第136話

今日は休日2日目。


とりあえずクラスメイト全員+付き添いでミーシャさんと普段はウィリアム担当のセリトアさんの合計12人で行動することになった。


皆も久々に学園の外に外出出来たのでそわそわしている。


「まずは買い物ですわね。でも本当にウチのお店でいいのですか?」


「むしろエチゴヤ商会に行くのが一番やないの。」


皆が頷いている。


何故エチゴヤ商会にこんなにも買い物に行きたがるのか……


これはルーからの入れ知恵だった。


もしかしたら普段は値段が高くて手が届かない商品もミレーヌちゃんと一緒に行けば安く買えるかもしれへんよ!


ミレーヌさんが居ない所で皆にそう持ち掛けていた。


皆も確かにその可能性はあるかもと納得してたけど……


果たしてそう上手くいくかな。


ミレーヌさんがブリットさんに直接お願いすればその可能性もあるんだろうけど……


王都の大通りをぞろぞろとお子さま達が並んで歩いていると、俺達の横を通り過ぎた馬車が突如止まった。


ん?


あの馬車はもしかして……


馬車の扉が開かれる。


そしてダンディーな男性が降りてくるなり第一声が……


「ミレーヌちゃーーーん!!」


馬車から降りてくるなりこっちに走ってくる男性……


それはエチゴヤ商会代表のブリットさんだった。


いつの間にかメイドの2人は身構えて生徒達の前に出ていた。


「お二方、大丈夫です。こっちに走ってきているのは私の父なんです……」


ブリットさんが走っている光景を顔を真っ赤にしながらミレーヌさんが見ていた。


うん……


あれは恥ずかしいよね………


護衛の人も慌てて追いかけてきた。


ってあれは……


「やっぱりミレーヌちゃんか!1年生は外出禁止って聞いてたけど、今日はどうしたんだい!?」


「2日前にクラス入れ替え試験があったのですが、私達『特級組』は誰1人欠けることなく好成績を修めることが出来ました。そのご褒美で1日だけ学園から出ることが許されたんです。」


「そうなんだ。あっ、ラグナ君も元気みたいだね。こないだはどうも。ミレーヌちゃんへの伝言を伝えてくれてありがとう。」


「こちらこそ、お世話になりました。」


「これからどこか行くのかい?」


「クラスの皆さんがウチのお店に行きたいと言うので向かっている最中です。」


「おぉ、それは大歓迎だよ!普段ミレーヌちゃんと仲良くしてもらってるお礼に特別料金にするから是非遊びに来ておくれ!」


やっぱりこうなったか。


「「ありがとうございます!!」」


皆にっこにこだな。


ルーなんて小さい声で『作戦通り!』って小さくガッツポーズしてるし。


「メイドさん達も同じ様に安くするから是非買っていってね。こうしちゃいられない!私は先に店に向かって支度してくるからさ。あっ、一応1人護衛を付けるから安心して向かってきてね。ではまた後で!」


マシンガントークを終えると護衛を1人残して馬車に乗り込み先にお店へと帰って言った。


顔が真っ赤なままのミレーヌさんがこっちに振り向く。


「父の恥ずかしい姿をお見せしました。」


本当にブリットさんって嵐のような人だよな。


そしてこの場に取り残された護衛はやっぱりこの人だった。


「リビオさん、久し振り!」


一瞬ビクッとしたけどすぐに俺に気がついたみたい。


「お、おう。ラグナもお嬢様と同じクラスだったか。少し背伸びたな。」


最近会う人みんなに言われるな。


少し背が伸びてきてるんだろうか?


リビオさんと合流してエチゴヤ商会へと再び歩き出す。


ルー達はあれやこれやすでに相談しあっている。


「ラグナ。」


「ん?どうしたの、ウィリアム?」


「お前はエチゴヤ商会の代表とも知り合いなのか?護衛の人とも知り合いだし。ミレーヌさんとは入学時から知り合いだったみたいだしな。」


「そうだよ。まぁ、本当にいろいろあったんだよ。いろいろあって、何とかブリットさんのお陰で命拾いしたって感じかな。」


まぁ辺境の子供が一流の商会の代表と知り合いって、普通に考えたらあり得ないからね。


「いろいろってなんだよ。言えないのか?」


「うーん……貴族絡みのゴタゴタに巻き込まれたっていうか…」


ちょっと思い出すだけでもテンション下がる。


「そ、そうか……なんか同じ貴族としてすまん。」


「もう大丈夫だよ。一応向こうからも謝罪されたし。」


シャールは聞き耳を立てていたらしく、話に入ってきた。


「お前、どんな目にあったんだ?」


「お、おい!」


「だって気になるじゃん。ウィリアムは気にならないの?」


「それは気にはなるが……」


「どんな目かぁ……ざっくり話すと、とある事件があって僕と父さんと村の仲間とエチゴヤの人と一緒に領主に報告するために町へと向かっていたんだ。向かい始めた1日目の夜に領主の私兵と出会ったと思ったら事件の犯人だと決め付けられて捕縛されてね。それから3日間も犯罪者の様に手をロープで結ばれて、ろくに食事も水も与えられないまま町へと連行されたんだ。」


改めて思い出すとイライラしてくるな。


「それってナルタの暴走事件じゃないか?」


ウィリアムが突然そんな事を言ってきた。


「「ナルタの暴走事件?」」


俺だけでなくシャールも知らないらしい。


「あぁ、ナルタの元領主一家がエチゴヤ一族の人間を犯罪者の様に連行し晒し者にした事件だ。父上が何か言っていたんだが思い出せん……冤罪がどうとかエチゴヤ一族の人間が死にかけたとか言っていたような気がするんだが……」


「たぶんその事件だよ。それに僕も巻き込まれたんだ。それにしてもウィリアムって結構いろいろ知ってるよね。何でなの?」


ウィリアムというかウィリアムの父上が凄いんだろうな。


「うちの父上は立場的に王宮に近いんだ。だからこの国で起きたことは自然と情報が回って来るのさ。」


王宮に近い? 


「ってことはウィリアムはやっぱりお偉いさんの息子ってこと!?」


「やっぱりて何だ、やっぱりって。父上が偉いだけで僕は関係ないさ。家は兄上が継ぐしね。」


ウィリアムとシャールとその後も3人で話しながら歩いていると目的地であるエチゴヤ商店へと到着した。


「ようこそ我がエチゴヤ商店へ。次代を担う若者達よ!」


ブリットさんが既に待ち構えており僕達は盛大に歓迎された。

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