第91話

「平民のくせにさっきはよくも偉そうにしてくれたな!」


先ほどラグナに謝罪した職員であるコレットは問題を起こした職員に呼び止められていた。


「失礼、あなたに構ってる暇はありませんので。」 

こいつは自分の現状を全く理解していない。


以前より数人の職員と結託して平民と思われる受講者に金品を要求したりしており、よく問題を起こしていた。


でも今回は流石に相手が悪い。


「あっ、おい!」


ジャンの横を素通りして急いで事務長の元へ。


早く報告しなければ大変なことになる。


早足で廊下を進み事務長室へと足を運ぶ。


コンコン


「入りたまえ。」


「失礼します。」


事務長室に入り一礼をした後に頭をあげると室内には事務長と学園長がいらしていた。


「学園長もいらしたのですか。」


「久しぶりだね。コレット君。」


「お久しぶりです、学園長。」 


「それでどうしたんだい?」


学園長がいるならちょうどいいと思い先ほどの件を学園長にも聞いてもらうことにした。


「先ほど入学希望生が入学試験の申込書を出しに来たときに職員のジャンと一悶着ありまして………」


「あいつめ……またか……」


「またかとは?」


「言いにくいのですがジャンはピエトリ男爵の3男でして……平民の入学希望生に金品を要求するなど多々問題を起こしていまして……」


「なんだと!?その様な奴が我が学園で働いているのか?」


学園長の剣幕が恐ろしい顔になる。


流石、元とはいえヒノハバラ第2魔法師団団長だった方だ。


室内がピリピリとした空気に変わった


慌てて事務長が釈明をする。


「何度か注意をしても変わらないので首にしようとしたのですが……あいつとグルになって動いているのがドゥメルク侯爵家の4男でして……騒げば父に報告すると言われて動けず……」


