第47話
ラグナは家に帰宅すると母さんに事情を説明した。
「ラグナ本当に怪我は無い?」
母さんは俺に怪我が無いことに安堵すると涙を流していた。
「本当に無事で良かった。」
父さんに引き続き母さんにも抱きしめられた。
「本当に今回は運が良かったんだと思う。僕はもっともっと鍛えて強くならないといけないんだ。」
「だからといって危ないことはしちゃだめよ?」
今回の件に関しては完全なるイレギュラー。
普段なら魔物が居ない森の中まで魔物を引き連れ、さらに街道に解き放つおバカ集団のお陰で死にかけたんだし。
あの娘が守ってくれなかったら確実に牙に突き抜かれて死んでた。
魔物と目があった時に殺されるってパニックになってしまい全然動けなかった。
この世界に来て初めてあそこまでの殺気を感じた。
もっと心と身体を鍛えなきゃ。
ワイルドボア如きにビビってどうするんだ。
この世界にはドラゴンだって居るはずなんだし。
ラグナが改めて決意していたその頃。
グイド達は狩人の仲間達と共に街道沿いを走り続けていた。
そして……
グイドとラグナがワイルドボアと戦った付近まで移動すると、目の前には倒れた馬車と既に息絶えている馬が2頭横たわっていた。
「お前達は周囲にワイルドボアが居ないか探索しろ!わしらは馬車を調べる!」
村長とハルヒィと共に馬車に駆け寄る。
馬車の周囲には人影が居ない。
馬車の中を調べる。
馬車の中には傷ついて重傷の商人が横たわっていた。
「大丈夫か!?」
ハルヒィが商人のもとへと駆け寄る。
「ま、魔物に襲われ…ました…」
「ワイルドボアか?」
「大きな猪だったので…そうだと…思います。」
商人から話を聴いていると周囲を探索しにいった狩人の仲間の1人がやってきた。
「ワイルドボアが居たぞ。5頭だ。1頭は死んでるな。5頭は食事中だ。たぶんグイドに押し付けた奴らが餌だろう。」
「ハルヒィはここで商人の護衛を。わしらは5頭を狩ってくる。」
「わかった。気を付けろよ。」
グイドと村長は仲間達のもとへ。
物音を立てない様に。
匂いでバレない様に風の向きに注意しながら一歩ずつワイルドボアのもとへと近づく。
食事中の場所は木々が立ち並ぶ森の入り口だった。
数名は木の上に上る。
未だにワイルドボアはグイド達に気付いた様子は無い。
村長が草陰に隠れながら手を挙げる。
その合図と共に木の上に登った狩人達は弓を構える。
準備は整った。
魔物狩りの始まり。
村長は手を振り下ろすと木の上に居た狩人達が一斉に弓を射出する。
5頭のうち1頭は頭蓋骨を貫通したようでその場で倒れて絶命。
5頭のうち3頭は身体のどこかに矢が刺さり傷を負っている。
そして身体が大きい1頭だけは引き締まった筋肉により矢がほとんど刺さって居なかった。
村長は直ぐに指示を出す。
「でかい奴はグイドに任せて残りの奴らはわしらでやるぞ!」
その声を合図に本格的な戦闘が始まった。
木の上にいた狩人達は前足に矢が刺さって動きが悪くなっているワイルドボアを弓で狙う。
「先ずはあいつを俺達でしとめるぞ。仲間に当てるなよ!」
5本の矢が機動性を失ったワイルドボアに襲いかかる。
機動性を失ったワイルドボアなど簡単な的であった。
全身に矢が刺さり倒れ込むと動かなくなった。
まだ息はあるもののすでに虫の息。
残りは3頭。
1番大きいワイルドボアはグイドが。
1番小さく片目に矢が刺さっているワイルドボアは村長が。
最後の1頭は2人掛かりで抑え込んでいた。
この混戦の中で弓矢は誤射の危険があると判断した弓部隊のリーダーは直ぐに指示をだす。
「お前は矢で倒れたワイルドボアの息の根を確実に止めろ!お前達2人は村長を手伝え!あとは俺とお前で仲間達のとこに行くぞ!」
直ぐに弓矢を仕舞うと短剣を片手にそれぞれが指示された獲物のもとへ。
「村長、助太刀する!」
村長のもとへと急行した2人はワイルドボアの死角より強襲する。
両サイドから後ろ足の付け根へと短剣を振りかざす。
「プギャーー!」
強襲を受けたワイルドボアは痛みに声を上げる。
その隙に村長はもう片方の眼へと剣を突き立てる。
グシャ。
眼が潰れる音とともに剣を引き抜く。
急に視界を失った恐怖とあまりの痛みに暴れまわるワイルドボア。
嗅覚と聴覚しか残されて居ないワイルドボアなど簡単な獲物だった。
村長は暴れまわるワイルドボアの前足へと狙いをつけると剣を振りかざす。
そのまま剣を振り抜くとワイルドボアの右前足は切断された。
そして倒れ込むワイルドボア。
すかさず首に剣を突き刺し息の根を止める。
村長は周囲を確認する。
するともう1グループも複数人で剣を突き刺し息の根を止めた所だった。
カンッ!
