺達は次の目的地へ。


ちなみにいろいろと買い込んだ商品は荷馬車で寮まで運んでくれるらしい。


リビオさんがその仕事をブリットさんに頼まれていた。


「いらっしゃいませ。」


目の前にはいろいろな種類のドライフルーツ。


以前ミーシャさんと共に訪れた『味のフルーツファーム王都本店』に皆で訪れていた。


「美味しそう……」


早速女性陣の目がキラキラし始めた。


そしてわーっと店内に散らばっていく。


「これ美味しそう。いくらだろ?」


早速シーヴァがドライフルーツの瓶を手に取り値段を確認する。


あっ、固まった。


そしてゆっくりと慎重に棚に戻していく。


「これ1瓶で大銀貨1枚……」


シーヴァが手に取ったのは以前俺が購入したプルーンだった。


「流石、高級店ね。とりあえず、これとこれを貰おうかしら。」


セシルは慣れた感じで店員さんに注文していた。


「アカン、エチゴヤで使いすぎてしもた。なぁ、テオ。可愛い姉ちゃんになんか買うてや~。」


「え~、やだよ。自分で買いなよ。」


「もう今月のお金ピンチなんよ。お願いや~。」


「仕方ないなぁ……安いの一個だけだよ。」


テオが姉の圧力に折れた。


「流石!愛してる!」


ルーがテオを盛大にハグしてる。


仲良いなぁ。


それぞれみんな1~2瓶のドライフルーツを購入していた。


流石に高級店なのでエチゴヤ商店の時と同じ様にあれもこれもと買い込むことは出来なかった。


俺はプルーンのドライフルーツを2瓶購入。


今回は皆も一緒に買い物をしていたので、お金については突っ込まれなかった。


「それじゃあ帰りましょうか。」


まだまだ昼過ぎではあるけど、散財し過ぎたので早めに寮に戻った。


「「お帰りなさいませ。」」


ちょうど寮に到着した頃、皆がエチゴヤ商店で購入した商品を寮の中に搬入している最中だった。


「それじゃあ、それぞれ荷物を受け取ったら各自の部屋に運び込もう。」


俺は手紙一式と木剣だけだったので、直ぐに片付けは終わった。


皆はいろいろと買い込んでいたので忙しそうだ。


俺はプルーンのドライフルーツ1瓶を包むと、ミーシャさんに出掛けてくることを伝えて寮の外へ。


『たしかミーシャさんの説明ではこっちだったよな……』


ミーシャさんに事前に場所は聞いていたので、特に迷うことも無く到着。


『でもまさか先生方の一部は学園の敷地内に住んでるとは思わなかったな。』


目の前にある一軒家はフィオナ先生の借家。


ドアをノックしてみる。


コンコン。


『……居ないのかな?』


コンコン、コンコン。


『ありゃま。居なかったか……』


フィオナ先生は留守みたいだ。


そう思って立ち去ろうと振り向いたら、ガチャリと扉のロックを解除した音が聞こえた。


「……誰だ。」


「ラグナです。」


「ラグナ?」


ゆっくりと扉が開く。


「こんにちは、フィオナ先生?ってどうしたんですか!?」


目の下にはくっきり隈が。


しかも髪の毛はボサボサ。


目は真っ赤。


これは泣いてたな。


さらに全身が酒臭い。


ふらふらもしてるからこれは碌にご飯も食べてないな。


「いや、何でもないぞ。それよりも今日はどうした?」


「どうしたじゃないですよ!先生がどうしたんですか。」


「私か?別に何でもないぞ。」


しらを切るつもりなら怒られてもいいや。


こんなん放っておくのなんて無理だ。


「本当は先生にプレゼント渡して帰ろうと思いましたけど、これは放置出来ません。お邪魔しますね。」


「お、おい!こらっ!」


強引に先生の部屋に入る。


俺のイメージでは部屋の中が荒れ放題なイメージだった。


実際は多少は散らかっているものの、室内は全然綺麗だった。


「一応私だって女なんだぞ。それなのに強引に入ってきて。」


「今の先生の姿を見て放っておける訳無いでしょ。先生、全然ご飯食べてませんね?」


心当たりがあるのかギクッとしてる。


「お、お前には関係ないだろ。」


「全く。ちょっと食材とキッチン借りますよ。」


先生の家のキッチンに向かう。


……見事に酒しか無いな。


「ちょっとこれは大人としてどうなんでしょう?」


「な、なにがだ。」


「お酒しか無いじゃないですか!」


「いろいろ忙しかったんだよ!」


「もういいです。ちょっと買い物してくるので先生はシャワーでも浴びてすっきりしてきて下さい。」


「あっ、おい!」


「いいですね?ちゃんとシャワー浴びて下さいよ。お酒くさいです。」


強引にシャワーを浴びに向かわせる。


そして部屋の鍵を借りて買い物に向かう。


「とりあえずサンドイッチとスープでいいかな。」


学園内にある商店でパンと食材を買い込んで先生の家に戻る。


「ただいま戻りました。」


先生はまだシャワーを浴びてるらしい。


水が流れている音がする。


『あんまりにも見てられなくて強引に動いちゃったけど後で髪の毛燃やされないよね……?』


ちょっと冷や汗が出てくるけど、ここまで来たら動くしかない。


買ってきたお肉にこっそりとスパイスを召喚して振りかけて揉み込む。


あと葉物野菜は綺麗に洗って水を切っておく。


ニンニクの皮を剥いてナイフで細かくみじん切り。


鍋に油をひいて香ばしい匂いがしてきたら玉ねぎもみじん切りにしたものを投入して炒める。


色が変わってきたら人参やジャガイモ、スパイスを揉み込んだお肉の一部を投入して炒める。


カレーのルーがあればカレーが作れそうだな。


火が軽く通ったら水をいれてスパイスで味を整えて煮込む。


煮込んでる間に残りのお肉を薄切りにして焼いていく。


パンに切り込みを入れてサラダとお肉を挟む。


後はスープの煮込みが完了したら料理は完成。


ガチャリと扉が開いた音がした。


「美味そうな匂いだな。」


先生がシャワーを浴びて上がったらしい。


「もう少しで完成するのでもう少し待って……ってなんて格好してるんですか……」


バスローブ1枚を羽織って椅子にドカッと座っていた。


あれは下着もなんもはいてないな。


「風呂上がりはこれが一番楽なんだから別にいいだろう?なんだ、子供の癖に興奮でもするのか?」


胸元をピラピラさせるんじゃない。


「いや……自分でもびっくりするぐらい冷静ですね。」


なんか疲れきっている先生が純粋に心配だった。


「なんだ、つまらん。」


スープの煮込みが完了したので味見。


「よし、こんなもんかな。」


パンとスープを盛り付けて先生の目の前に並べる。


「さぁ、どうぞ。」


さて……


これからどうするか……

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