「ドゥメルク侯爵家か……面倒な……」


相手が侯爵家ではいくら学園長と言えども立ち会うには少し厳しい。


「しかし今回一悶着起こした相手が少し問題でして……こちらをご覧下さい。」


コレットは事務長に書類を渡す。


「アオバ村出身のラグナ?アオバ村ってどこだったか……聞いたことがあるような無いような……」


「アオバ村?アオバ村ってあのアオバ村か!」


「学園長はご存知で?」


「あぁ、お前も聞けば思い出すだろ。魔の森に面して作られたイかれた村だよ!」


「あぁ!あの無能な辺境伯が無理矢理作らせた村ですか!」


「まぁ今では元辺境伯だけどな。でも所詮は辺境の村出身の子供だろう?何が問題なんだ?」


「次のページからの書類が問題なのです。」


事務長が次のページをめくる。


「推薦状だと?辺境の村の子供なの……!?これは本当か!?」


慌てた事務長を不思議に思いながらも学園長は横から書類を覗き見る。


「推薦状か。辺境の村の子に与えるとは変わった奴も居るもんだ。えっと推薦人は……ブリット・エチゴヤ……エチゴヤだと!?」


学園長もその名前に驚きコレットに確認を取る。


「提出しにきた子供の付き添いに執事と思われる方も共に来ていました。今回の件はすでにエチゴヤに知られているかと。」


「マズい、マズいぞ。他人から見たら我が学園があの一族に喧嘩を売ったようにも見えてしまう。」


「それだけでは無いのです……次のページをご覧ください。」


「次だと……?」


2人で恐る恐る次のページを覗く。


顔色が悪くなる2人。


「商業ギルド・女神マリオンの神殿からも推薦状だと……」


「エチゴヤだけでも厳しいのに……商業の女神の神殿までも相手にするなど不可能だ!」


事務長と学園長はすぐさま対応を話し合う。


そして事務長は数人の名前を書いた紙をコレットに手渡す。


「コレット君。今からこの紙に書いてあるメンバーを探し出して、至急この部屋に来るように伝えて貰えるか?」


今学園がどんなに危険な状況にあるのか理解しているコレットはすぐさま行動に移る。


記載されている名前は4人。


ドゥメルク侯爵家4男 レダ・ドゥメルク


ファイヨル伯爵家5男 ヤニック・ファイヨル


ピエトリ男爵家3男 ジャン・ピエトリ


デコス男爵家3男 オルガル・デコス


この4人が受講者から金品を巻き上げていた。


コレットはまず事務室へと足を運ぶと仕事もせずに優雅にお茶を飲んでいる2人を見つけた。


「レダ様、ヤニック様。ご休憩中の所申し訳ありません。」


レダとヤニックは寛いでいる所に邪魔が入ったので機嫌があまりよくない。


「休憩中だとわかっているならば話しかけないで貰えるかね?これだから平民は困るのだよ。」


「そうですねぇ、全く平民の癖に。」


コレットはイラッとはするものの心にその感情は仕舞い込んで2人に用件を伝える。


「事務長室にて学園長と事務長がお二方をお呼びになっております。」


「なんだと!早くそれを言わぬか。ほれヤニック、ついて参れ!」


「わかりました。直ぐに向かいましょう!」


「これで我らも出世であろうな!」


大声で笑いながら歩いていく2人。


冷めた目で2人を見送ったコレットは残りの2人を捜す。


残りの2人の居場所は直ぐに判明する。


学園の職員用休憩所で酒を飲んでいるらしい。


「勤務時間中に酒とは……」


同じ職員として情けなく思う。


2人が居ることはわかっているのでノックをせずに休憩所の扉をあける。


「うわっ。酒くさっ!」


そこまで広くはない室内だったので酒の匂いで充満していた。


「なんだお前は!ノックもせずに。」


「コレット!さっきはよくも無視してくれたな!」


殴り倒したい気持ちを我慢して用件を伝える。


「学園長と事務長が事務長室でお二方をお待ちです。」


「学園長だと?」


「な、なんで学園長が事務長室に居るんだ?」


「理由まではわかりませんが……急いだ方が良いのでは?」


コレットはわざとらしくニヤリと笑う。


「まさかお前、告げ口したのか!こうしてはおれん。急ぐぞ!」


酒に酔っている2人はふらふらになりながらも駆け足で事務長室に向かう。


これから呼び出した4人がどの様なことになるのか……


ワクワクした感情を隠せないまま酒に酔った2人を後ろからコレットは追いかけていく。


そして酔った2人と一緒に事務長室の中へ。


「4人共揃ったな?」


コレットはサラリと学園長と事務長の2人の背後へと移動する。


事務長が一歩前に踏み出すと話し始める。


「4人共今までよく働いてくれた。」


「気にしないでもいいですよ、事務長。我々は当然のことをしているのですから。それで用件は何でしょうか?」


何故この4人が集められたのかきちんと理解していないレダは褒められたと勘違いして、自分と子飼いの3人は出世を告げられると思い込んでいた。


「用件か。そうだな一言お前たちに伝えよう。お前たち4人はクビだ!今すぐ荷物を纏めて出て行け!」


今まで相手の親の身分が高いため強気に出れなかった事務長は、好き放題されていた鬱憤を晴らすべく大声でクビだと叫んでやった。


クビと言われると思ってもいなかった4人は驚き思考が一瞬止まるもののすぐに反撃する。


「私達をクビにするだと?たかが事務長の分際で偉そうなことをよく言えたな。この件はすぐに父上に報告させてもらう!クビになるのはお前の方だからな!」


レダがそう言い放ったのを聞いた学園長は我慢していた感情を爆発させる。


「いいから荷物を纏めてさっさと立ち去れ。立ち去らぬと言うなら俺が全力で相手をしてやる。」


学園長はそう言い放つと右手にはファイアースピア、左手にはサンダースピアを無詠唱で発動させて構える。


「くそっ!学園長が居る限り今は分が悪い。いったん退くぞ」


レダ達4人は慌てて事務長室から立ち去る。


「さて、これからが勝負所だ。エチゴヤと神殿の件はあの4人の親に全て責任を押し付けてやる。」


学園長と事務長は今後の動きについて話し合いを始める。


流石にエチゴヤと神殿には巻き込まれたくないので自分の仕事に戻ろうとしたコレットを学園長が呼び止める。


「コレット君、どこに行くんだ?ここまで一緒だったんだ逃がすわけないだろう?」


「ですよね……わかりました。」


逃げれないことを悟ったコレットは諦めて話し合いに参加するのであった。


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