第123話

「よーし、お前ら。全員一列に並べ!」


俺達は先生の指示に従って一列に並ぶ。


目の前にあるのは10個の的。


「このクラスには初級火魔法が使える奴は居なかったよな。ちょうどいい。全員ファイアーボールの詠唱はもちろん覚えているよな?」


ファイアーボールの詠唱は授業で習った。


でもなんで突然。


「それじゃあ全員、ファイアーボールを発動させて目の前にある的を狙ってみろ。」


「「えっ。」」


全員が先生の一言に唖然とする。


「さ、流石に魔法の発動を成功させたことが無い属性の魔法を使ってみろと言われましても……」


ミレーヌさんが皆の気持ちを代弁してくれた。


「いいから、言われた通り発動してみろって。」


流石にこれ以上逆らうと髪の毛が犠牲になりかねないので杖を構える。


「「「火の球になりて貫き焼き尽くせ、ファイアー

ボール」」」


10個の火の玉が現れた。


そしてそれぞれが杖を振るうと火の玉は的に向かって飛んでいく。


火の玉は的に着弾。


的が10個全て地面に倒れている。


…………


この異質な光景にあまりにも驚いてしまい思考が停止する。


全員が一発成功って意味がわからん……


「やはりな。師匠は間違っていなかった!」


フィオナ先生は全員が成功したことにとても喜んでいるようだ。


生徒達も停止していた思考が動き出す。


「せ、成功した……」


「ここまできちんと発動するなんて……」


「今のは協力魔法やない。ウチの力だけで発動出来たんや……」


この2ヶ月間は生徒達にとってはとても辛い日々だった。


下位クラスはどんどん先へと進むのに、自分達だけはずっと基礎練習。


でもフィオナ先生には決して逆らうことが出来ないので、指示に従うしか選択種は残されていなかった。


辛かった日々が今こうして報われた。


「本当に、2ヶ月よく耐えたな。」


フィオナ先生は1人1人褒めながら頭を撫でていく。


「先生は全員成功する事をわかってたんですか?」


「確定では無かったがある程度はな。実はこの修行方法は私の師匠が編み出した物なんだ。」


「先生の先生ってことですか?」


「あぁ。話せば長くなるけどいいか?」


皆で『はい。』と返事をする。


するとフィオナ先生は優しい顔つきで過去を話し始めた。


「師匠はシーヴァと同じ鑑定魔眼持ちでな。元々は軍人で第2師団の隊長の1人だったらしい。年齢を重ねて引退。引退後は経済的に困窮している家庭の子供達に無料で学問を教えたり魔法を教えていたらしい。そして師匠は教師の真似事をしながらあることを発見したんだ。数ヶ月間ひたすら基礎練習を続けた子供達が次々と魔力操作と魔力効率アップの能力に目覚めたことに。検証を重ねた師匠はこの事を魔法の学会にて公表した。当時はとても騒ぎになったらしいぞ。魔力操作と魔力効率アップを所持していると魔法師としての実力が格段にあがるからな。」


「確かに。」


「私達がたった2ヶ月でここまで成長出来たのは、この2つの能力の力が大きいと思います。」


「でもこんな方法で覚えられるなんて聞いたことがありませんよ?」


先生は悲しそうな顔をする。


「当時の魔法師達は2つのスキルを覚えられるならと基礎練習をやったらしいぞ。だが覚えた人間は1人もいなかった。何故だかわかるか?」


俺はわからないけど皆は確実に覚えたし……


何でだろう。


皆も答えがわからなく首を振る。


「考えてもみろ。すでに1人前の魔法師として活躍している人間が数ヶ月間も真面目にひたすら基礎練習なんてすると思うか?」


しないな……


「絶対にしませんね……」


「お前達だって私が指示しなかったら真剣にやらなかっただろう?」


数人がギクッとした顔をする。


「ろくに訓練しなかった癖にスキルを覚えられなかったと、魔法師達は師匠を激しく糾弾したんだ。そして師匠は魔法師の資格を剥奪された。その後は王都を去り各地を転々としていたんだ。そんな時に出会ったのが私だ。師匠がうちの領に流れ着いた時に出会ったのが私だった。当時の私はこの学園の入学に失敗した落ちこぼれだったんだ。」


俺は知らなかったけど先生は爆炎の魔法師としていろいろな意味で有名だった。


そんな人がこの学園の入学に失敗していたことを皆は驚いていた。


「私がここまで魔法を使えるようになったのは師匠のおかげだ。師匠と出会えていなかったと思うとゾッとするな。私は学園の入学に失敗した時点で家族からは居ない子。存在しない子として扱われていたんだ。母屋には近寄ることすら許されず、領地の隅に作られた小さい小屋のような場所に住まわされていた。食材と僅かな小遣いだけが定期的に届く。そんな感じだ。まぁ捨てられなかっただけマシだがな。当時の私は小屋の近くにある森で必死に魔法を練習していた。悔しかったからな。その光景を師匠は見ていたらしい。」


思っていたよりも先生は苦労してきたんだな……


「基礎も学も何もない子供が必死に魔法を発動させようとしているのを見ていた師匠はだんだんと我慢出来なくなり、森で練習していた私の前に突然現れると口を出してきたんだ。」


『お前に本当の魔法ってのを教えてやる』


「ってな。当時の私は警戒したさ。突然薄汚い格好をした爺さんが現れたんだぞ?警戒するのは当たり前だろ。」


確かに突然知らない人が現れたら警戒はするよな。


「だけど警戒心なんて一瞬で吹き飛んだよ。街のすぐ近くの森だと言うのに空に向かって放たれた爆炎魔法を目の前で見たときにな。それからずっと師匠と2人で生活しながら、魔法だけでなく軍師に必要な知識や医療に対する知識も授けてくれたんだ。家族も私の家に爺さんが住み着いたのは把握していたらしい。まぁその件については何も言っては来なかったけどな。」


入学に失敗すると家族から捨てられるって本当にあるんだな。


「師匠から学び初めて8年。ただでさえ高齢だったからな。ちょっとした風邪をこじらせただけであっさりとお迎えが来ちまった。85歳だったから仕方なかったんだろうな。以前から師匠に何かあったら棚を見て欲しいと書いてあったので調べると、鍵と冒険者ギルドのギルドカードと数枚の書類と遺言書が入っていたんだ。遺体については遺言書に記載があるように守護の女神の神殿に頼み処置してもらった。家族にはもう18歳だし、独り立ちして王都へと行くと伝えたら縁を切れと言われたんで多少の金銭と書類を受け取り王都へと移動。王都の役所で今までの家名を破棄して師匠の遺言書をちょこっと細工して師匠の家名を貰ったんだ。養子で入る形にしてな。だからパスカリーノって家名は本来師匠の家名なんだ。このことを知っているのは当時から軍にいた一部の人間のみだけど。」


俺達はそれからも先生の話を大人しく聞き続けた。


師匠の遺産と屋敷を譲り受けたこと。


王都での生活基盤を整えたあとすぐに軍に入隊したこと。


学園長は当時パスカリーノと名乗る女が軍に入ってきたことに驚いて先生に会いに行ったらしい。


かつての部下であり、入隊したばかりの新兵時代から、ここまで自分を鍛えてくれた恩人のような人に家族が居たなんて聞いたことが無かったから。


その時に遺言書を見せて話をしたのがきっかけだったらしい。


入隊してすぐに第2師団に引き取られて学園長直々に鍛えてもらったとか。


そして入隊して僅か4年で隊長まで上り詰める。


「そのあとは以前話をした通りだ。軍を首になってここにいる。」


本当に先生も中々厳しい人生を送って来たんだな。

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