第124話

「魔力操作と魔力効率アップの件は他の人間には秘密にしておけ。お前達が今後も特級に居たいならな。」


確かにその2つの能力を持っていればかなり有利にはなるけど……


「先生はそれでよろしいのですか?その……師匠が発見したことが正しいと私達で証明出来たのに……」


「構わんよ。元々は師匠が正しかったと証明する予定すら無かったんだからな。すでに師匠は他界しているし。だからミレーヌ、私はこの件で騒ぐつもりは無いよ。師匠が間違って無かったとお前たちが証明してくれたんだ。私にはそれで十分さ。」


「そうですか……皆さんはこの件どうしますか?」


気がつけばミレーヌさんがクラスのまとめ役になっていた。


全員で話し合いの結果、この件は黙っていることにした。


「そういや、今日は他のクラスの奴らがまだ訓練場に来ていない。つまり……お前たちがこうやって魔法を発動出来るのを知らないって訳だよな。」


先生がニヤリと笑う。


「いいことを思いついた。入学半年後の試験まで残り4ヶ月。お前たちが初級魔法を完璧に発動出来るのを他のクラスには内緒にしておかないか?」


先生が突然言い出した内容にみんなが驚く。


「何故その様なことを……?」


「だって考えても見ろよ。他のクラスはお前たちがここまで完璧に初級魔法を発動出来るの知らないんだぞ?ずっと基礎訓練しかして来なかったからな。つまり大したこと無いって侮ってる訳だ。ちなみにお前たちは入学半年後の試験が何か知っているか?」


全員が首を振る。


「そうか、まぁ他のクラスの奴はもう聞いているらしいからお前たちにも伝えておく。新入生1回目のクラス入れ替え試験は個人戦だ。試験会場は学園に併設されている競技場。初代勇者様によって考案された数々の試験のうちの1つが今回の試験内容だ。魔道具により次々と現れる的を制限時間内にどれだけ破壊出来るかによるスコア勝負。ちなみに最初は的が静止しているがある程度の数を破壊すると動き出すらしい。まぁこればっかりは私も見たことが無いからなわからんけどな。」


まるでシューティングゲームだな。


しかも的を破壊ってことは連続で次々と魔法を発動しなきゃいけないってことか。


「この試験は次々と現れる的に対して魔法を連続に発動させて正確に打ち抜いていかなければならない。ボール系の魔法で的を1つ1つ破壊するもよし。範囲魔法で一気に破壊するもよし。やり方は自由だ。まぁ入学半年で範囲魔法まで発動出来る奴なんてほとんどいないだろうな。可能性があるとすれば1人だろ。」


そう言うと先生を含めて全員が俺を見てくる。


「まぁ確かにラグナ君なら……」


「範囲魔法を連続でぶっ放してもケロッとしてそうやな。」


「まぁラグナの魔力量なら初級ランクの範囲魔法を時間いっぱいぶっ放しても余裕じゃないかな?」


いやいや、みんな何を言ってるんだ。


「やだよ、そんなこと。絶対に目立つじゃん。」


「「何を今更!」」


「入学試験の時に魔法剣と魔法の2つを発動させた人間とは思えないな。」


「ラグナ君はもう手遅れやないか?」


「入学式で次席の時点で注目されてるでしょ。」


ベティーまでコクコクと頷いている。


「まぁ今回は範囲魔法を使わなくても余裕だろうからな。先ずは光魔法のライトを発動出来るかやってみせてくれ。」


全員でライトの魔法を詠唱する。


すると小さく明るい光の球が浮かび上がった。


「よし。これならいけるな。一旦教室に戻るぞ。」


先生の指示に従い自分達のクラスへと戻る途中に銀組の生徒達とすれ違った。


「おや、フィオナ先生じゃないですか。特級組は今日も基礎訓練ですか?苦労しますねぇ。」


銀組の担任にフィオナ先生が絡まれていた。


銀組の生徒達も俺達を見ながらクスクスと笑っている。


本当に俺達のことを見下してるなぁ。


シャールは下を向いてグッと我慢していた。


そうだよね、またチリチリにされたくないもんね。


「苦労ですか?いやいや、先生に比べたらまだまだ。そちらこそ大丈夫ですか?苦労している様子ですが。」


そう言うとフィオナ先生はわざとらしく銀組の担任の頭頂部に視線を送る。


「日の光が何やら眩しいですねぇ?今日はいい天気だこと。」


続けざまに煽るフィオナ先生。


「し、失礼する。時間が勿体ないのでな!」


銀組の担任は顔を真っ赤にしながら自分のクラスを引き連れて立ち去っていった。


「あのおっさんは私に口喧嘩で勝てるとでも思ってるのか?まぁ実力でも負ける気はしないがな。」


フィオナ先生に対しては何も言えないので俺達は大人しく苦笑いしていた。 


それじゃあ戻るかと改めて教室へと戻った。


「それじゃあ試験まで残り4ヶ月。お前たちに無詠唱での魔法の発動を覚えてもらう。」


「む、無詠唱ですか?」


まさかの提案に驚きが隠せない。


「あぁ、無詠唱だ。コツさえ掴めれば割と簡単だと思うぞ?」


無詠唱が簡単?


流石にそれはどうだろう。


「とりあえず無詠唱についてメリット・デメリットを話しておこう。メリットについては簡単だな。魔法の発動に詠唱がいらない。つまりすぐに発動出来るのが最大のメリットだな。逆にデメリットについて。お前たちは知っているか?」


無詠唱のデメリットか……


よく考えてみれば俺はスキルの発動はすでに無詠唱でやってるんだよな。


最初はいちいちスパイス召喚って口に出してたけど、最近だとそう思うだけで出てきちゃうし。


魔法と同じなんだろうか?


ウィリアムが手をあげる。


「デメリットは詠唱時に比べて威力が落ちることです。」


「1つはそれだな。後は?」


「あ、後……?他にもあるんですか?」


みんなも必死に考えているけど思い浮かばないらしい。


ちなみに俺は全くわからん。


「なんだ、わかんないか?無詠唱には威力が落ちる以外にもう2つデメリットがある。1つは魔法発動時の魔力量が詠唱時に比べて格段に跳ね上がる。まぁ体感的には1.5倍~2倍くらいは多めに魔力が必要になるな。そしてもう1つ。無詠唱魔法は初級魔法にしか適していない。中級魔法以上となると詠唱自体が複雑になるので無詠唱だと失敗のリスクが劇的に跳ね上がる。只でさえ魔力消費量が多い上、魔法発動に失敗して魔力だけが無駄に減ったり、暴発なんてしたら目も当てられないだろ。」


中級の範囲魔法を暴発なんてさせたら味方への被害も凄そうだもんな。


「先生は中級以上の魔法を無詠唱で発動させたことはあるんですか?」


「私か?一度だけ試したぞ。盛大に暴発させたよ。あれは部下が見守ってたから助かったものの、近くに誰もいない状態でやってたら死んでたな。」


先生が笑いながらくわしい失敗談を語ってくれた。


その失敗の内容に俺達は顔が引きつってしまった。


失敗する可能性が大きいのに爆炎魔法でチャレンジしたら暴発して先生もろとも爆発したなんて笑いながら言われても……


俺達は決して危険なチャレンジはしないように心に刻んだ。

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