第54話
領主の私兵達に捕まってから3日。
ようやく『ナルタ』に到着した。
本来なら2日あれば到着する距離だったのだが……
この私兵達はサイさんの馬車に積んでいた酒やら食料を夜になると勝手に食べて飲んで好き勝手騒いでいた。
お陰で見張り以外の兵は朝になっても全く起きてこない。
昨日なんて街道沿いにある村で商いをしていた商人に馬車に積んでいた魔物の素材などを勝手に売却しその利益を自分達の懐に入れていた。
領主の私兵と言うよりも山賊と言った方が正しいんじゃないかな。
荷馬車の荷を好き放題やらかしている兵士を見るサイさんの表情は絶対に忘れない。
感情を押し殺した無の表情。
サイさんの目を見てもなんの感情も感じられなかった。
しかも『ナルタ』に到着するまでに与えられた食料や水は本当に最低限。
父さん達も相手が相手なので感情を押し殺し我慢していた。
そして3日目の午前。
ようやく街に到着した。
目の前には一列にずらっと街に入るための手続き待ちの長蛇の列。
辺りを見渡すと街をぐるっと囲んでいる石造りの壁。
「大きい……」
あまりの大きさに圧倒されていた。
「さっさと歩け!」
偉そうな兵士に後ろから軽く蹴られたので仕方なく歩き始める。
どうやら街の中に手続き無しで連行されるみたいだ。
そしてふと視線を感じるので辺りを見渡す。
領主の私兵達にロープで繋がれたまま歩かされる俺達。
街の住人の見世物になっていた。
完全に冤罪なのにまるで見せしめだな。
大通りを繋がれたまま歩いていると大きな商店が見えた。
店の前を通り過ぎようとした時にこっちを見ていた店員らしき人がサイさんの方を見てギョッとした顔をしたあとに慌てて店の中に入って行った。
サイさんが俺を見ながらにっこり笑っていた。
どうやら店員の人がサイさんを見つけたらしい。
あえてサイさんは何も言わずに大人しくしているつもりらしい。
その後、城のような大きい建物の前まで連れてこられた。
どうやら今からこの城に入るみたいだ。
兵士達の一部が城の中へと入って行った。
改めて建物を見上げる。
「おっきな城?」
思わず声が出てしまった。
サイさんがちらっと教えてくれた。
「ここはナルタ辺境伯のお城です。万が一魔物が大群で押し寄せた場合の防衛拠点としても使用できるような作りになっているんだ。」
「ん?うちの村の領主様が辺境伯ってことは王都はもっと遠いってこと?」
「何を喋ってるんだ!大人しくしとけ!」
偉そうな私兵にまた軽くだけど蹴られた。
蹴られた拍子に転ぶ俺。
「子供に何してんだ!」
俺がさっきからこの兵士に何度も蹴られてる姿を見て父さんの我慢の限界がきたらしい。
でも手はがっちり結ばれてるので父さんは反抗出来ない。
俺のことを蹴った兵士が目の前を通り過ぎて父さんの方に行こうと背を向けた。
このままだと次は父さんがやられる。
ならば今が復讐のチャンスだ。
起き上がる振りをしながら指を偉そうな兵士のおっさんの尻
に向けてセット。
小さい声で。
「ガストーチソード。」
針のような物凄い細長い炎を一瞬作り立ち上がるフリをしながら兵士の尻へ。
「いてぇー!!!」
針に刺されたような痛みに飛び上がる兵士。
見事ヒットしたらしい。
下を向きながら立ち上がるフリをしていた俺のことを誰も怪しむことなく叫び声に兵士達がわらわらと集まってきた。
「ケツが!ケツがいてぇー!」
そう騒ぐ偉そうな兵士の尻を後ろから兵士が確認するが服を見る限り特に異常が見つからない。
「後ろから服を見る限り異常はありませんが……」
困惑する兵士にそんな訳があるか!と怒鳴り散らす兵士。
他の兵士も特に何かに刺されたりしたような穴は無いと伝えているが当の本人は尻の痛みでもがき苦しむ。
「絶対に刺されてる!ケツがヒリヒリして痛い!」
騒ぐ兵士を後ろから見ていた部下達がスッと離れていく。
「はやく見てくれ!痛いんだ!」
騒ぐ兵士の尻付近の服がどんどん濡れてきたので漏らしたと勘違いされたらしい。
「ぐふっ。隊長、異常は特に見つからないのでとりあえず医務室まで!」
部下の兵士達は笑いを堪えながら医務室まで運び込んで行った。
俺達と領主の城から出てきた兵士達だけがその場にポツンと取り残された。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます