第101話

宝物庫を開けるボタンを押した直後に、レダが急にもがき苦しみ息絶えた。


「罠か……」


レダが先ほどまで座っていたイスに目を向けると椅子の複数箇所から針が飛び出していた。


「椅子に触るなよ。致死性の毒が塗られているはずだ。」


そして目の前には宝物庫らしき部屋がすでに現れていた。


「さて、どうするか……」


この先にも何らかのトラップが仕掛けられているかも知れない。


「仕方ない、俺が行くか。」


軍務大臣であるマルクが覚悟を決めて宝物庫へ進もうとした所、肩を掴まれて引き止められた。


「軍務大臣であるマルク様に万が一のことがあってはこの国の損失です。ここは私が先に行きます!」


マルクの副官であるリンゼイがマルクの替わりに宝物庫へと進もうとするがすぐに待ったがかかる。


「若者が死に急ぐで無いわ。ここは年寄りに任せておけばいいんじゃよ。」


今回引き連れてきた部隊の最高齢、元軍務大臣のカルーヤ・バリーが部屋に入ってきた。


「しかし、あなたに万が一のことがあっては!」


「ワシなら大丈夫じゃよ。もう領地も引き継いでおるし、唯一愛した嫁も昨年旅立っていった。ワシに任せておけ!」


そう言うとカルーヤは大声で笑いながら剣を手に持ち宝物庫へと突き進んで行った。


マルクが見守る中カルーヤは宝物庫を確認していく。


そして何かを見つけたのかすぐに戻ってきた。


「マルクよ。これが何かわかるか?」


カルーヤが手に持つ魔道具を確認する。


「こ、これは……転移球。……まさか人数分の転移球を用意したとでも言うのですか!」


「転移球なら数個転がっておったよ。」


その言葉に一同が絶句する。


転移球1個でミスリル銀貨1枚もする。


それが複数個。


そして使用した分。


いったい今までいくら荒稼ぎして貯め込んでいたのか……


「すぐに王宮に連絡する。通信の魔道具の準備を。」


「了解しました!」


兵士の1人が連絡の為に立ち去った。  


リンゼイは転移球を手に取ると眺めていた。


「初めて見ましたよ、転移球なんて。確か転移球って登録された受信柱の場所に跳べるんですよね?これを使えば奴らの居場所がわかるのでは?」


ニコラは首を振ると答える。


「これは全て透明だろ?つまり未登録の転移球だ。登録された転移球は白っぽくなる。」


「ここから受信柱を探すにしても範囲が広すぎるのぅ……」


転移球は任意の場所には転移出来ない。


事前に転移先となる場所に受信柱を設置しなければならないのだ。


『奴らめ。どこに向かったんだ……」


こうしてドゥメルク元侯爵家の足取りは途絶えたのだった……


いろいろと大人達や女神が暗躍していることなど一切知らないラグナは充実した毎日を送っていた。


「今日はここまでにしよう。」


読んでいた書物を閉じる。


今読んでいたのはこの国の魔法書。


光魔法の詠唱が載っていた。


「光よ、我を暗闇から救いたまえ。ライト!」


手のひらに光の球が現れて周囲がほんの少し明るく照らされた。


「でもこれならLEDランタンの方が明るかったよなぁ。」


このライトと言う魔法は本当に自分の周囲を少し明るくする程度の光しかない。


「これじゃあミニランタン以下の明るさだよ。そういや店で見た大型のLEDランタンは本当に明るかったよなぁ。」


『LEDランタンスキルを使用しますか?』


久々に聞こえた声に身体がビクッとなる。


「久々に聞こえたな。LEDランタン!うわっまぶしっ!」


自分の頭上に光り輝く物体が現れた。


「これは眩しいな。でもめっちゃ明るい。ライトの魔法よりも便利だ。」


目を細めて頭上で光っている物体を眺める。


「強弱で切り替え出来ないかな。」


そう考えると極端に明るさが切り替わる。


「弱に出来たってことか。」


光が弱くなったことにより頭上で光っていた物体のシルエットが判明する。


「ランタンが頭上に召喚されたって訳じゃないのか。魔法のライトの光がランタンの形状になって浮いていると。それじゃあフラッシュモードなんてのも出来るかな?」


ランタン状の光が激しく強弱に光り輝く。


「これはダメだ!目がやられそうだ!」


すぐに弱と念じる。


「眩しかった……目潰しには使えそうだけど……狩りの時に使えそうだな。」


改めてちょうどいい光量で発光しているランタン状の光を観察する。


「これは備長炭やスパイスのスキルと違ってLEDランタンの様に光るだけか。流石に現物は手に入らないと……つまりガストーチスキルと同じで似たような現象を魔法で再現出来るだけ。スパイスと備長炭は現物が手に入るのにな。何が違うんだろう。」


両者の違いは何なのだろうか……


「さっぱりわからん……でもこれで確定だな。俺のスキルはキャンプに関係したものを召喚したり似たような現象を起こしたり出来るのか。」


つまりは向こうの世界では殆ど出来なかった、ソロキャンプもスキルで再現出来る様に成るって訳だ!


でも……こっちの世界では前世と違って、もっとワイルドな夜営って普通にしてるし……


場所によっては魔物もいるからな……


魔物がいる世界でソロキャンプだーってはしゃいだらすぐに殺されるんじゃないだろうか。


「召喚出来れば便利な物もあるけど……物体が召喚出来るのか、魔法で再現なのかで変わるよなぁ。」


その後、いろいろとキャンプ用品を想像してみるものの何も起こらなかった。


「もういいや。夜も遅いしもう寝よう。」


そしてラグナはぐっすりと眠る。


悪意ある存在が徐々に迫っていることも知らずに……

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る