第119話

杖で魔法剣を発動した結果暴発して痛い目にあった……


「んじゃあとは……確か魔法が使えるんだよな?やって見せろよ。」


魔法剣だけでなく魔法も使えることに一部のクラスメイトが騒ぐ。


まぁ普通はどっちかだけだろうからな……


でも困った。


魔法で覚えてるのってライトくらいなんだよな。


そうするとウィリアムと被っちゃう。


プライド高そうだから嫌なんだよなぁ。


「なんだ、出来ないのか?」


「い、いや。出来ますけど……」


「なら早くしろよ。」


先生が無詠唱で指先に炎を点火する。


これはやらないと俺まで髪の毛がチリチリの危機だ……


先生が魔法を見せろって言うんだし……仕方ないか。


「光よ、我を暗闇から救いたまえ。ライト!」


ぽわぁっと光が広がる。


ウィリアムと同じ魔法をラグナは使って見せる。


ラグナが発動したライトの魔法はウィリアムと比べるまでもなく安定している。


「くっ!!」


全く同じ魔法を完璧に発動させたラグナに対してウィリアムは厳しい目つきで睨む。


『わざわざ僕と同じ魔法を完璧に発動させただと!?クソッ!屈辱、屈辱だ!平民よりも侯爵家の僕の方が劣っているとでも言うのか!』


ぎゅっと拳に力が入る。


自分の後ろにいるクラスメイトがそんなことになっているなど気がついていないラグナは、魔法の発動を終えるとふぅとため息を吐く。


『結局みんなに使徒だってことがバレたなぁ……マリオン様の契約はバレても仕方ないけどサリオラの契約はどうしよう。後で相談かな。』


「おーし。お前らの力量は分かった。1人おかしい奴もいるけどあとはどんぐりの背比べって感じだな。魔力の量が低すぎる。たかが魔法を1回、2回発動させただけでスッカラカンなんて使い物になんねーぞ。お前ら今まで何してたんだ?」


確かにそれは俺も思った。


少なすぎるって。


でもそれが普通だと思っていたけど違うのかな。


それにしても厳しい言い方だよな……


「お前ら、魔力切れでぶっ倒れるくらいまで魔力使ったことあるのか?」


俺以外はみんな頭を振る。


「やっぱりな……魔力量ってのは限界まで使わなきゃ伸びねーんだよ。あぁ疲れた。もう終わりなんてやってる限り増える量なんて微々たるもんだ。」


確かに魔力を本当に限界まで使い続けてたら魔力量が増えていった気がする。


魔力量を増やすためにスパイスとか備長炭を限界近くまで召喚しては、収納スキル発動して魔力を空にするって日々を過ごしていたからな……


「おい、ラグナ。お前が初めて魔力切れでぶっ倒れたのは何歳だ?」


魔力切れで初めてぶっ倒れた時……


あれだよな。


初めてスキル使った時だから……


「たしか5歳の時に初めて魔力を使って倒れました。その時は3日間くらいは目が覚めなかったって言われましたけど……」


あの時は母さん達にめっちゃ怒られたな。


そんでそのあとまたスキル使って倒れたし……


フィオナはラグナのこの発言に驚きが隠せなかった。


『5歳だと……5歳で魔力を使用する訓練が始まったとでもいうのか?あまりにも早すぎるだろ……』


流石のフィオナも、そこまで幼い頃から魔力切れを起こしているとは想像していなく絶句していた。


「お前……5歳からそんなキツいことしてたのか……?」


キツいこと?


「初めて倒れた後、3日後に目が覚めてまた魔力使って倒れた時は本気で怒られましたけど……」


「当たり前だろ!普通そんなこと繰り返してたら死ぬぞ!」


「えっ?死ぬかも知れないくらい危ないことだったんですか?」


確かに身体はめっちゃキツかったけど……


「正直に教えろ。その年齢の時には加護があったのか?」


確かスキルを初めて使ったのはサリオラと出会う前だったよな。


「い、いや。まだその頃は加護なんて無かったと思います……」


「加護を授かる前からそんな事してたのか……」


「まぁ……その後もほとんど毎日魔力を限界まで使っては寝るって日々を送ってました。」


『5歳から5年間も……あの2人の子供とは言え、そこまで厳しく教育するような人物には見えなかったが……』


あれ?


