閑話 イルマ一家
ここで、イルマ一家の説明をしようと思う。
現在は辺境村で唯一の商店を営んでいる。
王都で代々商いを行っていた一族だったがイルマの祖父が他の商家に騙されて大損をしてしまい店を乗っ取られてしまった。
「まさか、まさかあ奴が儂をハメるなんて!クソが
!」
着の身着のまま僅かに残したお金と2人の部下と家族と共に買い付けに使用していた帆馬車に乗り王都より脱出。
「何故じゃ、何故儂達が王都から離れなければならんのじゃ……」
代々受け継いできた老舗。
それを自分の代で潰してしまったと言う責任。
イルマの祖父は馬車の中で焦燥したまま立ち直ることが出来なかった。
そして暫くあちこちと放蕩ののちに、とある村で辺境にどうやら開拓村が作られたらしいと言う噂を聞いた。
その噂を聞いたイルマの父、イルガンは心機一転やり直すために辺境の村へ行くことを決意。
しかし辺境の村への旅路はとても過酷であった。
道中の治安が良くないため盗賊紛いの集団が日中にも関わらず襲ってくることが度々。
幸いにも馬車で移動だったので逃げ切ることが出来た。
所詮は盗賊紛い。
こんな辺境に住む盗賊などに馬を用意する資金や維持をする金もない。
その後辺境の村まであと少しという所で、イルマの祖父は急な病に侵されてしまい打ち勝つことが出来ずに亡くなってしまった。
王都より脱出後より店を潰してしまった責任をずっと感じており生きる気力が失われていた。
心労が祟ってしまったのだろう。
病が悪化し、亡くなるまではあっと言う間であった。
この旅路の時、イルマはまだ2歳。
小さい子が長旅でよく無事に生き残ることが出来たのは奇跡であろう。
そんなイルマ一家は王都を脱出してから1ヶ月。
ようやく辺境の村へと辿り着くことが出来た。
「何者だ!」
辺境の村と聞いていたのだが、目の前には立派な防壁に囲まれたとても辺境とは思えない村があった。
「王都より訳あってこの村にやってきた!出来ることなら商いをしたいと思う。この村の村長に顔繋ぎをお願いしたい。」
門番からは暫しここで待つように言われた。
そして暫くすると先程の門番と、顔つきは老人だがとても老人とは思えないほどの筋肉質の男が現れた。
「わざわざ王都よりこんな辺境の村に何用じゃ。」
この老人には下手な嘘や言い訳など通じない。
正直に話しをしようとイルガンは決めて、これまでのことを全て話をした。
「そうか。」
全てをイルガンは話をした後に、村長は考え込むように目を閉じた。
そして。
「わかった。この村に入ることを許可しよう。あとはイルガンと言ったか?2人で話がある。残りの者はそやつに村の中を案内してもらうがよい。ついでに空き家になったとこが数カ所あったはずだ。ハルヒィ頼んだぞ。」
どうやら門番の名前はハルヒィと言うらしい。
「仕方ねぇな。んじゃ残りのメンツは俺に付いてきてくれ。とりあえず馬車が置けそうなとこに案内する。」
家族と離れてイルガンは村長の自宅へと向かった。
そしてこの村のことを教えてもらうことにした。
基本的には流れの商人しか来ない。
最低限必要な物資は領主より送られるが使えない物ばかり送りつけてくるらしい。
一応支援はしてますよ、と言う周囲へのアピールの為に。
贔屓の商人が居ないことにまずは一安心だった。
すでに贔屓の商人がいる場合、同じ村で商売するにはいろいろ根回しをしなければならないからだ。
村の現状としては税金は魔石によって支払われている。
しかしその魔石の値付けが酷かった。
王都などでの買い取り価格の20分の1。
例え輸送費が掛かるとしても5分の1でもかなりの利益になるはずだ。
商売をするにしてもこんな常態では税金がいくら掛かるかわからない。
村長に税金の話を聞いた。
こんな辺境の村で商いをする人間など居るわけ無いと領主は高を括っている。
もしもやるなら今がチャンスとのことだった。
現状ではこの村で商いをやる場合は、売上の30パーセントが税として徴収される。
内訳として10パーセントが村に。
