第126話

あれからほぼ毎日教室で無詠唱での魔法の練習を行っていた。


まずは詠唱短縮から。


「まずは最初の『光よ』の部分だけを頭の中で詠唱。残りは声に出して詠唱して魔法が発動するように練習だな。」


これが中々難しい。


最初の1ヶ月の間はライトの魔法が教室のあちこちで暴発。


そのたび目がチカチカしていた。


オマケにずっと魔法の詠唱をしっぱなしなので帰る頃には魔力がスッカラカン。


ゾンビのようにフラフラとしながら寮まで帰ることもしばしば。


上級生の先輩達から特級組の面汚しと呼ばれたり、同級生から絡まれたりもしていたが、最近では絡まれることも無くなった。


まぁ訓練所にも行かなくなり、ひたすら教室で練習の毎日だからね。


訓練所に姿を現さない俺達に対しては、もう諦めたんだろうという声や担任があれだからなとフィオナ先生をバカにするような発言も目立った。


そんな日々を過ごしながら俺達はひたすら訓練を重ねていった。


徐々に詠唱を削っていき、練習開始から2ヶ月。


ようやく魔法名を唱えるだけで魔法が発動するようになってきた。


「ようやく形になってきたな。成功率はだいたい7割って所か。」


完璧とはいえないが多少上下はあるものの、全員がある程度まで出来るように成長した。 


「でもまだ歩きながら発動が出来ないんですけどね。」


そう、成功率7割って言うのは棒立ちで詠唱した場合。


歩きながら詠唱短縮で魔法を発動させるのがさらに難しい。


声に出して詠唱してもいいなら、動きながらでも走りながらでも発動させることは出来るようになってきた。


「まぁそれは仕方ないだろう。そんなに簡単に出来るもんでもないからな。どうせ試験は棒立ちのままなんだ。とりあえずはいいだろう。そろそろ無詠唱の訓練に進むぞ。」


そして試験まで残り2ヶ月。


詠唱短縮から無詠唱への訓練に移行した。


「最初は頭の中で詠唱して魔法を発動出来るように練習だ。最終的には一瞬で魔法をイメージして発動出来れば完璧だな。」


それからまた訓練の日々が始まる。


ライトって言葉を言わないだけでここまで難易度があがるなんて……


「眩しいっ!」


「キャッ!」


「うわっ!」


暴発の毎日がまた始まった。


「今日も疲れたなぁ。」


今日も授業が終わった後はすぐに寮に戻る。


「誰かさん以外はずっと限界まで魔力使ってるからな。」


「せやねぇ。あれだけ授業で魔力使ってるのに寮に帰っても魔力循環法やる魔力が余ってるのはラグナ君だけやもんね。」


最近は皆で庭に集まって魔力循環法をやる魔力すら余って無いほど使い切っていた。


ただ1人を除いて。


皆が庭で魔力循環法をやっているラグナを寮の窓越しに見つめていた。


「最近またあいつ魔力量増えてるな。」


「あんなん追い付けるか。化けもんだろ。」


「それは言い過ぎですよ、シャール君。それに私達だって魔力量はかなり増えてるじゃないですか。」


「そりゃまぁそうですけど……」


相変わらずシャールはミレーヌに弱かった。


テオは空気を読んで話をすり替える。


「そ、それにしてもなんでライトって言葉を言う、言わないってことだけでこんなにも難しいんだろうね?」


「言葉に出すと頭の中でイメージし易いからじゃないか?」


「せやね。言うと言わないでイメージの濃さは違うと思うわ。」


「……なら魔法をずっと見て覚えたらイメージしやすいかも?」


「確かに。やってみる価値はある。」


「でも、長時間魔法維持する魔力なんて、私達もう無いよ?」


「いや、1人居るじゃん。外で魔力循環法やるほど魔力が有り余ってる人が。」


室内で休憩している全員が改めて窓の外を見ると1人の少年が視界に入ってきた。


俺は最近、外でボッチで魔力循環法をやってる。


授業でガンガン魔力を消費してるから仕方ないとは思うけどちょっと寂しい。


自分自身でも思うけど最近また魔力量が物凄く増えてる気がする。


ギリギリまで使い切るのが物凄く大変になってきた。


「ラグナ君~。」


名前を呼ばれたので振り向くとミレーヌさんだった。


「どうかしたの?」


「ラグナ君に協力してもらいたいことがあるんですけどいいですか?」


「大丈夫だよ。何をすればいい?」


「それは中で説明しますわ。」


ミレーヌさんに連れられて向かった場所は寮の室内にある休憩所。


「皆さん、お待たせしました。ラグナ君が来て下さいましたわ。」


皆が椅子に座ってくつろいでいた。


「ミレーヌさんに呼ばれてきたけど、どうしたの?」


「ラグナ、まだ魔力量に余裕はあるか?」


ウィリアムがラグナの魔力量に余裕があるか質問する。


まだまだ半分くらいは余ってる気がするな。


「まだ余裕だけど。それがどうかした?」


「なら良かったわ。ラグナ君にお願いがあるんやけど……ベティーが。」


ベティーが俺にお願い?


珍しいな。


「俺にお願いって?」


ベティーの表情を見ると驚いているのか、目が見開いていた。


「……ルーに嵌められた。でも言い出したのは私だから仕方ない。」


一瞬ベティーがルーを睨むとルーは舌を出して笑っていた。


ルーがベティーをハメたのか。


「ラグナ君、ライトの魔法を維持しておいて欲しい。」


「ライトの魔法を?まぁ、いいけど

……急にどうしたの?」


「無詠唱の魔法は今までとは比べものにならないくらいイメージが大事な気がする。だからライトの魔法をよく見て観察して目に焼き付けてみたい。でも私達だと長時間維持できるほどの魔力は余ってない。だから出来ればラグナ君には魔法を維持してもらいたい。」


イメージを焼き付けるか。


確かにそういわれてみたら大事な気がしてきた。


「いいよ。僕も自分で観察してみるよ。」


皆が俺を中心に半円に椅子を置いて座る。


「それじゃあ行くよ。『ライト』」


ライトの魔法が発動して目の前に光の玉が現れる。


じっと皆で光の玉を見つめる。


「悔しいがやはりラグナが一番安定して魔法が発動してるな。見ているとよくわかる。僕が発動した時に比べて光の揺らぎが少ない。」


「せやな。自分との差がよう分かるわ。」


皆が俺の魔法をじっと見てる。


「ちょっと皆近いな。」


「だってよく観察するには近寄るしかないからね。」


「こっちにも出してよ、ラグナ君。」


「そっちにも?いいよ、ほれ。」


2つ目のライトの魔法を皆の目の前に出した。


…………


えっ……


「「あー!!」」


「あっ。無詠唱で出来ちゃった……」


「あっ、出来ちゃったじゃないわ!しかも2つ同時に発動しとるんよ!」


皆が騒いでいるけど一番驚いてるのは俺だから。

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