第32話 急転直下のハッピーエンド <完>

「おい、見たか?お前の婚約者…。怒って行ってしまったぜ?」


トビーは面白そうに言った。


「ええ、その様ですね」


頷くと、トビーが首を傾げた。


「その割には何だかあまり気にしていないように見えるな?何でだ?」


「それは、もう私にとってアルトはどうでも良い存在になったからです」


「嘘だろっ?!」


大げさにのけぞるトビー。


「嘘ではありません。本当です」


「何でだよ?つい最近までは『アルト様に捨てられる~』なんて言ってメソメソ泣いていたじゃないかよ」


「そんな台詞言った事もありませんし、メソメソ泣いていたつもりもありません!」


いや、泣いていたかもしれないけれど今の私はもうそれを認めたくは無かった。

そしてまた口を尖らせそうになり…慌てて押さえた。こんな態度を取れば再びトビーにお子様だと言われかねない。


「う~ん…その様子だと…マジなんだな?」


トビーが腕を組むと唸った。


「ええ、マジもマジ。おおマジです。なので私は3ヶ月と言わず、本当は今すぐにでもアルトと正式に婚約破棄したいんです。だから一刻も早くビクトリアさんの心を掴んで恋人同士になって下さいよ」


「え…?まぁそう言って貰えるのは嬉しいけど…でも、お前はそれでいいのかよ?」


「いいに決まってるじゃないですか」


今更何を聞くのだろう?


「だってお前、もうアルトには何の興味も無いんだろう?」


「トビーさん。私の話聞いていましたか?興味どころではありませんよ。今すぐに婚約破棄したいって事は、もうさっさと縁を切りたいって事なんです」


「成程…つまり、エイミーはアルトにはもう何の興味も無いって事だな?」


「興味どころか…嫌悪感の方が強いです」


「だから言っただろう?あいつはろくな男じゃないって。大体婚約式の日に婚約破棄を告げようとするなんて最低な事なんだよ」」


何故か勝ち誇った様子のトビー。でもこればかりは私も認めざるを得ない。


「はい、その通りです。今回の事で完全に目が覚めました」


「だが…あいつはどうだ?」


急にトビーが声を落とした。


「あいつ…?アルトの事ですよね?」


「ああ、そうだ。どうやらあの男は今頃になってお前に少し未練が湧いて来たみたいだぞ?」


「え?冗談ですよね?」


アルトが私に未練を…?そんなバカな。


「いや、俺の目にはそう見えたぞ?」


「え…?それは非常にイヤ…かも…」


思わず背筋がぞっとした。すると笑みを浮かべてトビーが言った。


「よーし、よし。その時は俺がお前を助けてやるって」


トビーは私の頭をくしゃくしゃと撫でまわす。


「あーっ!ま、また…そうやって子供扱いする!」


「まぁ、いいから。ほら、一緒に飯でも食いに行こうぜ。そこで今後の俺達について作戦会議だ!」


トビーは私の腕を掴んで立ちあがらせると、手を繋いでズンズン歩きだして行く。


「ちょ、ちょっと!トビーさんっ!」


「何だ?」


トビーが私を振り返る。


「もっとゆっくり歩いてくださいよ!歩幅が違うんですから」


「あ~悪い悪い。…お前はお子様だもんな~…おんぶしてやろうか?」


笑いながらトビーは言うけれども、不思議と嫌な気はしない。それに何故だろう?

トビーには少しも気を遣う事無く話が出来る。

すると私のそんな気持ちが通じたのか、トビーが首を傾げながら言った。


「それにしても妙だよな~初対面の時からお前には遠慮なく物が言えるんだから」


「あ、それは私も感じました」


「ひょっとして、俺達って気が合ってるのかもしれないな?」


「う~ん…認めたくないけど、そうかもしれないですねぇ…」


そして私達は笑いながら手を繋いで学食を目指した。



****


…結局、この事がきっかけで私とトビーの仲は急激に縮まり、3カ月後…アルトと婚約破棄が成立した直後に…自然の流れで私とトビーは恋人同士になっていた。



あの日…校内で手を繋いで歩く私とトビーの姿を見た人たちは後に、こう語った。



まるで2人は親子の様に仲が良さそうに見えたと…。



結局、何故かアルトとビクトリアは恋人同士になることは無かった。


代わりにアルトは暫く私に煩くつきまとっていたけれどもトビーがあっさり彼を追い払ってくれた。



何故、アルトとビクトリアが恋人同士にならなかったのか…?


その理由は…未だに明らかにはされていない―。



<完…かな?>


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婚約破棄を受け入れたいのに、強気な彼に反対されて出来ません 結城芙由奈 @fu-minn

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