第140話

この1ヶ月はまさに地獄だった。


俺達代表3人は残りのクラスメイト7人からの魔法攻撃をさばきながら動く的を狙う訓練。


魔力障壁も使えるようになった。


魔力障壁は魔法だけでなく物理攻撃もある程度防げる魔力の塊を発生させる魔法だった。


その代わりウォール系の魔法に比べると魔力消費が激しい。


まぁ半透明なので見やすいから便利なことは便利だけど。


ファイアーウォールとか炎の壁で見えないし、アースウォールは土だから視界が塞がれる。


ウォーターウォールとウィンドウォールは物理攻撃に弱い。


まぁ適材適所って感じかな。


後は身体強化魔法や接近された場合の為に組み手の訓練。


みんな魔力切れだけでなく筋肉痛にも苦しむことが多くなった。


そして1度だけ銀組や青組の生徒が俺達の授業を見学しにきた。


なんでも2クラスの担任が学園長に話し合いの為呼ばれたらしい。


そして今日1日だけは特級組がどんな訓練を行っているのか見学しろと、学園長直々に命令したらしい。


なので実際にどんな訓練を行っているのか見せることになった。


最初はおしゃべりしたり騒いでいた生徒も居た。


特級組の存在が気に入らない生徒が多いからね。


だが実際に行っている訓練を見て、他のクラスの生徒は喋るのを止めた。


魔法をひたすら捌くの俺達3人。


魔法を打ち続ける7人。


的当て訓練が終わったら、魔力切れ寸前まで身体強化魔法の訓練。


魔力が切れたら組み手で近距離戦闘練習。


銀組と青組の生徒はドン引きだった。


自分達が受けている授業内容と違いすぎる。


自分達は魔法の詠唱を習っては的に当たるように練習するだけ。


こんなにも自分自身が追い込まれる様な訓練なんてしていない。


授業終了間際にフィオナ先生が誰か体験してみるか?と銀組、青組の生徒に話し掛けた。


皆が首を振る中選ばれたのは彼だった。


唯一、ラグナ達が訓練中に騒いでいた生徒がいた。


平民に出来るなら僕も簡単に出来ると。


選ばれたのはラグナによく絡む例の生徒だった。


フィオナ先生から魔法をひたすらさばくと言う名の訓練体験ご招待。


無詠唱で発射される小さな炎が頭に着弾する度に髪の毛がチリチリになる。


もうイヤだ、ごめんなさいと言っても泣き叫んでも魔法は止まらない。


必死に逃げ回るが次々と炎が飛んでくる。


そしてすべての髪の毛がチリチリになるとようやく『訓練』が終了した。


『ほら。頑張った青組の生徒にみんな拍手。』と言い放ったフィオナ先生の笑顔は恐怖の象徴だった。


誰もが認識したであろう。


彼女に逆らってはいけないと。


それからと言うもの銀組や青組の生徒からは絡まれることが本当に無くなった。


むしろ避けられている様な気が……


「今日の授業はここまで。明日1日休んだら、いよいよ交流戦だ。ゆっくり休んで交流戦に備えろ。以上。解散する。」


今日は半日授業だったのであっという間に終わった。


「あっ、そうだ。ラグナ、この後職員室まで来い。」


??


何だろう……


「わかりました。」


フィオナ先生が教室から退出したので皆は帰宅準備をする。


「何か最近ラグナ君ってフィオナ先生に呼ばれること多くない?」


「確かに多いよな!フィオナ先生とラグナが出来てたりして。」


シャールが声をあげて笑う。


「むぅ……ラグナ君はフィオナ先生とお付き合いをしてるんですか?」


ミレーヌさんがど直球に恐ろしい質問をしてきた。


「逆に僕と先生が付き合うなんてありえると思いますか?」


「あるかもしれないと思ったから聞いてるんです。」


女性陣もミレーヌさんの意見に同意してるのかコクコクと頷いている。


まじか。


周りからはそう見えるのかな?


