第130話

「とりあえず、ラグナ君には何かお詫びをせねばいかんのぅ。」


その一言を聞いてビクッとするマリオン様。


「ラグナ君は何か希望でもあるかぃ?加護でも金銭でも武器や防具でも道具でも……こやつに準備させるからのぅ。」


金銭は特に困ってないし……


武器や防具って目立ちそうだし……


「まだ使ったことは無いですが、マリオン様からはすでに水中でも呼吸出来る加護は貰っていますし……」


うーん……


あまり無理に強請るのも気が引ける。


どうしよう……


少し考えて浮かんだのがこれ。


マリオン様にちなんでこれにしよう。


「マリオン様って海の女神様ですよね?ならば水属性ってことで、飲み水が何時でも作れる魔道具とかって作れます?」


ウォーターの魔法って魔力の効率悪いらしいし、長期摂取するとお腹を壊すって聞いたからな。


飲料水が作れたら便利だし。


創造神様がポカンと驚いていた。


「なんじゃ、そんなんで良いのか?もっと強請っても良いのじゃよ?」


「あまりにも強力なものを貰っても目立つだけですし……」


ただでさえ目立ってるからこれ以上目立つのも……


「ラグナ君がそれで良いならいいが……」


「飲み水に困らないって結構大事だと思うのでこれでお願いします。」


マリオン様も本当にいいの?って目をするんじゃない!


マリオン様の為にも必要かつ簡単そうなものにしたんだから。


「そんなもの気にしなくてもいいのにのぅ。」


考えが筒抜けだった!


「それでいいのでお願いします。」


「そ、それじゃあ作りますね。」


マリオン様が両手を掲げて何かを唱え始める。


青く光り輝くマリオン様。


そして両手を掲げた先には水が渦を巻きながら発光している。


今目の前で見ている光景は、本当に神秘的。


まさに女神様。


渦を巻いていた水が徐々に形を変えて変化していく。


そしてマリオン様に纏っていた魔力とは明らかに違う力が、その水へと集まっていく。


徐々に形が形成されて現れたのはキャンプの時に使うようなウォータージャグ。


きちんとコックまでついている。


「えっと……」


流石にこの形は驚いた。


「ラグナ君の記憶を以前見たときに、この様な形の道具があったので再現しました。いかがでしょう?」


いかがでしょうと言われましても……


「嬉しいのですが……まさかまたこの目で見れるとは思って無かったので驚いています。」


「それでは使い方を説明しますね。まぁ知っていると思いますがコックを捻ると飲料水が出てきます。流石に何の制限も無しに水が永遠に出続けると問題があるので制限はあります。」


「制限?問題?」


水が出続けると問題ってなんだ?


「不謹慎ですが、例えばラグナ君がこの神器で水を出している最中に魔物に襲われて亡くなるとします。知能が低い魔物ならばそのまま立ち去るでしょう。そうするとコックが開いている限りずっと水が出てくるんですよ?それが長い年月発見されなくずっと出続けたらどうなります?」


「場所によっては川や池が出来るかもしれませんね……」


「もしくはそれ以上が……ってなると困るので制限は付けてあります。って言っても魔力をこの神器に込めるだけですけどね。ちなみにラグナ君の魔力以外は使えないようになっていますから。」


さっきは聞き間違えかと思ってたけど気のせいじゃなかった。


確かに今『神器』って言ったよね!?


