魔法学園受験申し込みの乱
第90話
「それでは出発します。」
王都に到着して1日。
今日は俺とミレーヌさんとセバスさんの3人は馬車に乗り込み魔法学園の入学試験受付に行く。
「ミレーヌさんは受付終わってるのですか?」
「私は先週の受付開始と共に提出しました。」
「受付って書類出して終わりですよね?」
「えぇ、書類を提出して身分証を提示して確認が終われば終了ですわ。」
それならばすぐに終わりそうだな。
馬車に乗ってからしばらくすると住居区画の時と同じ様に商店がパッタリと無くなった。
そして手入れされた花や植木を見ながら進んでいると馬車が止まった。
「お嬢様、ラグナ様、魔法学園へと到着しました。」
ラグナは馬車から降りると目の前の建物に驚く。
頭の中で想像していた学校のイメージは崩れ去った。
「なんだこれは……」
目の前にあるのは王都に設置されているのと同じくらい立派な城壁。
そして左右に2ヶ所入り口がある。
右側の入り口は魔法学園。
左側の入り口は騎士学園。
外からは一切中が見えないようになっている。
「ミレーヌさん、これは一体……」
王都にある学園だからもっと華やかなイメージをしていた。
「何か変ですか?」
そうか、ミレーヌさんは王都で育っているから学園と言えばこの姿が当たり前なのか……
「私が代わりにお答えするとしましょう。」
ミレーヌさんの代わりにセバスさんが答えをくれた。
魔法学園建設当初は城壁などは無くオープンな作りになっていた。
そのせいで他国からの間者は容易に入り込めるし、住民が誤って入ってきてしまい事故に遭うことも度々あった。
また魔法が暴発し商業区画の方に飛んでいってしまい怪我をする人も。
そこで住民の人々を守るために作られたのがこの城壁だった。
「住民を守る為ですか。確かに魔法が暴発した時は危ないですもんね。」
「ラグナ様は暴発した経験が?」
「ありますよ。以前ですが父さんと訓練中に気を抜いてしまい魔法が爆発して吹き飛んだことがあります。」
「そうでしたか。」
セバスは直ぐにラグナが話した内容の違和感に気が付く。
9歳にして自分が吹き飛ぶほどの魔力を保有しているんだ?
例え魔法が暴発したとても年齢を考えれば精々目の前で小さく爆発して驚く位で済むはず。
「あれ?でもなんで騎士学園も城壁に囲まれているんですか?」
考え込んでいたセバスは頭を切り替えてラグナの質問に答える。
「騎士学園も同様に他国からの間者を防ぐと共に生徒の脱走を防ぐ為に一緒に城壁が作られました。」
「……脱走ですか?」
「騎士学園の訓練は厳しい内容のものが多々あります。甘い考えで入学した者にはつらい日々となることでしょう。その環境から逃げる為にやるのが脱走です。」
「逃げるですか……でも逃げてそこからの人生どうするんでしょうかね?」
「仰る通りです。貴族の子供であれば特にですな。騎士学園から辛くて逃げ帰って来たとしても、受け入れる親は少なかったのでしょう。大半が縁を切られて路頭に迷うと言うことが多発したらしいのです。これは王都でも問題になり、当初は魔法学園だけに建設する予定だった城壁が騎士学園にも延長されることになりました。そして出来たのが現在の姿になります。」
それを聞いて少し顔がひきつるラグナ。
『ってことは騎士学園に入ったら最後。いくら辛くとも逃げることは許されない地獄ってことか。』
「それではお嬢様はこちらでお待ち下さい。私がラグナ様に付き添い手続きを終わらせてきます。」
「わかりました。ラグナ様、頑張って下さいね!」
「まぁ書類を出すだけですから。ぱぱっと行ってきます。」
セバスさんに案内されて入り口へ。
「本日はどの様なご用件でしょうか?」
「入学試験の受験手続きに来ました。」
「わかりました。ではこちらの札をお持ち下さい。この道を真っ直ぐに進むと目の前にある大きな建物の左側に小さな建物があり、そちらが受付となっております。」
「わかりました。ありがとうございます。」
少し身構えていたけど凄く丁寧な対応で良かった。
言われたとおりに進むと左側に入学試験受付と表示してある場所があった。
「すいません。入学試験受付はこちらでよろしいでしょうか?」
「入学試験の申し込みか?」
「はい。」
「そうか。」
受付の人が手を伸ばしてきたので書類を渡す。
「お前、舐めてるのか!」
渡した書類を男の職員に投げつけられた。
その怒鳴り声に気がついた他の女性の職員が出て来た。
「どうかしましたか?」
「ちっ。」
セバスさんが後ろからスッと前に出て来た。
「そちらにおられる方に入学試験の申し込みの書類を出した所、突然投げつけられまして。」
後からきた職員の人が深いため息を吐く。
「またですか……この件は上に報告させて頂きます。」
「……勝手にしろ。」
最初に座っていた人は何やら訳ありか。
いきなり怒鳴りつけられて書類を投げつけられるとは思ってもいなかった。
イラつきよりも驚きの方が大きかったよ。
セバスさんが落ちた書類をいつの間にか回収していて後からきた職員さんに提出した。
「こちらが書類になります。どうかこの場でご確認をお願いします。」
この場で確認してもらうの?
「この場ででしょうか?」
「はい、そちらの方にも判るようにこの場で確認お願いします。」
職員さんが不思議な顔で提出した書類を確認していく。
そして数枚確認後に目が見開く。
「こ、これは……大変申し訳有りません。貴様もすぐに謝罪しろ!」
「なんで俺が平民に謝らなければならないんだ!」
「お前は……!」
「失礼、そちらの方のお名前をお聞きしても?」
「本当に申し訳有りません!はやくお前も!」
「嫌だね。冗談じゃない。」
「お名前をお聞きしても?」
手遅れかと小さく職員さんが呟く。
「先ほどの態度は本当に失礼しました。コイツの名前はジャン・ピエトリです。」
「何を勝手に人の名前を教えているんだ!」
「お前はもう手遅れなんだよ……」
「はぁ?」
「ジャン・ピエトリ様ですか。ピエトリ男爵のご子息ですね?わかりました。」
「だから何なんだよ、さっきから!」
「お前はもういい!下がってろ!」
いきなり怒鳴りつけられたことに驚いた職員は睨み付けてきながらもしぶしぶ奥へと下がって行った。
「この度は本当に申し訳有りませんでした。」
女性の職員さんが深々と頭を下げる。
「ラグナ様、謝罪を受け入れますか?」
「あ、え、はい。僕は書類を受け取って貰えれば大丈夫です。」
「本当に申し訳有りませんでした。」
「ラグナ様が気にしないとするならば謝罪を受け入れましょう。失礼、もう一枚の書類を確認してもらっても?」
女性の職員さんが書類を恐る恐るめくる。
「なっ!!」
「わかりましたか?つまりは我が主の家だけの問題では済まないのです。」
「わかりました……すぐに上司に報告させて頂きます。」
「よろしくお願いしますね。」
「ラグナ様、この度は学園の職員が本当に申し訳ありませんでした。」
「い、いえ……試験を受けられるなら大丈夫なので……」
目の前にいる女性の職員さんの顔色が真っ青になっていた。
「それではラグナ様、この辺で失礼しましょう。」
「わかりました……よろしくお願いします。」
深々と頭を下げた職員さんのもとを離れて馬車へと戻る。
ぱぱっと書類を出して終わりだと思っていたんだけどな……
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