第115話

「商業ギルドへようこそ。今年入学の生徒さんですね。本日はどの様なご用件でしょうか?」


商業ギルドの会員証を取り出すと受け付けのお姉さんに提出する。


「すみません。口座にどの程度のお金が振り込まれているのか知りたいのですが。」


「わかりました。少々お待ち下さい。」


そう言うと俺の会員証を手に取り魔道具の上にかざす。


するとお姉さんが驚いた顔に切り替わる。


「ラグナ様、失礼しました。こちらへどうぞ。」


お姉さんが受け付けから立ち上がり奥へ行くように案内される。


「どうぞこちらへお座り下さい。」


案内された場所は個室だった。


「先ほどは大変申し訳ありません。」


急に謝ってくる。


「えっと……急にどうかしましたか?」


お姉さんがミーシャさんをチラッと見た。


「私は外で待っていますので……」


そう言うと部屋から出て行った。


「先ほどは使徒様だとは知らずにとんだご無礼を。」


使徒様!?


「い、いやいや。そんなこと気にしてませんから!」


名前だけが独り歩きしているようなものだし。


「すみません。」


ペコペコとお姉さんが頭を下げてくる。   


「本当に大丈夫ですから。そんなに気にしないで下さい。それよりも口座の金額だけ知りたいんですけど。」


頑張って話を戻してみる。


「気を使わせてしまい、申し訳ありません。金額ですね。少々お待ち下さい。」


個室にも同じ様に設置されていた魔道具に会員証をかざすとお姉さんがなにやら操作をし始めた。すると魔道具の隣に置いてあるボックスが光り始める。ちょっと焦げ臭い匂いと共にボックスが開いた。その中には羊皮紙が入っていた。


「こちらをどうぞ。」


羊皮紙を受け取る。


どうやら焦げ臭い匂いの正体は文字を羊皮紙にプリントするときに焼き付ける魔道具らしい。


つまりプリンターモドキ。


手渡された羊皮紙を確認する。


名前 ラグナ


出身 アオバ村


所属 マリオン様


特許数 1


預金残高  金貨 7

     大銀貨 9

      銀貨 7

      銅貨 6

      鉄貨 8     



突っ込みたい所が一つあるけど先ずはこの預金残高だよ。


たった数ヶ月で797万680円も稼いだのかよ。


特許制度恐るべし……


いや、サンドイッチ恐るべし……


でも……これ税金ってどうなるんだ?


「すみません。特許で稼いだお金の税金ってどうなるんですか?」


これは確認せねば。


お金使った後に税金があると詰む。


「税金については振り込まれる前に引き落としされていますのでご安心下さい。また特許に関する利益は毎月10日に振り込まれます。」


すでに引かれたあとなら良かった。


でも毎月10日に振り込みとかまるで給料みたいだな。 


「後は……この所属がマリオン様って言うのは……?」


これが1番おかしい。


「普段ですと主に商いを行っている街にある商業ギルドの名が所属になるのですが……使徒様の場合は所属がこの様になりますので……私も初めて拝見しました。本当に存在するんですね……」


別に俺はマリオン様の使徒って訳じゃ無いんだけど……


どちらかと言えばサリオラの使徒になるんじゃないだろうか。


あっ、そうだ。


「特許の申請ってここでも出来ます?」


マリオン様に頼まれてたの忘れてた。


「申し訳ありません。商業ギルドの出張所では神殿が併設されておりませんので登録することが出来ません。」


まじか。


確か1年生は街に行けないんだよな。


仕方ない。


確か思い出したらとか強制ではなかったしね。


「わかりました。ありがとうございます。」


「本日は預金の引き出しなどいかがしますか?」


別にまだお金の必要は無いんだよな。


「今日は大丈夫です。」


「わかりました。次回以降も商業ギルドに起こしの際は私が担当致しますのでよろしくお願いします。」


「……こちらこそよろしくお願いします。」


羊皮紙はお姉さんに必要無いと告げたら室内にある暖炉に放り込まれ焼却処分になった。


そして個室から出る。


「ミーシャさん、お待たせしました。では行きましょう。」


「わかりました。」


商業ギルドのお姉さんにぺこりと挨拶をして買い物の続きへ。


「ミーシャさん、お金って足りますか?」


「お金ですか?まだ大銀貨5枚以上は余っております。」


でも洋服とか小物で40万近くは使ったのか。


やっぱり高いのは服だな。


「あと必要な物は何かあります?」


ミーシャさんが少し考えた素振りをする。


「生活に必要な物はだいたい揃いました。後は部屋の家具を追加したいものがあればそちらを注文するか……室内設置や普段持ち歩く為の魔道具を購入か魔法書を追加するくらいでしょうか?」


