第52話
父さん達が村に帰ってから2日。
いよいよ今日は領主の街『ナルタ』に向けて俺たちは出発する。
どうやら領主の街までは徒歩で2日半。まぁ実質3日間かかるらしい。
途中どこかの村に寄るのか聞いたが、この人数なら小さい村だと泊まる場所も無いだろうとのこと。
つまり野宿で最短ルートで向かうことになると父さんに教えてもらった。
サイさんの馬車を引っ張る馬はうちの村で飼育している馬を2頭買い取った。
この費用は街に到着後に領主と
領主にそこまで強気で行けることにびっくりした。
馬車に必要物資や遺品の積み込みの確認をしたあとはいよいよ出発。
父さんとハルヒィさんは徒歩。
俺と村長さんは商人のサイさんの馬車に乗ることに。
領主の街までは2日半ってことは徒歩で1日約30~40kmくらいは歩けるはずだからここから多めに見ても100kmくらいの移動ってことか。
ちなみに帰りは暖かいご飯が食べたいので俺の収納に多めに5日間4人分の食事を収納してある。
帰りは俺と村長さんも徒歩で帰るので食料は長めに見積もってある。
「それじゃあ出発するかのぅ。」
「皆、気をつけてね!」
母さんもお見送りに来てくれたのか。
父さん達が帰ってきた日の夜。
父さんは俺のことも連れて行かなきゃ行けないことを母さんに伝えた。
そうしたら一気に母さんの纏う雰囲気が変わり……
そのあとに買ったばかりの剣を壊したと報告した時の母さんのあの笑顔。
俺は絶対に忘れない。
ひたすら頭を下げて謝り続けた父の姿。
正直見たくは無かった。
「ラグナ、お土産買って来いよ!」
あれはイルマか。
お土産買いに行ける雰囲気じゃないからな!
サイさんが馬達に声をかけ馬車は出発した。
「2日半かぁ。長いなぁ。」
「ラグナは馬車に乗ってるんだから魔物や動物の警戒をしながら弓で狩りの練習だな。」
「ラグナは弓の方はどうなのじゃ?」
ハルヒィさんが苦笑いしながら答える。
「辺境の村出身なのに今後大丈夫か不安になる腕前だな。」
最近ようやく動かない的に当たるようになってきたレベル。
普通の魔法に続き弓の才能も無かったらしい。
普通は異世界転生って有力なスキル貰って最初からある程度強いんじゃないのか?
まぁ珍しいスキル?を貰ってるから文句は言えないけど。
「村の子供の中じゃイルマが一番の腕前だな。」
そう。まさかのイルマが子供達の中ではぶっちぎりの命中率。
狩人チームに連れられて動物しかいないあの森に行き飛んでる鳥を矢で撃ち落としたらしい。
俺よりも先に狩人デビューしていた。
まぁ魔物デビューは俺の方が先だけどな!
村長さんに教えて貰いながら狙えそうな獲物は弓でチャレンジ。
「もう少し先を呼んで狙わないと当たらんよ。」
元現代日本人には狩猟なんてしたこと無いから。
転生して9年経過したとは言えそう簡単に身に付くものじゃない。
「それじゃあラグナ見ておるのじゃぞ。」
村長さんは獲物を見つけると座ったまま弓を構える。
「ふぅー。」
村長さんは構えたまま息を吐いた時に違和感に気がついた。
「っ。」
村長さんは矢を放つと地面の虫をツツいていた鳥に命中。
見事に小さい頭に矢が突き刺さっていた。
「これはホロホロ鳥だのぅ。今日の夜にでも捌くとするかのぅ。」
そう言いながら村長さんはあっと言う間に捌き内臓を取り出した。
「あとはゆっくり馬車に乗りながら羽でも毟っておるかのぅ。」
流れるような手捌きを忘れないようによく観察しておく。
その後は整備された街道だったので特にめぼしい獲物に出会うことは無かった。
2日前に魔物に出会った近辺でも特に異常無し。
そして無事に1日目の野宿ポイントに到着した。
「何事も無く無事に予定地点まで到着したのぅ。」
「そうですね。やはり私としては魔物に襲われた場所を通るときに思い出してしまい落ち着けませんでしたけど。」
「サイさんもですか。僕も思いだしてしまい少し怖かったです。」
あれがきっとフラッシュバックってやつなんだろうね。
気がついたらあの女神?から貰った赤い宝石を握りしめていた。
今日の夕食は村長さんが仕留めたホロホロ鳥の焼き鳥。
後は村で準備していた乾燥野菜と干し肉のスープとまだ柔らかめなパン。
「今日は順調に進めたから後1日半。気を抜くでないぞ。」
夕食も終わりあとは寝るだけ。
夜の火の番は村長さんとハルヒィさんと父さんが交代でやるらしい。
俺も手伝うと言ってみたものの子供は寝てろと笑われてしまった。
仕方ない。
明日も朝は早いので諦めて素直に寝ることにした。
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