第117話

今まで見たことの無い雰囲気のミレーヌさんに追い詰められる俺。


「ち、違うよ。あいつ!ナルタ元辺境伯の息子が急にミーシャさんを寄越せって絡んできたんだよ。」


そう伝えると殺気は収まりポカンとした顔になるミレーヌさん。


「入学早々揉め事になるのは嫌だったからミーシャさんの手を慌てて引っ張って逃げてきただけだから!」


必死になって弁明する俺。


なんでミレーヌさんにこんなにも必死に弁明しているんだろう。


「では手を繋いでいたのは緊急事態だったからと?」


コクコクと頷く。


「なら良かったですわ。」


いつものミレーヌさんの笑顔に戻った……


ふぅ、助かった。


「でも逃げた時のことで難癖つけられそうだよな。あいつ面倒そうな性格してるし。平民、平民って。」


また絡んできそうだな。


むしろこの寮まで文句を言いに来るんじゃないだろうか。


「ご安心下さい。すぐに警備部に報告してまいります。」


「警備部?なんですか、それ?」


「学園内の治安を維持する部署になります。特級組で働くメイドは特に外出時などに何かと狙われることが多いので、緊急時に風景を録画出来る魔道具を常に装着しております。」


ミーシャさんの頭に装着してあるカチューシャを指さす。


あれが魔道具になってるのか。


「狙われたりするのですか……?」


まぁ確かにメイドさん達はみんや綺麗だからわからなくもないけど。


「それが~、結構あるんですよ~。」


ミレーヌさんのお付きのメイドさんが語り始めた。


「たまーに~自分の立場を勘違いして~、メイドをイヤらしい目的で手を出そうとしたり~。」


話し方が独特だな、この人。


「大人じゃなくて、生徒がですか?」


「はい~。やっぱり年頃の男の子となると~、狼さんが多いみたいでー。」


ミレーヌさんが急に自分を抱き締めながらそーっと俺から離れる。


「み、ミレーヌさん!俺はそんなんじゃないから!」


「……ならいいですけど。」


テトテトと戻ってきた。


「やっぱり~私達も逃げるために抵抗するわけで~。」


そりゃ抵抗するよな。


「その時に~襲ってきた男の子を~反撃して~ボコボコにしても~問題にならないように~魔道具を持っているんです~。」


ボコボコって。


メイドを襲って反撃されるのか。


「相手が貴族の子供の場合、怪我を負わせたら親を巻き込んで問題にして騒ぐ子供が一定数いるのです。ですので証拠として緊急時には風景を録画出来る魔道具を所持しております。」


「そうだったんですか……でも、ミーシャさんもそちらのメイドさんも失礼ですが戦えるようには見えませんよね?」


「我々は~メイドギルドから~体術と~魔法を仕込まれていますから~。」


メイドギルド!?


「そんなギルドあるんですか!?」


「ありますよ~。王家に仕えたり~、このような学園で働くメイドは~、いろいろとこなせなきゃいけないので~。」


つまり護衛も兼ねてるってことかな。


「やっぱり知らないことばっかりだ。」


「まぁ、ラグナ君は仕方ないですよ。村では関わりが無いでしょうし……」


ってことはミレーヌさんは知ってるのか。


「魔法の勉強もそうだけど、一般常識やこの世界のことを学ばないといけないな~。」


辺境に住んでた分、知らないことが多すぎる。


なんとかミレーヌさんからの誤解は解けたので部屋へと戻る。


その後、ミーシャさんは警備部へと向かっていった。


部屋に入って驚いたこと。


今日購入した品物はすでに部屋に届いていた。


ミーシャさんからは購入した商品は部屋へと届けて貰えると聞いていたけど、まさかもう届いているとは思ってもいなかった。


届いた荷物はすぐに整理して片付けは完了。


椅子に座りひと息つく。


改めて部屋を見渡すが本当に広い。


広い部屋に1人でポツンと座っているのも寂しく感じる。


夕食まであと2時間か。


ペンダントを握る。


『サリオラ~。』


『……何よ。』


あれ?