先生の目が物凄く優しい目つきになってる。


「そうか……あの村だもんな……確かにお前の村ではそうまでしなきゃ生きていけなかったのかも知れない……だがな、ここは王都だ。そこまで生き急ぐことなんてしなくてもいいからな。」


なんか勘違いされてる気がする。


別にあの村だからって訳じゃなく少しずつ魔力が増えていくのが楽しくてやってたんだけど……


「べ、別にあの村だからって訳じゃ……」


先生が側に来て頭をポンポンしてきた。


「皆も聞いたな?こいつが異常なのは、加護を授かる前から厳しい訓練をしてきたからだ。分かるか?こいつは5年間毎日死と隣り合わせの様な訓練を続けてきたんだ。だからこそ今、お前達との差がここまで開いている。報告を聞いた時は何かの冗談かと思ったが……やっと合点がいった。こいつの魔力量は学園長や私と同じ金ランク。その意味が分かるか?お前達は死と隣り合わせの訓練なんてしたことがあるのか?」


皆が顔を振る。


先程までラグナのことを忌々しいとウィリアムは考えていた。


しかし、フィオナの説明を聞いて驚きを隠せなかった。


『僕ですら魔力の訓練を始めたのは8歳からだ。それなのにあの平民は5歳からだと……?しかも倒れそうになるだけでもあんなにもキツいのに、更にキツい訓練を5年間毎日していた……』


先ほどまでラグナのことを平民の癖に生意気な。


所詮加護持ちだから楽をしてその力を手にしたんだろうとウィリアムは考えていた。


でも話を聞く限り、実際には全く違っていた。


『悔しい。俺はこいつに負けたくない。』


さっきまでは負の感情に包まれていた。


家の力を使って追い込んでなんとか学園から追い出せないかとも考えていた。


でも話を聞いてるうちに純粋に悔しくなった。


自分に出来なかったことをあいつは毎日していた。


平民に出来て俺に出来ない訳が無いと。


初めてウィリアムはライバルと言うべき人間を見つけた。


『俺はあいつに勝ちたい。』


フィオナはラグナの頭をずっとポンポンしながら生徒達に語り始める。


「まぁ別にこいつみたいに毎日自らの身体を追い込めとは流石の私も言わない。だがな、魔力は限界まで使ったら使っただけ伸びていく。その例がこいつだ。ここからどうするかはお前達次第だ。お前達はどうしたい?」


あくまでもフィオナは生徒達に任せる。


ついて来たい奴だけついて来ればいい。


来ないなら半年後の試験で落とせばいいだけだと考えていたからだ。


「僕は強くなりたい。」


ウィリアムが1番手に答える。


「僕も。」


「私も。」


皆がそれに続いていく。


その光景にフィオナは少し満足する。


『最初はガキ共のお守りかよって思っていたが……楽しくなりそうだな。』


「お前達のやる気があるのはよく分かった。それじゃあ飯を食った後に午後から本格的な訓練を始める。吐くかもしれんから食い過ぎるなよ。分かったな?」


「「はい!」」


「それじゃあ昼にする。解散!」


そう言うと先生は先に校内へと戻っていった。


さてご飯でも行くかと思っていたラグナは移動しようとしていたが、急にローブを掴まれて止められた。


振り向くとローブを掴んでいたのは下を向いたままのミレーヌさんだった。


「どうしたの?ご飯行こう。」


「ラグナ君……」


ミレーヌさんが顔をあげると目にいっぱいの涙を溜めていた。


「ど、どうしたの、ミレーヌさん。」


「だって、だってそんなにも危ないことをずっと続けてきたなんて知らなくて……」


「僕が好きで続けてきただけだから!強制なんてされてないからね!」


あわあわしながらもなんとかミレーヌさんを慰めて食堂へ。


初めての食堂でのご飯に本来ならルンルンだったはずが、ミレーヌさんのことが気がかりでまともに味わうことが出来なかった……

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