第48話
横たわる大きなワイルドボアは息絶えていた。
グイドは眉間に突き刺した剣を回収しようと移動するとそこには無惨にも砕け散った剣の残骸が落ちているだけだった。
「やっぱりラグナのようには上手くいかねぇか……」
グイドはそう呟くと剣の柄だけを拾い上げた。
拾い上げた剣の柄は歪んでおり木片が食い込んでいた。
どうやらワイルドボアが木に衝突した際に突き刺した剣と木が衝突。
そして頭蓋骨を貫通し、深く突き刺さり絶命したと思われる。
まぁどっちにしろ雷を纏った剣が頭に突き刺さったので電気により脳にダメージもあったのかもしれないが。
「皆、怪我は無いかのぅ。」
村長は皆の姿を確認する。
多少の切り傷はあるものの怪我らしい怪我を負っている人間は誰もいなかった。
「儂はグイドとボンボン共の亡骸を確認する。残りはワイルドボアを燃やす穴を掘るんじゃ。流石に人を食べてた魔物を持ち帰るわけにもいかんじゃろう。」
村長は狩人達に指示するとグイドと2人で亡骸のもとへ。
「うへぇ、流石に気持ち悪いな。」
目の前には食されていた亡骸の破片。
「何人居たか覚えているか?」
「急にだったからわからん。ただ先頭を走っていたのは金髪だったな。一際ピカピカした鎧をつけて。」
ピカピカだったと思われる鎧の持ち主は直ぐに見つかった。
「この鎧の紋章は……面倒なことになったのぅ……」
村長は紋章を確認すると深いため息を吐きながら空を見つめた。
グイドも紋章を確認する。
「あぁ、面倒なことになったな。」
遺体の近くには紋章が刻印された短剣が落ちていた。
グイドはその短剣を拾い上げると憂鬱な気分に陥った。
この紋章の持ち主が本物であれば本当に面倒事になる。
2人は身分が分かりそうな遺品を出来るだけ回収した。
そして商人の居た馬車に戻ると倒れていた馬車を起こして数人で馬車のチェックをしていた。
商人は布を引いた地面に寝ころんだままハルヒィが手当をしている所だった。
「お疲れさん。痛め止めを飲ませてさっき寝た所だ。見た目は痛々しいけど命に関わりそうな怪我はしてなさそうだ。手足の骨も折れてなかった。」
「何か話は聞けたか?」
ハルヒィは頷くと商人から聞いた話を話し始めた。
家の村を出た後に馬車で街道を進んでいたら、突然馬が止まって動かなくなった。
鞭を打っても動かないから何が起きているのか確認するのに立ち上がった所、遠くの方でワイルドボアが何かを食べているのを発見。
魔物の姿に驚いて叫んでしまったらしく、ワイルドボアに見つかってしまい突進してきた。
急いで馬車の中に逃げたら衝撃と共に馬車が横転。
その時に意識を失ったらしく気がついたら積み荷に挟まれてる状態だった。
切り傷はワイルドボアにやられた訳じゃなく馬車が横転して積み荷が身体に当たり出来た傷だと思うと語っていた。
「んでそっちは何かわかったのか?」
「あぁ。これを見てくれ。」
グイドは遺品として拾った短剣をハルヒィに手渡した。
「まじか。よりにもよってクソ領主の身内ってことかよ。」
この紋章の持ち主は辺境の村を納める領主の一族の紋章。
つまりあの遺体は領主の身内の誰かってことになる。
「面倒事だな……」
「あぁ、確実に面倒事だ。」
その後グイド達は掘った穴にワイルドボアを放り込むと枯れ木などを集めて火をつけて燃やす。
無惨にも食い散らかされた遺体は別の場所に穴を掘る。
領主は身内とその仲間だと思われるので遺体は1ヶ所に纏めないで個別に穴を掘り埋めていく。
後日誰がどの穴に埋めたかわかるように。
商人が意識を取り戻したのでこれまでの経緯を説明する。
「あの領主の身内のせいで僕は死にかけたって訳ですか。」
考え込む商人。
「なんかすまないな。こんなゴタゴタに巻き込んでしまって。」
「こちらこそ助けていただきありがとうございます。そう言えば名前を名乗っていませんでした。サイと申します。」
「俺はグイド。そっちにいるお前さんを手当していたのはハルヒィだ。」
グイドとハルヒィはサイと握手する。
「いつもは
グイドはその話を聞くと苦笑いする。
「そりゃあな。イルガンが積極的に他の商人が店舗を持たないように警戒してるからなぁ。」
「あの方の警戒心は凄いですよね。まぁ取り引きの内容はどちらにも損がない取り引きをして頂けますが。」
「まぁ昔いろいろあったからな。仕方ない部分ではあるだろう。」
「まぁそうですよね。僕も父から聞かされていましたから。」
「親も商人なのか?」
「えぇまぁ。」
「イルガンの家の話は商人では有名な話なのか?」
「まぁ商人は情報が命ですからね。明日は我が身と言うやつですよ。」
「それで怪我の方はどうだ?」
「痛みは多少ありますけど。でも手当していただいたお陰でだいぶ楽になってます。」
「なら良かったが……所詮素人の真似事だからな。町に戻ったらきちんと見て貰うか治癒魔法でもかけて貰えよ?」
「でも正直あのままだったら死んでいたかも知れませんし。本当に命の恩人ですよ。」
「こっちこそ本当なら村を出る前に止められたら良かったんだが……」
サイは首を振る。
「たまたまタイミングが悪くすれ違ってしまったんですから仕方ないですよ。それに今回の件に関しては魔物を街道に引っ張ってきた集団がいけないんですから。」
「まぁ俺もあいつ等のせいで息子を死なす所だったからな。だが今回ばかりは責めるに責められない相手だ。」
グイドは遺品である紋章入りの短剣をサイに手渡した。
「この紋章は……持ち主はこれに関係する方ってことですよね?」
グイドは苦々しい表情で頷く。
「なら良かったです。」
サイは笑顔で答える。
「良かった?この紋章の短剣ってことはここのクソ領主の身内ってことだぞ?」
「この紋章の持ち主の身内がやらかしたのであれば強気で行けますので。」
グイドとハルヒィはその強気に驚く。
「あの領主だぞ?」
「えぇ。ここの領主はうちの店からだいぶ借金をしていますからね。罪を認めないなら一気に借金を回収してしまえばいいんですよ。」
サイの言葉に再び固まる2人。
「なぁ、領主が金を借りられるくらいサイの店はデカいのか?」
サイはにっこりと頷くと話をしてくれた。
「自慢って訳じゃないんですけど。うちの店の名前は『エチゴヤ』なんです。」
店名を聞いた2人は目眩が起きそうになる。
『エチゴヤ』とは初代勇者が関わって出来た店である。
つまりはこの国の王とも取り引きがあると言う意味でもあった……
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