第116話

「はい、エルフです。異種族は初めてですか?」


「初めてですよ。むしろ異種族っていたんですか!?」


衝撃の事実。


この世界にはエルフが存在した。


「人族に比べると多くありませんがこの世界にはエルフ以外にも獣人や海人なども居ますよ。ちなみに私はハーフエルフです。」


そう言うとミーシャさんは長い髪の毛を手でよけると、露わになる少し尖った耳。


「……僕に教えても良かったのですか?」


「ラグナ様ならば構わないかと。何せ……使徒様でもありますし。」


ミーシャさんがそう言うと微笑む。


「えっと……知っていたんですか……」


「メイド内で知っているのは私だけですのでご安心を。」


「本当に名前だけなので……」


うーん、機会があれば一度マリオン様と話をする必要があるかな。


なんかマリオン様の使徒って立場が独り歩きしてる気がする。


「ちなみに先ほどの本屋で働いていた彼女は50歳を超えたくらいですよ。」


嘘だろ!?


完全に同じ歳くらいの見た目だったじゃないか。


「にわかには信じられませんね……ぱっと見は僕と同じくらいか少し上の年齢だと思ってました。」


「エルフと人族では寿命が違いますからね。人族は80歳くらいの寿命ですがエルフだと400歳以上は寿命がありますから。」


流石エルフ。


存在と寿命がファンタジー過ぎる。


この際聞いてみようかな。


「女性に年齢を尋ねるのはマナー違反だと思って我慢してましたけど……ミーシャさんっていくつなんですか?」


「いくつに見えますか?」


来た。


定番のいくつに見えますか?


でも正直に答えよう。


「18~20歳くらいかなぁと思っていましたけど……」


「そう見えましたか?ありがとうございます。でも実際には今年で45歳になります。」


まじかよ。


この見た目でうちの両親よりも年上とか……


「大体ハーフエルフは200年ほどの寿命らしいです。しかもありがたいことに150歳くらいまでは今くらいのまま見た目が変わらないらしく、150を超えたくらいから人族と同じペースで老いて行くと言われてますね。」


エルフもハーフエルフも不思議生物過ぎる。


ミーシャさんは後100年近くはこの見た目のままなのか……


俺の方が先に年寄りになるってことか。


でもこれを聞いて納得だ。


だから若く見えたミーシャさんがメイド長だったのか。


少しミーシャさんと打ち解けてきたのでお互いに話をしながら寮へと向かって歩いていく。



しばらく歩いていると軽食の出店を見かけた。


お昼ご飯食べた後に結構歩き回ったしな。


「ミーシャさん、少しお腹すいたのでちょっと寄り道しません?」


そう言いながら出店を指さす。


「あの店ですか?わかりました。」


2人で出店へと進む。


「いらっしゃい。おや!特級組の新入生さんがうちみたいな店に来てくれるのか。うれしぃねぇ。何にしますか?」


恰幅のいい女性がお店を切り盛りしていた。


流石に商品サンプルなんて無いからな。


メニューの名前だけで判断しなきゃいけない。


「どれどれ、メニューは……」


たまたま寄ったお店で当たりを引いたらしい。


・ボアたっぷりグーナパン


・新鮮野菜たっぷりグーナパン


・肉!特盛りグーナパン


見事にグーナパンオンリーのお店を引き当てた。


でも今更やっぱりいいって言える雰囲気じゃないし……


腹をくくるか。


「じゃあ僕は肉!特盛りグ、グーナパンで。ミーシャさんはどれにします?」


そう言うと驚いた顔をした。


「私もですか?」


「うん。どうせなら一緒に食べよう。」


「……では新鮮野菜たっぷりグーナパンを1つお願いします。」


「はいよ!ちょっとお待ち。」


ジューっと肉を焼く音と匂いが広がる。


あっと言う間に2人分のグーナパンが完成した。


「出来たよ、たんとお食べ!」


手渡されたグーナパンは何の肉かはわからないが溢れんばかり肉が挟まれていた。


いや、むしろ肉が溢れすぎて落ちそう。


ミーシャさんのパンもすぐに完成して手渡される。


辺りを見渡すとベンチがあったので2人で座って出来立てのグーナパンにかぶりつく。


「頂きます。」


一口かぶりつくと肉汁とタレが口の中に広がった。


「思ってた以上に美味しい。」


チラッとミーシャさんを見ると小動物のようにモグモグしていた。


2人で座りながら夢中になって食べていると会いたくない人物が目の前に現れた。


「おい、平民!なんでお前がこんな所に居るんだ!」


まじかよ……


またこいつかよ……


目の前に現れたのはナルタ元辺境伯の息子。


名前は何だったっけ。


「……合格したからに決まってるじゃないか。」


本当にいちいち絡んできて欲しくない。


まさか合格してるとは思わなかった。


ローブのマークを確認するとこいつはどうやら青クラスらしい。


「平民の癖に女連れとは生意気な。」


そう言いながらミーシャさんの顔をチラチラ見ていた。


「おい、その女を俺に寄越せ。俺が可愛がってやる。お前にはもったいないぞ。」


ニヤニヤしながら近寄ってくる。


最初からこいつはミーシャさんが目当てか。


ミレーヌさんの時と一緒だな。


たかが10歳のマセガキが何言ってるんだか。


だからと言って手を出すと入学早々揉め事になりそうだし……


これは逃げ一択だな。


「ミーシャさん、目を閉じて。」


そう伝えたあとすぐにスキルを発動する。


『LEDランタン!』


ピカッと一瞬だけ激しい光があいつの目の前に現れた。


「目がぁぁ!イタい、イタい!助けて、ママー。」


すぐにミーシャさんの手を取りこの場から逃げる。


2人で寮まで走りつづけた。


「ミーシャさん、ごめんね。何か巻き込んじゃって。」


「大丈夫です。こちらこそ助けて頂きありがとうございます。」


急に殺気と共に後ろから話し掛けられた。


「2人とも仲がよろしいようで……」


ビクッと身体が反応しながらゆっくりと後ろを向く。


後ろにいたのは顔は笑顔だけど目が全く笑っていないミレーヌさんが仁王立ちしていた。


「お、お帰り、ミレーヌさん。き、急にどうしたの。」


目が怖い。


まじで怖い。


そしてミレーヌさんがゆっくりと手をあげて指を指す。


その先にあるのはがっちりとミーシャさんと手を握っている俺の手。


「い、いや。違うからね。」


慌てて手を離す。


「入学早々メイドさんと手を繋いで……デートですかね?」


もう一度言おう。


まじで怖い。

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