残りの20パーセントは領主に支払うことになっている。
通常では少なくとも売り上げの4割は税金で持っていかれる。
酷い場所では5割~6割の領地なども存在する。
王都ですら税金4割と戦時下に入ると寄付という名の徴収があったくらい。
そんな中で3割で済むならとてもありがたい。
正式に契約してしまえばこっちの物。
後日いくら領主が税金をやっぱり吊り上げると言い出しても契約後に変更はかなり難しい。
何故ならその辺に関しては商業ギルドに加入している限りギルドが守ってくれる。
その分、入会金と年会費はかなりの額を捕られる。
しかし入会金は先祖代々の店だったので支払い済み。
商いの手形と商業ギルドの許可証を持ったまま脱出したので助かった。
乗っ取られたのは建物と店にあった商品だけ。
まぁ元々が違法スレスレの乗っ取りだったので許可証や手形までも奪われる心配はないだろう。
もしも未だにあの店で商売をしているなら違法状態になる。
王都より脱出後に王都の周辺にある町に到着した。
その町の商業ギルドで店舗販売形態から馬車による移動販売形態に切り替え手続き。
ついでに乗っ取りの相談はしたが借金による差し押さえと言う表向きになっているようで取り返すのは厳しいらしい。
手形や許可証については契約した一族限定なので奪われる心配は無いだろうとのことだった。
年会費の支払い状況をギルドにて確認してもらった。
どうやら数年前にあった戦争時に過去最高額となる膨大な利益があったので祖父が20年分の年会費の支払いを済ましてあった。
商業ギルドはかなりの力があるので領主も無茶を言うことは出来ない。
過去に商業ギルドに対して勝手にルールを変えるなど、好き放題喧嘩を売った新米領主が居た。
その件に対してギルドは反発し、その領地にある商業ギルドと商業ギルドに加入している商人が撤収してしまった。
その後、物資の供給は不安定になってしまった。
さらに値段や品質もバラバラの大混乱であった。
商業許可証など持ってないモグリの人間しか居なくなってしまったので当たり前。
その後領主は商業ギルドに謝罪。
しかし商業ギルドは今回のことに関して不問にする代わりに商業ギルドに対して賠償金の支払いと、一旦出て行くことになった商人達には賠償金+迷惑料の支払い、さらには減税などを確約させられた。
その後、領地の経営が傾いてしまい領主は破綻の危機に。
この一連の事件について商業ギルドより王へと話が通された。
王は勿論大激怒した。
領主はお家断絶。
一族郎党みな奴隷落ちの処分となった。
そんな事件もあったので契約さえしてしまえばこっちのもの。
そう簡単にはひっくり返ることはない。
さらに村長に話を聞く限り魔物の素材は上手に活かされておらず、終いには廃棄されていることに気がついた。
その様な状況を見てイルマの父親はこの地で再び立ち上がることを決意。
そして村長に掛け合い、改めてこの村で商いを始めたいと話しを通した。
その後、村長とイルガンは正式に商いの契約を完了した。
そしてイルマと奥さんを村に置いて商いを始めた。
村長からの一言により村の狩人数名を護衛として雇うことになった。
やはりここは魔の森と近いので魔物と出会う確率が高い。
もしもこの町に腰を下ろして商いをするつもりがあるなら護衛を手回ししようと持ち掛けてくれた。
かなりの好条件を提示されたので即断即決で契約を行った。
その後に、それまでは廃棄されていた魔物の素材の買い取りを村で行い、需要がありそうな他の村や町で売却。そして村人達の希望の品を売却した資金で仕入れてこの村で販売した。
そのような商いを始めてから1年。
やはり馬車で大量に運べるのが良かったんだろう。
僅か1年で村に店舗を持つことが出来るまでに稼ぐことが出来た。
そして今では王都とまではいかないがとても辺境の村にある商店とは思えないほどの品揃えの店舗を構えている。
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