第31話
村長との話し合いから3ヶ月。
季節は12月。
現代日本とは違い断熱性能がほぼ皆無なので部屋の中とはいえ油断すると逝ってしまいそうです。
「あ~、さむっ!ラグナ大丈夫か?寒くないか?」
「寒い、寒すぎるよ父さん。こんなに寒いのは初めてだよ!」
ラグナが住んでいる村は比較的温暖な地域。
雪ならパラパラと降るのは見たことがあったけど積もったのは初めて。
しかも豪雪なんて経験したことが無い。
前日の朝からこの世界に来て経験したことが無い程の猛吹雪。
前世でも経験したことが無いほど。
外から薪を持ってこようにも前が見えない。
歩こうにもすでに子供の膝くらいまで積もっている。
父親が持ってくればいい?
父さんは絶賛お仕事中。
魔法剣ってあんな使い方があるんだね。
この村の各家の屋根に登って風を纏わせたスコップで高速雪下ろし。
剣以外にも魔法って纏わせることが出来るのか。
そして今日。
雪は止んだものの積もった量が凄い。
部屋の窓から外を見ようとしたら雪で埋もれてるなんてね。
父さんと母さんが雪が止むまで交代で玄関周辺の雪かきをしてくれていたので閉じこめられることは無かったけど。
そして前日に外から持ってきた薪。
雪で濡れて湿ってしまい着火しない。
そう。まさかの暖炉が使用できないんです。
家にある無事な薪は料理に使う分だけ。
「こっちの国に来てこんなに雪が降ったのは初めてよね。」
「そうだな。あの国に居たときは冬になると雪景色は当たり前だったけど。」
「そうね。しかもあの頃は自分達で雪下ろしや雪かきなんてすること無かったものね。」
「だな、やってもらうのが当たり前だった。改めて自分達でやってみるとキツいものがあったな。」
「そっか。父さんと母さんは貴族だったんだっけ。それじゃあ仕方ないよ。それでどうしようか、これ。」
目の前には濡れて使えなくなった薪。
頑張って着火しようとしたけどダメだった。
今はまだ日が出てるけど夜は厳しいかもしれない。
薪かぁ。薪よ出ろ~。
「どうしたラグナ。両手を前に出して力を込めて。」
「いや~。頑張って願えばスパイスのスキルみたいに薪が出てこないかなぁって思って。」
笑ってこっちを見ていた両親の笑顔が固まる。
「で、出ないよな?まさか出ちゃったりしないよな?」
「流石に薪なんて出てこないよ。願って出るならお金でも出してるよ。」
願って出るなら苦労しないよ。
そういえば前世では冬に庭で薪じゃなくて備長炭を使って外で暖を取りながら鍋作ってたなぁ。
薪じゃなくてもいいから炭が出ないかなぁ。
この世界に来てから見たことないんだよね。
炭が売られてるのって。
備長炭懐かしいなぁ。
『備長炭を召喚しますか?』
「えっ……」
俺の声に反応する両親。
「ど、どうしたの?」
「えっと……」
「……嘘だよな?」
「声……聞こえちゃった……」
「「えっ」」
「えっと……どうしようか……」
固まったまま動かない両親。
えぇい!もうヤケクソだ!
「備長炭召喚!」
両手の手のひらが光り輝いた。
そして光が収まると徐々にずっしりとした重みが。
ゆっくりと手の平に目を向けると2本の備長炭。
「えっと……出ちゃった……」
目を見開く両親。
「まさかそれは……炭なのか?」
「たぶん?見たことないから判らないけど……」
手に持ってる2本の炭を叩いてみる。
カンカン。
金属音に似た音。
しかもこれ白っぽい色。
白炭なのかな。
金属に似た音に驚く2人。
「本当にそれは炭なのか?金属みたいな音がしたが。」
2人に炭を手渡す。
「私が知ってる炭ってもっと黒くてこんなに硬くは無いわ。」
「だな。色も白いし、金属のような音がするし。」
だよね。完全に超一流の備長炭だよ。
前世でも使ったことないわ、こんなレベルの。
「それで……それどうする?」
「どうする?ってお前。どうする?」
「これが炭なのかは判らないけど。火を付けてみましょうか?」
暖炉の中に置かれる備長炭。
「2本だとあれだからもう2本。」
追加でもう2本出してみた。
「なぁ、ラグナ。気のせいならいいんだが……今無詠唱で召喚したよな?」
あれ?そう言えば。
「もしかして詠唱って入らないのかな?」
ちょっとだけスパイス召喚。
「あっ。頭の中でそう思うだけで出ちゃった。」
「はぁ……もういいわ。とりあえず火をつけてみるか。」
母さんが料理用に保管してある薪の中から破片だけを集めて炭と共に暖炉の中へ。
そして、着火用の魔道具を使って着火。
これはまんまライターだよなぁ。
これも魔石のエネルギー。
薪に火がついた。
そして徐々にパキパキパキと炭特有の音もし始めた。
「今の所そこまで煙は出ないわね。」
家族3人で暖炉の前に。
そして着火した薪の火が消える。
炭は音は鳴ってるけど着火はしていない。
「もう少しで着火しそうな感じなんだけどな。あんまり薪は使いたくないし。んじゃ仕方ないか。」
父さんは立ち上がると何かを取りに行った。
そして戻ってきた父さん。
「どうして剣なんか……」
「まぁ見てろって。ふん!」
父さんが力を込めると剣の周りに火が纏った。
こんな近くで見たのは初めて。
一気に周囲が暖かくなった。
そして火を纏った剣を暖炉の中へ。
パキパキパキパキ。
「もう少しか?はぁぁぁ!」
さらに剣の炎が大きくなった。
パキパキパチパチ
「おぉ!父さん、炭に着火したよ!」
「はぁはぁはぁ、流石に疲れるわ。」
よく見たら汗だくになっている父さんが座り込んだ。
お疲れ様でした。
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