第92話
魔法学園がゴタゴタしている一方ラグナは少し落ち込んでいた。
「ラグナ君、元気を出してくださいな。たまたま変な職員に出会ってしまっただけですわ。」
「うん、ありがとう。」
会話がそこで途切れてしまう。
村にいるときには感じることが無かった差別。
いや違うか。区別だな、これは。
貴族と平民。
学園に入学するならば自分の立ち回りには気をつけなきゃいけない。
前世では感じたことが無かったからな、差別なんて。
学園内では貴族も平民も関係なく扱うと書いてあったけど実際にはそうはいかないんだろうな。
馬車の景色を見ながらため息を吐くラグナ。
そんなラグナの姿を目の前で見ているミレーヌはどう声を掛けていいのかわからなく悩んでいた。
沈黙した室内の馬車が停止すると扉が開く。
「屋敷へと到着しました。」
ミレーヌとラグナは馬車から降りると軽く挨拶をしてそれぞれの部屋へと戻っていく。
ラグナは部屋に入るなりベッドへと向かうとそのままダイブする。
「あれが貴族だったら……あんなこと無かったのかな……もういいや、考えるのやめよう。」
そのまま目を閉じて不貞寝をすることにした。
その頃セバスはサイにあらましを報告していた。
学園に到着後、ラグナとセバスとで受付まで向かった。
受付担当者が手を伸ばしてきたのでラグナが書類を手渡した所、突然担当者が激怒して書類を投げつけられたこと。
担当者は金品などを要求するために手を伸ばしていた。
騒ぎに気がついた他の職員より謝罪がありすぐに書類は受け取られたこと。
「以上のような事がありました。未然に防ぐことが出来ずに申し訳ありません。」
「なんだって!?……それでラグナ君は今どうしてる?」
「帰りの馬車では少し落ち込んでいた様子。言葉数も少なくこちらに帰宅後はすぐに部屋へと戻りました。」
「そうか……とりあえず父上に連絡する。準備してくれ。」
この国の貴族と同じ様に学園の職員までもここまで腐敗が進んでいるとは思ってもいなかった。
だがそれを批判するにしてもサイだけで勝手に動く訳にはいかない。
まずは父親に相談して指示を仰ぐことにした。
数分後にセバスから準備ができたと連絡が来たので魔道具を設置してある部屋へと向かう。
「どれくらい使える?」
「私の魔力量でしたら10分ほどは。」
「わかった。それじゃあ頼む。」
セバスは部屋の中心に設置されている魔道具『通信水晶』に手をかざし魔力を流し込むと次第に水晶が発光してくる。
そしてサイが魔道具の起動スイッチを押すと魔法陣が現れて光が飛んでいった。
そして数秒後に水晶から声がした。
「私だ。何かあったのか?」
「父上、移動中にも関わらず申し訳有りません。私だけでは対処できない事案が発生しました。今大丈夫でしょうか?」
「それは商会に関することか?別の事か?」
「商会ではありません。ラグナ君の事で相談があります。」
「ならばこの場でもいいか。どうした?」
そしてサイはブリットに学園での出来事を報告した。
「学園め……私と神殿からの推薦状があるにも関わらずそんな対応をしてくるとは。この件に関してはお前に任せる。徹底的にやれ。ちょうど私の隣には王都の神殿の司教様もおられる。」
「サイ殿お久しぶりです。」
「タチアナ様もいらしたのですか。お久しぶりです。」
「話は隣で伺いました。学園と言えばこの国の宝を育てる神聖な場所。それが汚されているとあれば動かないわけにはいきません。この件に関しては神殿でも動くことにいたします。」
「わかりました。」
「もしかしたら貴族達が動くかもしれん。しかし王族以外であれば構わん。搾り取れるだけ搾り取れ。」
「わかりました。」
「また何かあれば連絡してくれ。」
そして水晶の光が収まる。
「いかが致しましょう?今から動かれますか?」
「あぁ、今から動く。」
サイは普段はほとんど使わない儀礼用の馬車に乗り込み王都の商業ギルトへと向かう。
儀礼用の馬車で移動と言うこともありとても目立つ。
聖剣に突き刺された大金貨のマークはエチゴヤ一族を表す家紋になっている。
その家紋が大きく描かれているのが儀礼用の馬車だった。
「おい、あの馬車は!」
「そうよ!あのマークは!」
市民達がマークに気がつくと声をあげながら手を振る。
「エチゴヤ一族の方が馬車に乗ってるぞー!!」
その光景を馬車のちいさな窓から見ているサイは苦笑いする。
「初代様が築き上げたこの人気。失望させてしまった時は恐怖だな。」
「若様ならば大丈夫でしょう。」
「だと良いがな。」
市民達に見送られながら商業ギルドへと到着する。
わざわざ儀礼用の馬車で来たことにただ事では無いと察知した商業ギルドは、すぐさま警備員を派遣する。
警備員に守られながらフードで顔を隠した状態で馬車を降りて市民達の声援を受けながら商業ギルドの室内へ。
そしていつもの個室へと案内された。
フードを被ったまま椅子に座っていると部屋の扉がノックされる。
「今日はどうした?物々しい雰囲気で。」
部屋に入ってきたのは商業ギルド統括ギルド長のアムルだった。
「あなたはこちらに残っていたんですか。」
「俺は別に呼ばれてないからな。それで何があった?」
「実は……」
サイはラグナに対して行った学園による愚行をアムルに説明した。
「学園は馬鹿なのか?エチゴヤと神殿からの推薦状を持った人間に対してやっていい態度じゃないだろう。」
「えぇ、父に相談した所徹底的にやれと言われましたので。」
「いいのか?貴族どもも動くぞ?」
サイはにっこりと笑うと頷く。
「王族以外からは徹底的に搾り取れと。」
それを聞いたアムルは深いため息を吐く。
「うちも巻き込まれるな……仕方ない。どうせやるならそっちに乗っかるとしよう。」
サイとアムルが話し合いを始めると再び扉がノックされる。
「どうぞ。」
扉が開き現れたのは息を切らせた若い女性の神官だった。
「し、失礼します。こちらにエチゴヤの方がいらっしゃると……」
「うん。それは私のことだね。」
サイはフードを取ると女性の神官に挨拶する。
「初めまして。サイ・エチゴヤです。あなたは?」
フードを取ったサイの姿に見とれていた神官は慌てて答える。
「は、初めまして。わ、わた、私はアルレット。王都の神殿の司祭の職につ、ついております。」
「アルレットか可愛い名前だね。」
「あ、ありがとうございます……」
顔を真っ赤にしたまま俯いてしまった。
「サイもその辺にしておけ。全くお前は……それでアルレット殿、急いでいたみたいだがどうしたんだ?」
「あっ、そうでした。タチアナ様より連絡がありまして。サイ様と共に行動せよとの指示がありました。詳しいことはサイ様より聞くようにとのことです。」
「私に任せてよろしいので?」
サイはアムルに視線を向ける。
「全くタチアナ様にも困ったものだ……きっと俺が動く前提で指示したんだろう。ったく、次から次ぎへと……わかった、俺も共に動くとしよう。」
そうしてエチゴヤ商会、商業ギルド、商業ギルド神殿の3つのグループが共に行動することが決定した。
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