第125話

翌日から無詠唱での魔法の練習が始まった。


「今日から無詠唱での魔法の発動の練習をするぞ~。」


魔法の練習と言われても……


「先生、教室では生徒の魔法の発動は禁止なのでは……」


ミレーヌさんが今日も俺達の代わりに代弁をしてくれた。


「あれは火事などの事故が起きたら困るからだろう?なら大丈夫だ。今日からお前たちが練習するのはライトの魔法だ。ライトなら暴発しても、一瞬眩しいって思うくらいだからな。」


確かに教室が破損したりはしないんだろうけど……


ルールでは禁止されてるから微妙な所じゃないかな。


「まずは各自でライトの魔法を発動してみろ。」


詠唱を行いライトを発動させる。


「次は少しぼそぼそっと話す感じで詠唱してみな。」


声を小さくしながらみんな詠唱していく。


「あれ?」


「うまくいかない。」


「私もだ。」


声を小さくしただけでうまく魔法を発動することが出来なかった。


俺も発動自体はしたけど明るさが何時もより足りなかった。


「発動出来たのは1人だけ。まぁおまえの場合は若干力業っぽいけどな。それじゃあ問題だ。なんで発動出来なかったかわかる奴いるか?」


声を小さくしただけでうまく発動しない理由……


なんでだ?


クララが先生に指名される。


「こ、声の音量で魔力が上下するとか……?」


「ならクララ、いつもより大きな声で詠唱してごらん?」


「えっ?教室でですか……?」


「なんだ、恥ずかしいのか?」


「流石にちょっと教室で叫ぶのは……」


「大丈夫だって。ウチのクラス以外は朝から外で訓練だから。」


「わかりました……それならばやります。」


クララは観念したのかふぅとため息をはく。


いきますと言うと大声で詠唱を始めた。


「光よ!我を!暗闇から救いたまえ!ライト!」


大声というよりも叫びだな。


そして魔法が発動する。


「あ、あれ?」


見るからに消えそうな明るさ。


とても不安定な状態で魔法が発動した。


「なんでこうなったのかわかるか?」


クララは首を振る。


「わかりません……本当になんでだろ。さっきは出来たのに……」


皆も理由がわからなく首を傾げている。


「それじゃあなんで失敗したか説明しよう。それは意識の違いだ。」


「「意識の違い?」」


「あぁ、魔法を発動する際の意識の違いがこの結果に現れたんだ。」


意識の違い……


「最初普通に詠唱した時は何を考えながら魔法を詠唱した?ラグナ、答えて見ろ。」


何を考えながら?


「ライトの魔法が発動したときに出る光の玉を想像しながらですけど。」


うんうんと先生が頷いている。


……正解かな?


「皆も多少は違いがあるだろうがライトの魔法を想像しながら詠唱しただろう?」


生徒達が頷く。


「ならばさっきのぼそぼそした声で詠唱した時はどうだった?」


まずは小さい声で……


「あぁ、そうか。最初に小さい声でって意識してから魔法を詠唱してた。」


「確かに僕もそうだ。」


「私も。小さい声って考えてた。」


「つまりだ。ライトの魔法の前に小さい声でってイメージが先行してた訳だ。さっきのクララが叫んだライトも同じだ。大声を出すことに意識が向いてしまったから不安定な状態で発動した。まぁ普通は発動すらしないんだよ。お前たちの場合は魔力操作の能力を獲得したからな。それがサポートしてくれてるから不安定でも発動したような感じになってるんだ。」


「ってことは魔法の発動は意識が大事ってことですか?」


「あぁ。つまりこれが無詠唱に繋がって行くんだ。詠唱って言うのは、いわば魔法のイメージを言葉にして思考のサポートをしているような物なんだ。口に出して言えば意識しやすいだろう?例えばライトの魔法はこうだ。『光よ。』最初のこの言葉で魔法の属性のイメージが出来る。そして次の『我を暗闇から救いたまえ。』この詠唱で暗いところにいる自分を最初の言葉で唱えた光属性に救って欲しいイメージになる。んで最後の『ライト。』これがトリガーとなり真っ暗闇に光の玉が浮かんでその輝きにより自分を暗闇から救ってくれるイメージが完成。それを魔力を流して再現してるって訳だ。」


つまりは魔法発動時のイメージが大事ってことか。


「まずは『光よ、我を救いたまえ』までを頭の中で詠唱して最後のライトだけ口に出して言えるように訓練だな。これが詠唱短縮って奴だ。見てろ。『ライト』」


先生がライトとだけ言うと光の玉が浮かび上がる。


「今のが詠唱短縮。これならば無詠唱に比べて若干魔法の威力があがり魔力の消費量も通常の1.2倍程度で済む。戦場などで使われるのはこっちが多いな。」


戦場では遠距離からの攻撃には詠唱を行い魔法を発動させる。


しかし奇襲や騎士達の間をすり抜けてきた敵の迎撃にはいちいち詠唱していたら発動が間に合わない。


そこで開発されたのが詠唱短縮。


最後のトリガーである魔法名のみを読み上げるだけで魔法が発動する。


「詠唱短縮にも欠点はある。何かわかるか?」


何だろう。


接近されてから反撃するために生まれた魔法に欠点?


