第53話

初日は特に問題も起きることなく夕食を食べて寝ていたはずなんだけど……


どうしてこうなった……


ラグナ9歳。


只今両手を縛られてロープで繋がれて歩いて領主の街へ向かって連行されております。




夜中にトイレに行きたくなり目が覚めた俺。


俺とサイさんは馬車の中で寝ていたのでサイさんを起こさないようにゆっくりと降りるとちょうどハルヒィさんが火の番をしている時だった。


「ラグナどうした?こんな時間に。」


「ちょっとトイレに行きたくなって起きちゃった。あとの2人は?」


父さん達の居場所を聞いたらハルヒィさんがハンドサインをするのでその方向を見ると村長さんと父さんはそれぞれ木に寄りかかりながら座った状態で寝ていた。


何かあった時にすぐに動けるようにってことか。


「ちょっとトイレ行ってくるよ。」


「そこまで危ない動物は居ないと思うけど気をつけろ。遠くまでは行くなよ。」


「わかってるよ。行ってきます。」


歩いて1分もしない所で用を足して戻ろうとした時。


何故かだいぶ先の方で火が移動しているのが見えた。


後ろを向くと俺達がいる焚き火の光がある。


「誰か近くにいるのかも。」


なるべく音を立てないように気を付けながら急いで戻る。


「ハルヒィさん!あっちの先の方で火が移動してるのが見えた。」


父さんと村長さんも目を開けて立ち上がる。


ハルヒィさんはハンドサインで父さん達とやり取り。


俺は馬車の中に入りサイさんを起こす。


「サイさん、起きて下さい。」


サイさんを揺すって起こす。


「っん? もう朝かぃ?」


「まだ夜です。遠くの方で火が移動してるのが見えたので父さん達が警戒してます。」


「えっ?こんなメイン街道じゃない山に近い道の近くで?」


サイさんと帆馬車の中から外を覗く。


どうやらこっちの焚き火に気がついたみたいで火が近付いて来ている。


父さんは借り物の剣を構えてハルヒィさんと村長さんと警戒態勢のまま待ちかまえている。


「夜盗なら火をつけながら移動なんてしてこねぇ。冒険者か何かか?」


「いや、冒険者にしては数が多すぎる。そもそも夜に移動なんて普通ならしない。」


徐々に火が近付いてくる。


うっすらとシルエットが見えてきた。


みな同じ様な装備。


ガシャガシャ移動時に音がする。


どこかの軍だろうか?


村長さんが声を掛けるみたいだ。


「お主達はこんな夜に大人数で何をしておるのじゃ。」


兵士?の1人が近寄ってきた。


「とある人物を探している。お前達こそこんな所で何をしている!」


「見て分からないか?普通に野営をしているだけだが。」


「こんな人通りが少ないところで野営だと?怪しい奴らめ。調べろ!」


「なっ!いきなりなんだ!」


なんか兵士達の様子がおかしい。みんなイライラしてるな。


周りを見渡すと20人ほどの兵士に囲まれてる。


突然馬車の方に5人ほど近寄ってきた。


「出ろ!」


いきなり兵士に腕を捕まれて地面に引きずり落とされた。


「いてて。」


「おい!俺の息子に何をするんだ!」


父さんが馬車から引きずり落とされた俺の姿を見て声を荒げた。


「グイド!」


村長さんが父さんに怒鳴り引き留めた。


「我々に刃向かう気か!」


ラグナを引きずり落とした兵士がラグナの腕を踏みつける。


「うぐっ。」


引きずり落とされた挙げ句腕まで踏まれるなんて……


腕がめっちゃ痛いし、理不尽な対応すぎてイライラが爆発しそう。


「こんな子供に何をしてるんですか!」


サイさんが俺の腕を踏みつけてる兵士に怒鳴った。


「我らに対してなんて口のきき方だ!」


ドゴッ。


サイさんが兵士に殴られた。


そして倒れ込む寸前、口元がニヤリと笑ったように見えた。


俺とサイさんを取り押さえた兵士以外の3人が馬車の中を物色。


「何かあったか?」


偉そうな兵士が物色している兵士に声を掛ける。


「酒と食料がメインで後は魔物の素材なども積み込まれてます!」


酒と聞いたら時に偉そうな兵士の機嫌が良くなった。


「ならばそこで取り押さえられてるヒョロイのは商人か。まぁいい。我らに刃向かった罰だ。馬車ごと我らが徴収する!」


「そんな!!私はこれからどう商売していけばいいのですか!」


サイさんが迫真の演技?のようなことを言い始めた。


村長さん達もサイさんの狙いに気がついたみたいだ。


たぶんこいつらは領主の軍だ。


あの時に魔物に追いかけられていた奴らの一部がたぶん領主の身内だって話だったし。


兵士達がイライラしてるのは無理矢理捜索任務をやらされてたからだろう。


きっとこの後にあいつらの遺品が見つかる。


そして騒がれる。


俺達が仕留めたと犯人扱いされるんだろうな。


一応その場でいきなり切られたりはしないだろうけど……


切られたりしないよね?


サイさんはきっとこの対応も込みで領主に突っかかるんだろう。


斬られる可能性もゼロじゃないだろうに。


自分の命を博打に勝負に出るのか。


「隊長!ちょっと来て下さい!」


馬車の中を漁っていた兵士の1人が偉そうな兵士に声を掛ける。


「どうした?」


「これを見て下さい。」


どうやら遺品を発見したらしい。


「これはあの方の短剣だ。」


遺品を手に持ちながら隊長と呼ばれた兵士がこっちに振り返る。


「お前達がなんでこれを持っている!正直に答えよ!」


村長さんとサイさんが隊長と呼ばれている兵士に事情を説明した。


サイさんがうちの村から次の村まで積み荷を運んでいた所魔物に襲われた。


そしたらたまたま近くに俺の狩りの練習で一緒に来ていた村長さん達に助けられた。


魔物を仕留めた後に近くでさらに人の叫び声が聞こえたので向かうと魔物に襲われたのか複数の遺体があった。


残る魔物を討伐して遺体を確認したら領主の身内の方だとわかり遺品を回収して領主の街に届けに向かっている最中だと説明していた。


微妙に事実とはかけ離れてるけど事実な所は事実。


ちょっと嘘くさいけど。


「話は良く出来てはいるな。だがそれが真実だという証拠など無いだろう!お前達を『ナルタ』まで連行する!」


そう言うと兵士達が馬車に積んでいたロープを持って俺達を拘束し始めた。


「ラグナ大丈夫か?」


手を拘束されながら父さんは俺の心配をしていた。


「勝手に話をするな!大人しくしておけ!」


手を結んでいる兵士に怒鳴られた。


するとゾクゾクとした殺気が一瞬後ろから感じられた。


兵士も殺気を感じたのか一瞬体がビクッとなっていた。


「ふぅ。」


後ろで深呼吸が聞こえた。


つまり殺気を出した犯人は村長さんか。


こんな感じで俺達は話を碌に聞いて貰えぬまま拘束されて徒歩で領主の街まで連行されることとなった。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る