第55話

領主の城の前での一騒動の後、先に城の中に入っていた兵達が俺達の前に戻ってきた。


「決して騒ぐなよ。着いてこい。」


ロープを引っ張られ手を結ばれたまま城の中へと連行される。


そして広間のような所に連れてこられた。


「頭を下げ跪け。辺境伯様が来られる。」


サイさんがいち早く跪き頭を下げたので残った俺達も仕方なく頭を下げる。


ガチャリ。


扉が開く音がした。


コツコツ。


重たい足音と軽めの足音。


領主とあと1人誰かが来たらしい。


軽い足跡が俺の目の前で止まる。


「汚らわしい。」


目の前にあった片足が急に消えたと思ったら頭に衝撃が来た。


「ぐふっ。」


急に頭を蹴られて倒れ込むラグナ。


突然の痛みに顔をあげると目の前には同じ歳くらいの太った子供が。


「誰の許可があって顔を上げていいと言った!愚民め。」


目の前にいた子供が今度は足を振り上げて頭を踏みつけてきた。


「頭が高いんだよ!平民が!」


グリグリと頭を踏みつけてくる。


一応鍛えられてる身からしたらまだまだ我慢出来る痛み。


痛くはないけどこの扱いはなんなんだ。


転生してから9年。


前世から含めても此処までイライラさせられたのは初めてだった。 


(コイツ調子に乗りやがって。)


ラグナのイライラが爆発する寸前。


側に居た男が声を発した。


「止めよ、みっともない。」


「わかりました、父上。」


ラグナの頭を踏みつけていた子供は素直に従った。


ラグナはイライラしながらもチラッと横を見ると父さんと村長さんとハルヒィさんが下を向きながら必死に我慢しているのが見えた。


「顔をあげよ。」


指示に従い顔をあげると目の前にはでっぷりとした親子が偉そうに椅子に座っていた。


「それで?なんで我が子の防具をお主等が……!!」


偉そうな男が俺達の顔を見渡しながら話している最中に言葉が止まった。


目線を辿るとサイさんの場所で止まっていた。


「な、何故御主が……」


サイさんが立ち上がり挨拶をする。


「ご領主様、お久しぶりです。」


「お、おい!ロープをすぐに解くのだ!この御方に椅子を用意しないか!」


領主と呼ばれた男は側で控えた男達は直ぐにサイさんの手を結んでいたロープを解き椅子を用意するように伝えた。


「出来れば全員のロープを解いて椅子を用意して貰いたいのですが?」


自分の領主に口答えする男に驚き固まる兵士。


「……よい、言われたようにせよ。」


兵士は敬礼するとすぐさまロープを解き椅子の準備に取り掛かった。


すぐに椅子が運び込まれ全員が着席することに。


ゴホンと領主が咳払いしたあと話始めた。


「それで……何故エチゴヤの御曹司が我が子の防具と短剣をお持ちに?」


領主がそうサイさんに聞き始めた所、部屋の扉がトントンとノックされ、1人の兵士が部屋の中に入室してきた。


「なんじゃ。」


領主が不機嫌な態度で兵士を部屋の中に入れた。


そして入室してきた兵士が耳打ちで何かを伝えた所、領主の目がこれでもかと見開いた。


「すぐにお通しせよ!」


領主が慌てている。


すぐに見知らぬダンディーなオジサマが部屋の中に入ってきた。


そしてサイさんを発見すると走ってきた。


「大丈夫だったかい!愛しの我が息子!怪我は?どこか痛いところは?何でロープの痕が?ここ怪我してるじゃないか!」


領主の目の前に現れた謎の男。


サイさんのことを我が息子って言っていたってことはこの人はサイさんの父親?


「父様、落ち着いて下さい。死にかけはしましたがこの方達のお陰で命を失わずに済みました。私の命の恩人です。」


父様と呼ばれた男はこっちに振り向くと頭を下げた。


「この度は息子の命を救って頂き感謝します。私はエチゴヤと言う商家の代表のブリットと申します。」


ブリットさんは俺達全員と握手をしながら感謝を伝えて回った。


子供だからとバカにすることもなく俺にも感謝を伝えてくれた。


俺は特に何もしていないんだけど。


チラッと領主を見るとブリットさんに何も言えないのかムスッとした顔のまま我慢している様子だった。

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