なんかご機嫌ナナメだ。


『どしたの?なんかあった?』


『たまたま下界を覗いたら知り合いがメイドにデレデレしてる所を見てしまってね。』


『……別にデレデレしてた訳じゃないよ。』


『2人でベンチに座って食べ物を美味しそうに食べておきながら?メイドさんとデートだったのかしら?しかもその後に手を繋いで走ったり。あれは手を繋ぐ必要なんてあったのかしら。』


全部見られたのか。


『あれはお腹すいたから出店で買ったパンを2人で食べただけだよ。あの後手を繋いだのは緊急事態だったからだよ!』


『……まだ私は下界に一度も行ったことないのに。』


サリオラと契約したことにより月に1度だけ下界に降臨出来るようになったけど未だに1度もこっちに呼ぶことが出来なかった。


村に居るときは実家暮らしだから当然呼べないし、実家から離れた後はエチゴヤにお世話になっていたので呼ぶタイミングがなかなか無かった。


『それは本当にごめん。タイミングがなかなか無くて……』


『まぁ仕方ないとは思っているわよ。でもね、たまたま知り合いを覗いたら楽しそうにデートしている風景を見せつけられるこっちの気持ちにもなって欲しいわね。』


もしかして、サリオラは嫉妬してる?


でもこれ聞いたら怒られそうだから辞めておこう。


『学園の休日なら呼べるタイミングもあるだろうからもうしばらく待ってて。』


『まぁ、気長に待つわよ。今まで呼べなかったのは仕方ないって私もわかってるし。』


その後は機嫌が徐々に回復していったサリオラと一通り会話を楽しんだ後、用があるとのことで終了した。


ふぅ、なんか久々にコーヒーが飲みたい。


『コーヒーセットを召喚しますか?』


えっ!?


まじかよ。


「コーヒーセット召喚!」


手のひらに突然現れたのはスティックコーヒーにスティックシュガーとミルクだった。


「まぁコーヒー豆が出なかっただけ良かったのかな。こっちの方が手軽だし。」


キッチンでお湯を沸かして早速コーヒーを味わう。


「流石にブラックで飲めないし、最初は砂糖もミルクもたっぷり入れよう。」


では一口。


「うっ。……苦い。」


砂糖たっぷりいれたけど10歳の身体にはまだまだ苦味がキツかった。


「これはまだ飲めそうにないな……」


せっかく新しいスキルが出て来たのにまだ美味しいと感じることは出来なかった。


「もしかしてコーヒーのブラックを想像しながら召喚したからブラックが出てきただけで違う種類を想像してみたら……」


カフェラテを。


濃厚ミルクのカフェラテを!


「コーヒーセット召喚。」


再び再召喚。


「きたー!!」


出てきたのは濃厚ミルクのカフェラテ。


しかもスティックシュガーとミルクもまた一緒に召喚されてきた。


「これはいろいろ試してみよう。」


いろいろ想像しながら召喚を続けた。


結果、召喚出来たスティックコーヒーはこんな感じ。


ブラック


カフェオレ


カフェラテ


抹茶ラテ


キャラメルラテ


「うーん……ココアとかミルクティーはコーヒーじゃないからダメなのか。」


まぁ仕方ない。


とりあえず召喚したコーヒー達は収納スキルで保管。


部屋には置いておけないし。


最初に召喚したコーヒーに砂糖とミルクをこれでもかって量をいれてなんとか飲み干す。


「あれだけ砂糖とミルクをたっぷり入れたのに甘さの中に苦みを感じたな。確か若い頃って味に敏感だって聞いたことがあるからそのせいかな。」


コーヒーを飲み干した後は魔法書をパラパラ読んだりしながら時間をつぶす。


そのあとは夕食を食べてお風呂。


そして就寝。


と思いきやミーシャさんからのお説教が始まった。


特許を保有していると公言するのがいかに危険かについて。


まぁ確かに他人から見たら働かずに金が増えているようなもんだしね。


妬まれるか。


お話によりきちんと理解することが出来たので良かった。


「それではおやすみなさいませ。」


「おやすみ、ミーシャさん。」


ミーシャさんと挨拶をした後は寝室のベッドへとダイブ。


……


…………


………………


「やばい、寝れない!」


コーヒーか?


コーヒーのせいなのか!?


でもあれは夕食前だぞ。


この身体にカフェインはアカンのか!?


その後もなかなか寝付くことが出来ずにゴロゴロしていたラグナだった。

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