第118話

「それじゃー、授業始めるぞー。」


なかなか寝付けなかった俺は若干寝不足のまま初めての授業に参加していた。


それにしても初めての授業は何をやるんだろ。


「まずは教科書を閉じろ。こんなんいらん。」


そう言うとフィオナ先生は教科書を投げ捨てた。


あまりにも意外な行動に驚く一同。


「ん?魔法の教科書なんかいらんだろ。あんなマニュアル通りの動きしか出来ない人間なんて必要か?」


反抗すると後が怖いので先生の指示に従い演習場へと向かう。


「まずはお前たちの実力を見せて貰おうか。まずは……そうだな、一般入試組からにしようか。そのあとは特別入試組の順番で。あの的を狙ってみろ。」


試験の時と同様に5メートルほど先に的が設置されていた。


シャール、ウィリアム、セシルの3人が一般入試らしい。


「風よ、敵を吹き飛ばす塊となれ、ウィンドボール!」


シャールが風魔法のウィンドボールを発動させる。


時間をかけて徐々に風が集まり球体になっていく。


「い、いけ!」


杖を前に突き出すと風の球が発射された。


しかし2mほど突き進んだくらいで風の球は消失していった。


1回の魔法を発動させただけで汗びっしょりになっている。


次に前に出たのはウィリアム。


杖を前に出して魔力を丁寧に練っている。


そして詠唱する。


「光よ、我を暗闇から救いたまえ。ライト!」


ぽわぁっと弱々しい光が現れる。


しかし徐々に点滅していき消失した。


うーん……はっきり言って微妙だ。


ウィリアムも発動した後は疲れきっている。


最後はセシル。


セシルは杖を前に構えると詠唱を始めた。


「風よ、我を守る壁となれ!ウィンドウォール!」


詠唱を終えたと同時に前に突き出していた杖を上に振り上げると風が上方向に広がった。


でもウィンドウォールってどうなんだろう。


土と違って風だと物理攻撃に弱そうだよな。


3人の中では1番うまいんじゃないだろうか。


「一年生だとこんなもんか?まぁいいや。次は特別入試組な。あっ、ラグナは最後で。」


皆の視線が一斉にオレに向く。


「……わかりました。」


まずベティとクララとミレーヌの3人は入学試験と同じ魔法を披露する。


先生は3人の魔法をただ見てるだけ。


特に褒めたりもしない。


そして双子の2人が一緒に前に出てくる。


「お前達はあれか、いいぞ。」


2人が杖を交差する。


おぉ、魔力がちょっと揺らいでるのが分かる。


そして2人は全く同じ動作で手に持つ杖をドンと地面に叩きつける。


「「土よ、暴れ狂う大地となれ!アースクエイク!」」


地面が揺れながら一直線に的に向かって行く。


不思議な感じだな。


的まで一直線に一定範囲の地面だけがうねうねと揺れてる。


そして的まで届く。


バタン


的が根元から倒れた。


「ほぅ。協力魔法とはいえ、的まで届いただけじゃなく倒すとはなかなかやるじゃないか。」


「「はぁはぁ、ありがとう、ございます。」」


本当に2人とも息ピッタリだな。それに協力魔法?また知らない言葉が出てきた。


そして次はシーヴァさんの番か。


そう言えば赤と青の瞳のオッドアイのどっちが魔眼なんだろう。


「まずはお前か。そうだな、私に掛けて見ろ。」


「わかりました。……ふぅ……行きます。」


左目の赤い方の瞳が赤く光り輝く。


「……鑑定。」


一瞬先生に向けて光が発射された。


なんか映画のスキャンのシーンみたい。


「フィオナ・パスカリーノ 28歳 彼氏無し 身長165cm 体重とスリーサイズは伏せておきます。 火魔法の上位である爆炎魔法を使用可能。現在レベル85。以上になります。」


おぉ。なんかゲームのキャラ説明文みたい。


しかもレベルって概念もあるのか。


「おぉ、久々に鑑定されたけどレベルが上がってるな。」


ミレーヌさんが手を上げて質問する。


「先生、レベルとは何ですか?」


「ん?レベルか?あれは神々が我々人間の強さを数値化した物だと言われているな。まぁ如何せん鑑定の魔眼持ち自体が貴重だからな。あんまりよく分かってないのが現状だな。」


そのあと何かを思いついたのかニヤリと笑う。


「なぁ、シーヴァ。まだ魔眼使えるか?」


「あと1人くらいなら……」


先生と目が合う。


嫌な予感が……


「後1人いけるのか。そうか……それじゃあラグナを鑑定出来るか?」


シーヴァさんはギョッとした顔をした。


「か、彼ですか……?」


「あぁ、あいつだ。」


「えっと……」


「なんだ、出来ないのか?」


先生の機嫌がちょっと悪くなった雰囲気になった。


怪しい、たぶんあれ絶対演技だから!