まぁフィオナ先生は嫌いではないけど……


「付き合ったりとかは無いですよ。ただ手伝いを頼まれてるだけですから。」


「……本当に?」


「本当ですよ。何にもないです。後シャール、笑ってたこと先生に報告しとくからな!」


「おい!それはダメだろ!ヤメろよ!」


「どうしようかな~。もしかしたら口が滑っちゃうかも。」


「それだけは本当にヤメてくれ!」


「あっ、そうだった。先生の所に向かわなきゃ。じゃあ皆、また後でね~」


シャールが教室でまだ何か叫んでいるが気にせずに職員室へと向かう。


職員室のドアをノックする。


「失礼します。フィオナ先生はいらっしゃいますでしょうか?」


「今向かう、廊下で待ってろ。」


そう言われたので静かに廊下で待っていると直ぐに先生が現れた。


「行くぞ。」


よくわからないけど先生の後ろをついて行く。


学園の建物から出るとそのままどこかへと向かう。


「私が教室を出てすぐに騒いだ声が聞こえたが、何かあったのか?」


何かあったと言われても……


「まぁくだらない話ですよ。」


「なんだ?私には話せないとでも?」


ちょっとピリッとした空気が広がる。


これは言うしか無いのか……


「……先生と付き合ってるのかと聞かれたんですよ。」


そう言うと一気に茹で蛸のように先生の顔が真っ赤になる。


「な、何を言ってるんだ、アイツ等は。年の差を考えろよな!」


キョロキョロと挙動不審になる先生。


こういう所は可愛いんだけど……


まぁ年の差は確かにどうにもならないし……


そして到着したのは先生の家だった。


「べ、別にやましい気持ちは無いからな!ちょっと待ってろ。」


そう言うと先生は家の中へと消えていった。


直ぐ出てきてほらと手渡された。


「これは……?」


古びた魔法書?


「それは爆炎魔法の魔法書だ。私は全て覚えたからな。今までの礼だ、お前にやる。」


爆炎魔法の魔法書……


「えっ!?こんな高価な物頂けませんよ!」


「元々は師匠から手渡された物だ。だから構わない。」


「だってこれは大切な品では……」


「だからお前にやるんだ。お前ならきっと覚えられる。大切に使ってくれ。」


そう言って微笑む先生は綺麗だった。


「わかりました。先生の期待に応えられるように頑張ります。」


ではと立ち去ろうとした時に上空に巨大な魔力を感じた。


咄嗟に身体が動いて先生を守るように移動していた。


「はぁ……なんだ、学園長だったか。」


「なんだとは何だ、失礼な。まぁ咄嗟の判断で動けたのは素晴らしいと評価しよう。だがお前より強者の者を守ろうとしてどうするのだ。」


まぁ確かにフィオナ先生の方が強いんだけど……


「身体がそう動いてしまったので……」


「フィオナはすぐに私の魔力に気がついて警戒を解いたけどな。むしろお前の行動にびっくりしたようだ。固まってるぞ。」 


えっ?


そう言われて振り向くと先生は確かに驚いた顔をしていた。


「べ、別に驚いてなどいない……」


「まぁ、そう言うことにしておこう。それよりも何故ラグナがフィオナの家に居るんだ?あの噂は本当だったのか?」


「えっと……先生について来いと言われて……」


噂?


噂ってなんだ?


「フィオナ……恋愛に興味が無いと言っていたお前が動いたのは喜ぶべきなんだろうが……生徒はいかんだろう。しかもまだ子供だぞ?」


「ちっ、違いますから!ラグナの手に持つ魔法書を見てください!」


ブンブンと手を振って否定する。


学園長は視線をラグナの手に持つ魔法書に向ける。


「魔法書……?これは爆炎魔法の魔法書じゃないか。良いのか?」


コクリと頷く先生。


「そうか。もう選んだのだな。次代はこいつに決めたのか。」


次代?


俺?


「それは一体どういうことで……」


「はぁ……お前はまだ説明してなかったのか?」


「こ、これから説明しようとしたら学園長が来たんじゃないですか。」


「なら教えてやるんだな。」


「その爆炎魔法の魔法書は誰もが修得できる訳では無いんだ。特殊魔法書と呼ばれている。魔法書を持つ人間が、心の底から次代と決めた人間のみにしか引き継ぐことが出来ない。他の人間が開こうとしても開けられないんだ。」


「えっ……そんなに大事な物を……」


思っていたよりも重大な代物だった。


「仮に……仮にですよ?僕が次代に引き継ぐ前に死んでしまった時はこの魔法書はどうなるんですか?」


「その場合は引き継ぐに足りる実力の持ち主が現れるまで自分を封印するらしい。魔法書が次代と認める人間が現れたらその人物の前に魔法書が召喚されるという話だな。まぁ実際にそうなるのかは見たことが無いから判らんが。」


「それにしても……はぁ、まぁいい。フィオナ、話がある。」


学園長がちらっと俺を見る。


「あっ、僕は帰るので構いません。先生、大事な物をありがとうございます。大切にします。」


「そ、そうか。気をつけて帰るんだぞ。」


先生と学園長に別れを告げて寮に戻る。


先生から手渡された魔法書を見る。


流石に残り1日では……どうにもならないよな……

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