第20話

今日は村で今月5歳の誕生日を迎える子供達のお祝いの祭り。


転生してから5年。100人前後だった村は150人位まで人が増えていた。


俺と同じ歳の子供がうちの村にはもう1人だけいる。


しかも誕生日が同じ月。


その子は俺が転生した後にこの村に移住してきた家族の子供。


名前はイルマ。


「ラグナ、俺達もやっと5歳だ。これで大人の仲間入りだな!」


「イルマ、5歳はまだまだ子供だよ。それに女の子なんだからもう少し言葉遣いに気をつけなきゃ。おばさんの方を見てみな?顔は笑顔だけど眼は笑ってないよ?」


自分の母親の表情を見て若干青ざめるイルマ。


「やべぇ。帰ったらドヤされるわ。まぁ、今気にしても仕方ないな。とりあえずご飯だ、ご飯」


ラグナは溜め息を吐きながらイルマと共にお肉を貰いに向かった。


そして村の広場にある調理場に到着した。


そこには巨大な猪の姿をした肉の塊が火に炙られてグルグル回されていた。


「やっぱり魔物ってデカいなぁ。おっちゃん、これってなんて名前?」


「おぉ、イルマか。誕生日おめでとさん、ラグナもだな。」


「ありがとうございます。親父っさんおやっさん。それでこの魔物ってなんですか?」


「こいつか?こいつはワイルドボアって名前だな。これでもまだ子供だぞ?これが大人だったら俺達よりも全然デカいからな!」


目の前にいる魔物のサイズでまだ子供……?


これ前世だと化け物扱いされる猪のサイズだよ……?


大人サイズのワイルドボアって下手したらカバとか……


下手したら象くらいのサイズは有るんだろうか?


魔物やばぃな。


親父っさんはそんな2人を観察していた。


『イルマはやっぱり年相応の子供だな。魔物を見て素直にハシャいでる。それに比べてラグナは冷静に考え込んでるな。魔物ってのがどれだけ危険なのか把握しようとしてる。』


「とりあえずそろそろ食べれそうだな。ほれ、2人とも皿だせや。切り分けてやるよ!」


「おっちゃん、大きく頼むな!美味い部分で!」


「こいつの一番美味い部分はお前達2人にプレゼントだ!」


親父っさんは俺達2人の皿に香ばしく焼けた肉の塊を切り分けてくれた。


「親父っさん、ありがとうございます。でもこれ少し多いよ?」


あまりの量に顔がひきつる俺。


ふと隣を見る。


「なんだこれっ!まじでうめぇ!」


隣には一心不乱に肉の塊にかぶりつく女の子。


そして優しい眼を向けて食べてる姿を見ている親父っさん。


チラッとこっちを見たな。


このバカみたいな量の肉を食えと……?


いやムリムリ。無理だから。


眼で見つめ返す俺。


お前ならいける。ほら逝けよ!って眼で返事をする親父っさん。


行けよ!じゃなくてすでに逝けよだからね?


5歳児に食わせる量じゃないだろ、これ。


ほら、早く逝けよ!って見つめてくる親父っさん。


まぁ仕方ないか。ここは腹を括るか。


肉を一口噛んでみる。


なんだこれっ!?肉の旨みの脂が口の中いっぱいに広がる!


ラグナはあまりの肉の旨みに無我夢中にかぶりついた。


これはヤバい!旨みが凄い!


キャンプ料理で使ってたあのスパイスがあればもっと旨みが爆発するだろうな。


すると突然脳内に声がした。


ピコン♪


『スパイスを召喚しますか? 』


「えっ!?」


突然の出来事に固まるラグナ。


「どうよ、ラグナ?あまりの肉の旨味にビビっちまったか?」


どうやら今の声は俺にしか聞こえてないみたいだ。


「あまりの肉の旨味にビックリしました!親父っさんありがとう!」


「おうよ!それじゃ残りは村のみんなに切り分けるからあっちで座って食ってな?」


親父っさんは俺達2人にそう言うと村の人達に声を掛けて肉をどんどん切り分けていった。


「ラグナあっちで座って食べようぜ!」


「あぁ、わかったよ。そんなに急ぐなよ!」


とりあえず座って落ち着こう。


未だに頭のなかにスパイスを召喚しますか?ってイメージが流れたままだし。


「この肉って本当に美味いな。魔物ってみんな美味いのかな?」


「……」


「おい、聞いてるか?ラグナ。」


突然身体を揺すられた。


「ラグナ……?」 


俺の顔を覗いてくるイルマ。


やっぱり顔を見ると可愛いんだよなぁ。顔は。


って違うか。これどうしよう。


「どうかしたの?」


とりあえず誤魔化して1人の時に検証してみるか。


「ん?悪い、あんまりにも肉が美味くてさ。ビックリしてたとこだよ。」


「なんだよ、心配したじゃん。でも本当にこの肉美味いよなぁ!」


イルマが単純で良かったわ。


しかしこの脳内のメッセージどうしようかなぁ。

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る