第80話

「終わったぞ。」


父さん達が戻ってきたみたいだ。


ハルヒィさんがロープに結ばれた人間を担いでいる。


「そうか。それでこれからどうするかのぅ。」


「一度戻るべきか?」


一番手っ取り早いのは襲撃自体を無かったことにすること。


ただしそうすると今回誰がこの様なことを仕掛けてきたのかがわからない。


「そういやそっちのやつは?」


「こっちのはあの後そのまま息を引き取ったのじゃ。」


「そうか。とりあえず死んだ奴らは埋めるか。」


「そのままにしておくのもあれだからな。」


ぐるぐる巻きにされた人は村長さんが見張り残りの大人3人で穴を掘ることに。


「穴掘りは私にお任せ下さい。」


御者さんが地面に手を付けて何かを口にすると少しずつ地面に穴が開いていく。


5分くらいで4人分の死体を入れても余裕があるサイズの穴に。


「お待たせしました。」


「魔法使いだったのか?」


「専門ってわけではありませんがね。多少使えるくらいですよ。」


確かにハルヒィさんがスキルを隠すわけだ。


魔法ってもっと一瞬で変化が有るものだと思っていたけど土属性の魔法って時間がかかるのか。


ハルヒィさんなら一瞬で穴が開けられるからな。


そう言えば魔法剣なら使ったことがあるけど、魔法はまだ一度も使ったことが無い。


と言うか本格的な魔法を見たのはミレーヌさんの審問鑑定魔法が初めてだったと思う。


父さんや母さんが使える魔法は着火の小さな火の魔法だし。


「これでいいか。」


4人の死体は穴に埋めた。


一応父さん達には見るなと言われているので死体は見ていない。


生き物の死体は目にしたことがあるけど人の死体はまだ見たことが無い。


確かにまだ見たいとは思えない。


人の死体をみて平然としては居られないと思う。


「さて。どうするか。」


目の前にはロープで結ばれた人。


全身真っ黒な服装で顔も目以外は覆われている。


パッと見た感想が忍者のパチモンみたい。


暗殺者はみんなこんな服装なんだろうか。


「緊急事態ではありますのでこれを使います。」


そう言って御者さんが取り出したのはまん丸の謎の球体。


「それは……?」


「これは転移球と言う魔道具になります。」


「転移球?」


「はい。これとは別に受信柱と言う物がありまして、この球に魔力を込めると数秒後に受信柱の元へと転移することが出来ます。」


それは凄いな。転移が出来るなんて……


「その様な物が……凄いですな。」


「俺もそんな物があるなんて知らなかった。」


どうやら皆も知らないみたいだ。


「最近販売された物なのですが……如何せんいろいろと縛りが多くてですね。」


「そうなのか?馬車とか荷物を送れるなら便利そうだが。」


「これで転移出来るのは登録された受信柱のみ。複数の受信柱は登録出来ません。さらに受信柱より半径50km以内、重量は100kgまで。そして最大のネックが転移球一つでミスリル銀貨1枚も掛かることです。」


ミスリル銀貨1枚って……1億円かよ!


50kmの移動でミスリル銀貨1枚って考えると本当に高いな。


どうしても生き延びなければならない人間が万が一の為に持つなら有りだけど……


それに受信柱より50km離れていたら使えないって言うのもな……


「その様なものを何故あなたが……?」


「商会長様が襲撃を警戒しておりまして。万が一の時にはラグナ様だけでも転移させて逃して欲しいと厳命されておりました。」


「そうなのですか。それでは今からそれを?」


「いえ、使うのは朝になってからにしましょう。幸いまだ50kmも離れてませんから。」


確かに出発したのは午後だったし。


馬車と言っても正直な所、徒歩で移動するのと対して変わらない気がする。


むしろ父さんとハルヒィさんなら走った方が1日の移動を稼げるんじゃないだろうか。


その後話し合いの結果、ハルヒィさんと父さんが朝まで火の番と捕縛した人間の監視。


俺と御者さんと村長さんは寝ることになった。


ハルヒィさんは朝まで寝ずの番らしい。


話し合いの時に目を覚ました襲撃者が騒いだのでどうするのか見ていた所、御者さんが馬の馬具から容器を取り出して何かを飲ませた。


するのと騒いでいた襲撃者がすぐに大人しくなる。


「騒がれると面倒なので睡眠薬を飲ませました。これで半日は静がにしてくれるでしょう。」


飲ませた液体は睡眠薬だったらしい。


とりあえず火の番を父さん達に任せて寝ることにした。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る