ミレーヌさんと目があったけど首を振っている。


うーん。


魔法名……


あぁそうか。


「接近されている相手にどんな魔法を使われるのかバレちゃうのか。」


「そうだ。それが欠点。目の前の魔法師がファイアーボールなんて唱えたら、騎士であれば対処など容易い。わざわざ丁寧に今から使う魔法を教えてくれるんだからな。」


今からファイアーボール使いますよーって敵に教えてたら意味ないよな。


だからこその無詠唱なのか。


「そこでさらに進んだのが無詠唱。無詠唱ならば接近された敵に気が付かれることなく魔法が発動出来る。まぁ倒せないまでも接近出来ないように牽制くらいにはなるからな。戦場ではこれが出来る出来ないで生死が変わってくる。撤退戦でも無い限り、無理して接近してきた騎士を1人で倒す必要なんて無いんだ。時間を稼げば稼げるだけ味方が助けにきてくれる可能性もあるんだからな。しかし苦労して無詠唱を覚えても威力が低いので、現状は無詠唱を覚えない魔法師がほとんどなんだ。詠唱短縮で充分だってな。自分の引き出しが多ければ多いほど生き残れる確率は上がるって言うのに。」


威力が低いから覚えないって魔法師が多いのか。


引き出しが多ければ多いほど生き残れる確率があがるって言うのには納得だよ。


「ちなみに無詠唱で発動した魔法で騎士を倒す方法も無いわけでは無い。」


無詠唱だと威力が減衰するから騎士達には嫌がらせ程度にしかならないって……


「ファイアーボール。」


先生が詠唱短縮で口にしたのはファイアーボール。


しかし発動した魔法に俺達は驚いた。


「なんで??」


目の前に現れたのは火の玉ではなく光の玉。


ライトの魔法だった。


「これが接近してきた騎士を倒せるかもしれない方法だな。口では他の魔法名を唱えて詠唱短縮に見せかけて無詠唱で違う魔法を発動する。1回っきりの騙し技って奴だ。接近されているのに、詠唱短縮をした時点で魔法師としては2流だと敵に勘違いさせて油断させる。そして違う魔法を放つとこれが面白いように決まるんだ。」


確かにそれは騙されるだろうな。


「先生は戦場で敵に接近されたことがあるんですか?」


「そんなん数え切れないくらい多いぞ。私が軍に居たときの肩書きを知っているのも居るだろう?」


先生の肩書き……


確か……


第2魔法師団特攻隊長……


よく考えてみたら魔法師なのに特攻……?


「魔法師なのに特攻……よく考えてみたらこの名前は魔法師としては変ですよね。魔法師なのに特攻って……」


基本的に魔法師は後方から魔法をぶっ放して騎士を援護するのがメインのはず……


特攻ってことは自ら前線に突き進んでいるってこと?


「私がいた部隊が何故特攻部隊だったのかと言うと騎士団の騎馬隊と共に魔法師も馬に乗りこんで一緒に突っ込んで行くからな。」


魔法師が馬に乗って突っ込んでいく……?


「先生が隊長になってから兵の損耗率が下がったと伺ったことがあるんですが……特攻部隊なのに……よくよく考えてみたらおかしいですよね、それ。」


「なんでそう思う?」


「だって前線ですよ?敵に接近するってことはそれだけリスクが高くなるのに何故損耗率が下がるんですか?」


矛盾してる。


普通なら接近してるんだから死ぬ確率だって増えるはず。


それが損耗率が下がるなんて意味がわからない。


「そんなん簡単だ。敵に接近している分、魔法の射程に入るんだぞ?まだ魔法は届かないと油断している敵を狙うには充分だろ。馬に乗りながら部隊全員で範囲魔法をぶっ放すとたまらないぞ。魔法はまだ来ないから、これから敵に突っ込むぞって意気込んでいる奴らの鼻っ柱をぶん殴れるんだからな。相手の出鼻をへし折ってからうちの騎士が突撃する。それが私のいた部隊の役目だった。」


魔法師がわざわざ馬に乗って接近してくるなんて考えつかないよな。


前線の出鼻をへし折った後は魔法が届かないと奥で油断している部隊に対して、魔法をぶっ放した後に後方へと帰還するらしい。


敵に嫌がらせをして敵陣を荒らすだけ荒らしたら後方へと立ち去るなんて嫌がらせが半端ないな。

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