第100話

驚異的な速度で軍隊に必要な物資が集められてから3日後、軍はドゥメルク元侯爵領の領都『ドゥメルダ』に到着した。


「順調に到着しましたね。」


そう、この領都まで軍は全く争うことなく突き進むことが出来た。


どの街も寝耳に水状態。


突然現れた軍隊に驚き、すぐに降伏を申し入れてきた。


神殿が撤退したことによる混乱で一部商人が逃げ出してしまい、街は混乱に包まれていた。


「そ、その様な話は聞いておりませぬ。何せ、神殿と商業ギルドに掲示された内容でさえも領主様からは何も通達が来ていなく……」


街の領主代理にすらドゥメルク侯爵家が取り潰しになったことすら情報がまわっていない様子。


そして現在。


「様子がおかしいな。全兵力は領都に集まっているものだと思っていたんだが……」


「そうですね……我々が現れるまでは普通に城門も開いていましたからね。」


軍を展開し領都を囲むように威圧していると暫くして城門が開かれた。


兵士達はいよいよ来るかっと身構えたの束の間、現れたのは領内の兵士によって連れられた白旗を持った1人の人間だった。


すぐさま白旗を持った人間は武器などを持っていないかチェックされた後に司令部に連れてこられた。


連れてこられたその人物はパッと見の身なりはいいが顔中や腕など至る所が痣だらけの若者だった。


「ドゥ、ドゥメルク侯爵家は、こ、降伏します。」


「降伏するだと?そもそも君は誰だね。」


「わ、私は、ドゥメルク侯爵家4男のレダ・ドゥメルクです……」


白旗を持って現れたのはこの騒動を起こした原因の1人とされている、元侯爵家の4男レダ。


「君は何故こんな状況になっているのか理解しているのか?」


するとレダは挙動不審になる。


「わ、私はとある問題を起こした後は屋敷の地下にて反省してろと閉じ込められていまして……」


「た、大変です!」


1人の兵士が転がり込んできた。


「先ほど共にこちらにきた兵士に話を聞いた所、昨夜まで居た侯爵家の人間および大半の使用人達が忽然と姿を消していたとのことです!」


「なんだと!?」


どうりで対応がおかしいわけだ。


指令を出すべき人間のトップがすでに居ないんだからな。


「レダと言ったな!屋敷の隠し通路は知っているな?どこに通じている!」


軍務大臣のマルクはすぐさまレダに問いつめる。


「か、隠し通路の出口はこの街の城門の反対側にある森の中に作られた小屋が出口になっています。」


「くっ!直ぐに確認に向かえ!足跡を見逃すな!」


もしも逃亡を許せば面倒な事になる。


この侯爵家と面している隣の地は他国。


他国に逃げられては簡単に捕まえられることなど出来ない。


『だがしかし……侯爵家はよく深緑の森アルテリオン国と小競り合いをしていたはず。違法にエルフを奴隷にしては売却して利益を得ていると報告が来ていたが……今までその様なことをしていた国に亡命などあり得るのか……?』


暫くすると向かわせた兵士達より連絡が来た。


「なに……?使われた形跡が全く無いだと?」


「はい、長年使われていないのか地面や壁には埃が付いたままでした。もしも脱出経路として使用しているのであれば足跡など何かしら形跡は残ると思うのですが……」


『どういうことだ?どこに逃げた?』


「すぐに屋敷内を捜索しろ!あと住民達にも情報提供を呼び掛けるんだ!」


連れてきた兵士達の半数を使い領都内の捜索に向かわせる。


捜索を開始してから数時間。


住民達からの情報提供も特に無く、捜査の進展が無いまま時間だけが過ぎていく。


「奴らどこに消えたんでしょうね……?」


「……わからん。屋敷に残っていた使用人に話を聞いても昨夜までは屋敷に居たと言う話ばかりだ。」


そしてとうとう発見できないまま日が暮れてしまった。


「今日の捜索は一旦終了する!皆、身体を休めて明日に備えてくれ!」


マルクは兵士達に号令をした後、副官と共にレダの元に向かう。


「未だに誰1人として見つかってはおらぬ。他に脱出経路を知らないのか?」


レダは必死に首を振る。


「私が知っているのはあの1カ所だけなのです!信じて下さい!」


ここで協力しなければ直ぐにでも殺されるかも知れないという恐怖に駆られているレダは、軍の捜査に積極的に協力していた。


「しかし本当にどこに消えたのだ……」


取り残された一部の使用人達に見られることなく脱出など出来るのか……?


誰にも見つかることなく移動などと……


まるで忽然と姿を消したような……


まさか!?


「レダ!屋敷では魔道具をどこに保管してある!」


もし考えていることが的中すれば最悪の結果になる。


「ま、魔道具ですか?それならば武器庫か宝物庫に保管してあると思いますが……」


「すぐに向かうぞ!何人か着いてこい!」


マルクは兵士達とレダを連れて屋敷へと急行する。


屋敷を守る兵士達に一言伝えるとまずは近くにある武器庫へ。


「これも違う、あれも違う。あれでは無い。これで全部か!」


武器庫に置いてある魔道具はどれも戦闘で使用する魔道具しか置かれていなかった。


すぐさま宝物庫へと向かう。


宝物庫への入り口は1つ。


領主の部屋からしか入ることが出来ない。


入るにはロックを解除する必要があるらしい。


すぐさまレダに開けさせる。


「ここをこうして、次にこうして、最後にこれをこうすれば。」


レダが椅子に座り、机の引き出しを特定の順番に開けると机の上にボタンが現れた。


「これを押せばロックが解除出来ます。」


「よし、解除するんだ。」


「わかりました。」


レダがボタンを押すと執務室に設置してある本棚が自動的に移動し始めた。


するとすぐに異変が現れた。


「イタッ!ぐっ!がっ!ど、どうして!あっ、熱い!」


椅子に座りボタンを押したレダがもがき苦しみながら椅子から倒れ込んだ。


そして痙攣後、目を見開いたまま動かなくなるのであった。

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