「や、やります。」


シーヴァさんが俺の方を見る。


「か、鑑定。」


オレに向かって光が飛んできた。


眩しいのかなって思っていたけど全く眩しくなかった。


不思議な感じ。


「ヒィッ!!」


まただよ。オレを見たらそのリアクション。


ミレーヌさんを含めて皆が俺を見てくる。


「何かあったのか?」


ニヤニヤしながら先生が話し掛けてくる。


「い、いえ……ただ結果が……」


「どうした?分からなかったのか?」


「……これを公表しても良いのかと……」


「大丈夫、大丈夫。鑑定結果をバラすような奴がこのクラスに居るわけないだろ。そうだな……バラした奴がいたら私がそいつをどんな立場の人間だろうが焼き殺す。だから大丈夫。」


焼き殺すと言った時にこっちへと殺気が飛んできた。


皆は身体がガタガタ震えて顔色が真っ青になっている。


「やっぱりお前だけはケロッとしてるな。流石、実戦を済ませてるだけは有る。」


俺に対してニヤニヤが止まらない先生。


「ほら、はやく皆に教えてあげなよ。」


「は、はい……ラグナ 9歳 身長131cm 体重29kg  ※※※※の加護 マリオンの加護 以下※により情報封鎖。以上です……」


転生したとかは一切伏せられたからまだ良かったけど加護が2つあるのは皆にバレた……


加護2つなのはエチゴヤにも言ってないのに!


しかも情報封鎖って怪しさMAXじゃないか!


シーンとなる同級生。


ミレーヌさんでさえ驚いていた。


「まじかよ!お前すげぇな!聞いてた以上じゃねぇか。加護2つ持ちとかバケモンかよ。」


バシバシと背中を叩く先生。


「い、痛いです。」


「私と結婚するか?」


「は、はぃ?」


急に驚くべきことを言われた。


「冗談、冗談。流石に歳が離れすぎてるからな。」


歳が近かったら冗談じゃなかったのかよ。


性格はあれだけど見た目はめっちゃ美人だから少しドキッてしてしまった。


「んでお前ら分かってるな?これを誰かにバラしたらまじで殺すから。」


再び殺気が飛んできた。


皆、真っ青な顔色のまま激しく頷いていた。


「皆がいい子で助かるよ。それじゃあ最後はラグナな。」


「……はい。」


何を見せよう。


「とりあえず魔法剣やってみせろよ。」


魔法剣って言葉に驚く数人の同級生。


まぁ一緒に入学試験を受けた人間以外は知らないしな。


「でも剣を持って来てないです。」


1年生は指定された杖のみと聞いていたので、剣は部屋に置いてきてある。


「なんだよ、じゃあ杖でやってみろよ。」


杖で?


「杖を使うこと自体初めてなんでどうなるかわかりませんよ?」


皆を遠くに引き離した後に構わん、やれと言うのでやってみる。


「はぁぁぁ!」


剣よりも魔力の通りが物凄くいい。


むしろ良すぎる。


止まらない、止められない!


そして目の前には激しく燃え盛る杖が。


燃える……燃える!? あちぃ!


握っていた杖に火が着火してしまった。


そして着火した火は持ち手の所まで。


ドカン!


熱さに動揺してしまい操作を誤った火の魔力が暴発。


何回転も転がった後に止まる。


「いてて……杖じゃダメだったのか……」


目をあけると皆からだいぶ離れていた。


「だいぶ吹き飛んだな……」


吹き飛んだ時の痛みはあったけど特に火傷などはしていなかった。


「大丈夫かー?」


先生の声が聞こえる。


立ち上がると無事な事を報告する。


「大丈夫です。驚きましたけど。」


先生の所に戻ると魔法剣を発動した場所から半径2メートルほどは地面が焦げていた。


「だからあの国の奴らは杖を使わないのか。たぶん杖の魔石に反応して魔力が暴走したな。」


「僕で実験しないで下さいよ……流石に驚きました。」


目の前には粉々に砕け散った杖の残骸が。


「まぁ私もこうなるとは知らなかったんだ。許せ。杖はあとで私がプレゼントしてやろう。」


新しい杖は先生が買ってくれるらしい。


皆の方を向くと何人か驚いたのか倒れ込んでいた。


「この程度の威力をみただけで何してんだ、お前ら。」


冷たくいい放つ先生。


そう言えば……


「先生は大丈夫でしたか?近くで暴発させちゃったんで……」


「私か?魔法障壁張ったから何ともないぞ。」


一瞬にしてキラキラとした透明な壁が現れた。


しかも手でノックするとコンコンと音がする。


「自分だけを護るならウォール系よりもこっちの方が防御力あるんだよ。」


本当に知らない魔法がバンバン出てくるな。


「むしろあんだけ盛大に吹き飛んだお前がピンピンしてる方が私は驚きだよ。加護の影響か?」


「……どうなんでしょう。たぶん影響はあると思いますが。」


離れていたクラスメイトが戻ってきた。


「ラグナ君、怪我ない?」


「うん、大丈夫だよ。ありがとう、ミレーヌさん。」


うーん……皆がよそよそしい……


「まぁ当分は魔法剣禁止だな。剣が無きゃどうにもならんだろうし。」


「はい……」


流石に2度と魔法剣を杖で発動させようなんて気にはなれないよ。

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