第79話

完全に日が暮れる前に街道の横に馬車を止めて夜営準備をする。


死角が全くない草原ではなくあえて木がパラパラと生えている場所を拠点として選んだみたい。


御者さんは街道側に馬を休ませていた。


襲撃の際に馬を襲わせないようにだろうか?


「うんじゃまぁ俺はちょっと散歩でもしながら薪拾いしてくるわ。」


「気をつけてな。」


ハルヒィさんは木がある方に散歩に出掛けた。


「大丈夫なの?誰か来てるんじゃないの?」


「アイツなら大丈夫だろ。それよりもこっちは飯の準備だな。」


「ご飯かぁ。御者さんがいなければ母さんが作ってくれたご飯を収納から取り出せるんだけど……」


「流石にここで出すわけにはいかんだろう。とりあえず村までは我慢するしかあるまい。」


以前誰かがこの場所で夜営でもしたのだろうか?


石で簡易的なかまどが作られたままになっていた。


とりあえず馬車に積んでいた鍋を取り出しスープ作りへ。


水を入れた鍋にエチゴヤ商会で購入した干したキノコと干した野菜、干し肉を刻んで茹でる。


「うーん、キノコの出汁は出てるけど物足りない。少し塩を足すか。」


干し肉の塩分では足りなかったので塩を追加。


父さんに味見チェックをお願いする。


「ほぉ。干したキノコってのはここまで味が出てくるのか。夜営の料理にしては美味いな。」


「本当ならスパイスも入れたいとこだったけどね。」


「それは仕方ないだろう。皆を集めて飯にするか。」


父さんが村長さんや御者さんを呼びに行く。


「飯が出来たのか?」


身体がビクッとして後ろを振り向くとハルヒィさんが居た。


「全く。気配を感じるのが遅いぞ。」


「ごめんなさい。本当に全く気が付かなかったよ。」


一応1人になったので警戒はしていたつもりだったけどハルヒィさんが側にくるまで気が付かなかった。


その後父さん達が来たので食事。


「私までお世話になってしまい、すみません。」


「気にしなくてもいいんじゃよ。こちらこそわざわざ馬車で送ってくれて助かっておるのだから。」


御者さんがスープを一口。


「これはうちの商会で取り扱っているキノコですか。」


「はい、いい味が出そうなので買ってみました。」


「結構売れているのは以前から知っていましたが……恥ずかしながら初めて食べました。」


「そうなのですか?商会で働いているなら一通り食べているのかと。」


「中で働く人間なら一通り食べているんでしょうけどね。私はどちらかというと護衛の様な仕事が多いもので。それにこれらはよく売り切れるので商会の人間が買ってしまうのは周りからの視線がですね………」


「やっぱり売れているんですか。これ美味しいですよね。」


皆でスープを飲みながら黒パンを食べた。


「それじゃあ今日の火の番は2人1組でいいか?」


「僕は?」


「子供は寝るのが仕事だ。」


今日の火の番は村長さん、ハルヒィさんペアと父さん、御者さんペアに決まった。


そして御者さんと父さんは馬車に寄りかかりながら就寝。


俺だけ馬車に乗せられて寝ることに。


「仕方ない、寝よう。」


俺なんかが警戒しても足手まといだからね。



『ラグナ、起きなさい。』


ん?


『ん?じゃないよ。起きて!』


頭の中に声が聞こえる。


『サリオラ?もう朝かな。おはよう。』


まだ眠いけど起き上がる。


『襲撃が来るわよ!』


襲撃?


襲撃!!


急いで剣を握りゆっくりと馬車から顔を出す。


「ラグナは馬車の中から顔を出すなよ。」


馬車から外を覗こうとしたら座ったまま父さん達は警戒していた。


暫くすると少し遠くの方でベキッという音がした。


「来るぞ!」


側にいた父さんは走って音がした方に向かっていった。


御者さんは馬車を守るみたいだ。 



火の番をしていた村長とハルヒィは雑談をしながら複数人の気配に気が付く。


「せめて寝た後が良かったんだが。」


「まぁ儂らは移動中に馬車の中で寝るしかあるまい。」


複数人の気配に気が付かないフリをして雑談をしながら誘いを入れる。


暫くしたあとベキッという音と「ぐはぁっ」と言う音が聞こえたので剣を握りしめて立ち上がる。


暗闇からこっちに走ってきた気配は4人。


「遅い!」


ハルヒィと村長の後ろから走ってきたグイドが魔法剣を発動して剣を振るう。


一瞬にして2人の気配が消える。


ただの村人と油断していた襲撃者は突然の魔法剣に驚き一瞬の隙を作ってしまう。


「ふん!」


油断した襲撃者に村長は剣を振るう。


反応に遅れた襲撃者の1人はそのまま斬られてしまい命を落とす。


残る襲撃者は1人。


「くそったれ!」


襲撃に失敗し不利を悟った襲撃者は逃走しようとするも首に何かが刺さったような感覚がした。


そしてそのまま意識を失う。


「これは?」


「いつも狩りで使う麻酔針だ。人間に使ったのは初めてだけどな。」


「あれか。魔物には使ったことがあるけど確かに人間には使ったことが無いな。」


村長がハルヒィが仕留めた襲撃者に近寄る。


「これを見てみぃ。」


グイドとハルヒィも近寄って見に行く。


グイドが魔法で小さい灯りを点けて顔を確認する。


襲撃者の1人は口から涎を垂れ流し目はギョロギョロと動き、身体が小刻みに痙攣していた。


「人間に使ったらダメってことだけはわかったな。」


馬車の方から御者もこっちに近寄ってきた。


「お疲れ様です。流石、アオバ村の方々だ。完勝ですな。」  


御者は痙攣している人間をチラリと確認する。


「んじゃここは村長と任せた。グイドちょっと付き合え。」


村長と御者をその場に残し2人は最初に音がした方へ。


魔法の光を頼りに木の側に近寄るとそこには大きな穴が。


魔法をかざすと中に1人落ちていて気を失っているようだった。


「んじゃ元に戻しますか。」 


ハルヒィが地面に手をかざすと地面に開いていた穴の下から土が盛り上がっていきあっと言う間に落とし穴が塞がる。


穴に落ちていた人間は呼吸があるようなのでロープで縛り上げて行く。  


そして担いで皆の所へ。


こうして襲撃はあっという間に片付いたのであった。

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