「それは仕方ないじゃないですか。女神だって神なのですから。自らが作り出した道具は神器になってしまいますよ。」


確かにそう言われてしまうと何も言えない……


「どうぞ、お受け取り下さい。」


マリオン様からウォータージャグ型の神器を受け取る。


「魔力を込める際は神器のどこかを触っていれば大丈夫です。特に指定はありません。」


ウォータージャグの取っ手を握り魔力を流してみる。


ファイアーボールの半分にも満たない魔力で止まった。


「今の魔力でだいたい100リットルくらい水が出ますよ。」


ウォータージャグの形状にはなっているけど容量はとんでもない量だった。


しかも重さは全く変わらないまま。


「あ、ありがとうございます。大切にします。」 


マリオン様には素直にお礼を伝える。


これで何が起きても魔力さえあれば水は確実に確保出来る。


普通にありがたい。


ウォータージャグを収納スキルでしまう。


そう言えば収納の中に母さんが作った大量の料理が入っているんだよな。


「ほぅ。母の味と言う奴かのぅ。」


パッとみると創造神様、マリオン様はちょっと心なしか目がキラキラしてる。


サリオラにいたってはゴクリと唾を飲んだ音も……


「も、もし母の手料理で良ければ食事でもいかがですか?」


創造神様が手を振ると一瞬にして円卓と椅子が現れた。


ちょっと驚いたけど次々と料理を収納から取り出して並べていく。


「それじゃあ頂くとするかのぅ。」


普通に箸を使って食事をする創造神様とマリオン様。


サリオラは箸が使いにくそうだったので、フォークを出してあげた。


「ありがとう。」


まさかの神様&女神様と食事をする展開。


マリオン様とサリオラは食事を口にする度にニッコニコ。


創造神様は『ふむ。』とか『ほぅ。』とか呟きながら食事を進めている。


円卓に出した料理があっという間に無くなっていく。


マリオン様とサリオラが寂しそうな目をするので追加で取り出していく。


「地上の料理を食べるなんて久々じゃのぅ。」


「私もですよ。」


「私は初めて。」


「神様達は普段の食事はどうしてるんですか?」


普通に食事をするんだろうか。


「儂らは食事など不要じゃからな。普段はあまり取ることが無いのぅ。たまーに、料理神が作ったものを食べるくらいか。」


「本当に久々に地上の料理を食べたわ。ヒノが生きていた時はたまに食べれたんだけどね。」


ヒノ?初代勇者様?


「これ、駄女神。」


「あっ。ごめんなさい。」


サリオラが少し暗い顔をする。


どうしたんだろう。


「大丈夫。なんでもないから。」


まぁ無理に聞かなくてもいいか。


「駄女神がやらかしたのに結局最後には食事までご馳走になってしもうたのぅ。儂からもお礼をせねばいかんな。」


そう言うと創造神様が俺の頭に触れた。


すると右目に暖かい何かが流れ込んできたのを感じた。


「鑑定の神眼をプレゼントじゃ。慣れてくれば魔眼よりも詳しく鑑定出来るようになるんじゃよ。」


まさか俺も鑑定出来るようになるなんて。


ちょっと魔力を流してみる。


『神界』『マリオンの部屋』『神器円卓』『神器椅子』『不明』『不明』『サリオラ』


「うわっ。」


頭の中に一気に情報が流れてくる。


すぐに魔力を流すのを止める。


「まぁ最初は慣れるまで大変かも知れんがラグナ君の役に立つ力だと思うぞ。」


確かに慣れるまでは大変かも。


「ありがとうございます。」


でも本当に役に立つ能力なので嬉しい。


むぅ。って声がするので声の主の方を見るとほっぺが膨れていた。


「私だって頑張って神器作ったのに!」


「子供か!!」


はっ!


女神様に突っ込んでしまった。


「お主がそもそもラグナ君に迷惑を掛けたんじゃからな!」


マリオン様が創造神様に叱られてしゅんとした。


見なかったことにしよう。


「久々にサリオラと会えて嬉しかったよ。」


「私も。それに地上のご飯美味しかった。ありがとう。」


喜んでもらえたみたい。


「まだ地上に呼べなくてごめんね。」


「仕方ないよ。わかってるから大丈夫。」


「そろそろいいかのぅ?」


「あっ、はい。大丈夫です。」


「それじゃあ地上に戻すかのぅ。」


あっ!


だいぶ時間が過ぎた気がする。


前みたいに騒がれたらどうしよう。


「大丈夫じゃよ。地上では5分も時が経過しておらんから。」


マリオン様の時とは違うのか。


「私じゃ、時間を遅くするなんて無理だもん。」


流石、創造神様。


「いろいろとありがとうございました。」


「こちらこそ、すまんかったのぅ。では元気に過ごすんじゃよ。」


「はい。頑張ります。」


眩しい光に包まれて浮遊感を感じた後に重力を感じた。


目を開けると祭壇の間に戻ってきていた。

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