家具はあれ以上必要ないと思うしな。


魔道具か……ちょっと気にはなる。


魔法書は値段が怖いなぁ。


「とりあえず魔道具のお店って見たこと無いので案内をお願いしてもいいですか?」


「畏まりました。」


再び2人で歩く。


ミーシャさんって幾つくらいなんだろう。


しっかりしてるし、綺麗だし。


魔道具屋にはすぐに到着した。


「新入生さん、いらっしゃい。」


優しそうなお爺さんが話し掛けてきた。


「初めまして。田舎から出てきたので魔道具のお店を初めて見たのですが見て回ってもいいですか?」


「えぇ構いませんよ。今は生活雑貨の魔道具を取り揃えていますので、どうぞゆっくりご覧下さい。」


今は?


どういう意味だろう。


まぁいいや、とりあえず目の前にあるこれ。


携帯型のランタンか。


ライトの魔法よりかは明るいけどLEDランタンよりかは暗いな。


うーん俺はいらないかな。


次のは何だろう。


棒を握る。


「そちらは着火の魔道具です。スイッチが横についてるので押してみて下さい。」


言われた通りにスイッチを押す。


シュボ


棒の先端から小さい炎が出た。


これはライターみたいだな。


でも着火の魔法もガストーチスキルもあるしな。


そっと棚に戻す。


次は大型のコップだ。 


「そちらはスイッチを押すと水が生成出来るコップです。」


流石に水を出すわけにはいかないのでスイッチは押さなかった。


そういえば水の魔法はまだ使ったことが無いんだよな。


「これっていくらですか?」


「こちらは大銀貨1枚になっております。」


まじか。高いな。


「今回はちょっと諦めます。」


流石にここで大銀貨1枚使うわけにはいかないからね。


そのあとも何点か気になる商品を手に取ってはお爺さんが丁寧に説明してくれていた。


俺達が店内をてるときに他のクラスの生徒が1人やってきた。


「これ幾ら?」


他のクラスの生徒が急にお爺さんに話し掛けた。


「ふむ、黒組ですか。申し訳ないが君に売る物はこの店に無い。」


「なっ!?」


生徒だけでなく俺もお爺さんの態度の急変に驚いた。


「うちの店は最低でも青組以上の生徒じゃないと売りはしないぞ。」


先ほどまでニコニコしていたお爺さんの表情が一変。


厳しい目つきになった。


あまりの豹変に驚いた生徒はそそくさと立ち去っていった。


すぐさま先ほどまでの好々爺に戻る。


「驚かせて申し訳ない。大した実力も無いのに金の力だけで楽をしようとする人間は嫌いでして。」


自分の商品にそれだけプライドを持っているんだろうな。


「僕ももっと自分を磨いてからまた来ます。」


「特級組だと驕ることなく自身を磨き続けるのがよろしいかと。そうですな、半年後の試験を終えた後も今の地位を保つことが出来たらまた店に行らして下さい。面白い物を見せると約束しますよ。」


半年後か。


面白い物を楽しみに頑張ろう。


「その時を楽しみにしてます。今日はありがとうございました。」


礼を伝えて店を後にする。


「なかなか変わった人だね。」


「小規模の売店の主はあの様な方も少なくありません。この学園では地位も立場も関係ないのです。実力が全てですから。」


実力主義か。


次は本屋へと向かう。


本屋には入り口が2つあった。


「ミーシャさん、これは?」


「この本屋は入店の時点でクラスのランクによって入れる入り口が異なります。左側が青ランク以下。右側は特級か銀組のみとなっております。」


右側の方の入り口から入店する。


「……いらっしゃいませ。」


店員さんは俺と歳があまり変わらない見た目の可愛らしい女の子だった。


「魔法書を探しているのですが。」


「虹の紋章の子の魔法書は奥。」


「ありがとうございます。」


奥へと進む。


うん……どれもこれも高い。


本はどれもガラスケースに入っていて立ち読みなんて出来ない。


しかしほのかに本から魔力を感じる。


魔法書の値段は安くて金貨1枚、中にはミスリル銀貨1枚の値札の本もあった。


高すぎて買えないのでぷらーっと見て戻ることに。


「……いいのはあった?」


すぐに戻ってきた俺に店員の子が話し掛けてきた。


「どれもこれもすごい値段で……頑張って稼いでからまた来ます。」


女の子がジーッと見つめてくる。


「……君は変わった色をしてる。名前は?」


変わった色?


「ラグナですけど……」


「名前、覚えた。また来て。」


「わかりました。また来ます。」


そうして本屋を後にする。


「不思議な店員さんでしたね。」


ミーシャさんが驚くべきことを発言する。


「あの方はエルフですから。」


エルフ…エルフ…エルフ……


「エルフ!?」

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