金属音が発生した方に眼を向けるとグイドの魔法剣が大柄のワイルドボア牙の一つを根元から切断した音だった。
「見てないで手伝えよ!こいつ力がやべぇ!」
ワイルドボアが残った反対側の牙でグイドの魔法剣を振り払う。
パワー負けしたグイドはその威力にたまらず後退する。
「結構な大物じゃのう。群れの長か。」
「ここまで育ってるんだ。魔の森の入り口のグループって訳ではないだろう。」
1人戦うグイドを余所に村長達はワイルドボアの長を観察していた。
「のんきに観察してないで手伝えよ!」
グイドは村長達に叫ぶ。
「仕方ないのぅ。それじゃあ儂とお前さんの2人で手助けに行くとするか。」
村長と弓部隊のリーダーの2人でグイドの救援に。
残りのメンバーは周囲の警戒を行った。
グイドは村長達が救援に来たことを確認すると火の魔法剣を発動。
そして突撃してきたワイルドボアを避けてすれ違いざまに切りかかる。
火の魔法を纏った剣はワイルドボアのわき腹を切り裂く。
ジューッと肉が焼けた香ばしい匂いと共に悲鳴をあげるワイルドボア。
すかさず村長達はワイルドの足に剣を振りかざす。
今回は切断とまではいかなかったものの深い傷を与えることが出来た。
動きが悪くなったワイルドボアはこのままでは不利だと悟り滑稽にも逃げようとする。
流石群れのリーダー。
若い群れのワイルドボアならば最後まで立ち向かってくるものの、長年の時を生きたワイルドボアは逃げて生き残ることを選択していた。
しかし逃げようとするワイルドボアをこのまま逃すグイド達ではない。
グイドは風の魔法剣を発動させると逃げようと背を向けたワイルドボアの左後ろ足に向けて剣を振りかざす。
振りかざした剣より風の刃がワイルドボアのもとへ。
「プギャーー!!ブモォ!」
後ろ足を負傷したことにより逃げきれないことを悟ったワイルドボアは振り向くと最後の力を絞って1番自分を痛めつけてきたグイドのもとへと突撃する。
村長達がワイルドボアに剣を突き立てるもお構いなしにグイドのもとへ。
村長達はたまらず剣から手を離す。
剣が刺さったまま走り続けるワイルドボア。
グイドはここ1番の時にだけ使用する雷の魔法剣を発動する。
そして眉間へと剣を突き立てる。
手には肉に突き刺さった感触はあったものの頭蓋骨までは貫通しなかった。
このままではワイルドボアに突き飛ばされると判断したグイドは握っていた剣を手放すと横に身体を避ける。
ワイルドボアはそのまま走りつづけ木に頭から衝突。
ガキン。
何かが壊れた音と共にワイルドボアは倒れ込む。
動かなくなったワイルドボアの姿を確認すると、ようやく息をつくことが出来た。
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