第129話

「王都の神殿もナルタと同じ様に商業ギルドの上にあるんですね。」


「えぇ。基本的にどの国でもこの様な作りとなっております。商業ギルドとマリオン様の神殿が離れた場所にあると特許などを申請する際に手間も有りますし、申請書類を外部に持ち出すと盗難の危険も御座いますから。同じ建物にあれば盗難などの危険はございませんし。」


確かに特許の申請書類を奪われて代わりに提出されたら大変だもんね。


タチアナさんの後に続き神殿へと向かう。


ミーシャさんは神殿に立ち入ることが出来ないため申し訳ないけど商業ギルドで待ってもらうことにした。


神殿に入るとやはり空気が変わったのがわかる。


若い女性が近寄ってきた。


「タチアナ様、お帰りなさいませ。」


「私は商業ギルドに顔を出しただけですよ。そしてこの方が……わかりますね?」


若い女性がコクリと頷く。


「初めまして。私はマリオン様の神殿で司祭をしているアルレットと申します。お会い出来て光栄です。」


おぅ。


目の前で拝まれてしまった。


「あ、あの。僕はそんな敬って貰えるような人間ではないので……その、出来れば……」


やめて欲しい……


って言おうとしたら目があってしまった。


そんなウルウルした目で見ないで。


タチアナさんの方を見ると目を閉じて小さく祈っていた。


「拝むのだけやめて頂けると……」


「わかりました……気分を害してしまい申し訳ありません。」


深々と謝罪される。


正直、やりにくい……


「あっ、急いでお伝えすることがありました。マリオン様より先ほど神託があり、手が空き次第ラグナ様には祭壇の間に入ってきて欲しいとの事です。」


マリオン様からの久々のお呼びだしか。


なんだろ?


今日のミルクティーの事かな。 


2人に案内されて祭壇の間へと到着すると1人で入室する。


以前と同様にマリオン様の像の近くで目を閉じてお祈りする。


すぐに空気がまた変わったのがわかる。


目をひらくと……


ここは以前と同じマリオン様と謁見した場所だ。


以前は目の前にいる椅子に座っていたが今日は姿が見えない。


あれ?


マリオン様がいないぞ?、


部屋の机には特許の申請書類らしき紙が乱雑に置かれている。


当たりを見渡すけどマリオン様の姿が見えない。


「マリオン様?」


まじで居ないな。


人のことを呼んでおいて……


「後ろじゃ。」


急に後ろから声がしたので驚いて振り向くと久々に会う創造神様と所謂『土下座スタイル』でビシッと頭を下げている髪の長い女性。


その横には目線をあげて気まずそうにしているサリオラがいた。


「あっ、創造神様。お久しぶりです。」


とりあえず土下座スタイルの女性は見なかった事にして創造神様に挨拶する。


「うむ。久々じゃのう。少し大きくなったかな?」


「はい。今年で10歳になるのでこれからもっと成長してくれると嬉しいんですけど……」


「それは大丈夫じゃろ。まだまだこれからじゃよ。それよりもこの世界はどうじゃ?楽しんでおるか?」


以前なら楽しいって即答出来たんだろうけど……


「学園に入学して友と呼べる友人が出来たのは嬉しいんですけどね……」


「儂も時折見ておったよ。いろいろとあったようじゃのぅ。まぁその原因の一部はそこにいる駄女神が招いた事なんじゃが。本当に済まなかったのぅ。」


そう言うと創造神様が頭を下げる。


「いやいや、創造神様が謝ること無いですよ!この世界の貴族が腐ってるのがいけないんですから!……えっマリオン様が招いた……?」


駄女神?


「ラグナ君、君が学園に入学試験に手続きに行った時にひと悶着あったじゃろ?」


「えぇ……後で貴族の息子達である職員数人が僕だけでなく他の平民の子供達からもお金を巻き上げていたと聞きましたけど……」


「そうじゃな。詳しくは話さぬがその件をこの駄女神が見ておったようでな。自分のお気に入りのラグナ君を傷つけられたことに腹を立てて神殿を動かしたのじゃ。学園と国に圧力をかける形でな……全く、正式契約はサリオラだと言うのにこやつは……」


「マリオン様何してるんですか……」


若干呆れた目で土下座スタイルの女性を見る。


「圧力を掛けた結果、貴族が反発してラグナ君の元に暗殺者が差し向けられたんじゃよ。」


「あれって僕を狙ってなんですか!?」


たまたま狙われたって聞いてたけど……


「ラグナ君と揉めた男爵の息子から『もしかしたらアイツかも知れない。』とラグナ君の特長である黒目、黒髪の子供という情報を暗殺者は仕入れて探し出しラグナ君を襲ったと言う訳じゃ。」


「そうだったのですか……」


「まぁ例えこやつが圧力を掛けなくともお主を大事に思う人々が動いた事実は変わらぬであろうがの。一押ししてしまったのは事実なんじゃ。」


「ラグナ君、本当にごめんなさい。」


流石に女神の1人であるマリオン様に頭を下げさせたままってのも気まずい。


サリオラだって気まずいだろうし。


「少しは思うこともありますけど……僕のことを思って行動してくれたのも事実なんで、今回は謝罪を受け入れます。」


「ありがとう……本当にごめんなさい。」


マリオン様が顔をあげて俺を見てくる。


せっかくの美人の顔が涙で台無しだよ。


仕事がバリバリ出来るOLみたいでカッコイいと思ったりもしたけど、実際は残念女神だったのか。


「あれはラグナ君によく見られようとしてただけじゃ。本来はいつも何かをヤラカす残念な娘なんじゃよ。」


「あぅ……」


商業の女神なのに抜けてるって大丈夫なのかな……


「それは大丈夫じゃ。優秀な部下がついておるでな。」


あっ、考えが筒抜けだ。

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