第31話 嫉妬ですか?
「あの…アルト様?」
一体どういう事なのだろう?何故私が睨まれなければならないのだろう?アルトは私の事をおっかない眼つきでじっと見ているし、トビーはその様子を黙って観察している。
「君が僕からの婚約破棄をあっさり受け入れたのは…彼のせいなのかい?」
アルトはトビーをチラリと見ると、すぐに視線を私に移した。
「え?どういう事ですか?」
何の事かさっぱり分らなかった。大体アルトは私に自分の周りをウロチョロされたくなかったのではないだろうか?
するとトビーが何かに気付いたのか、突然アルトを挑発するかのような口ぶりで言った。
「おいおい、お前…何だよ?今俺はエイミーと話をしていたんだ。それなのに割って入って来て…一体どういうつもりだよ?」
は?何ですって?
トビーの言葉にギョッとした。
「僕はエイミーの婚約者です。婚約者のいる相手に馴れ馴れしく話しかけるのはどうかと思いませんか?」
少しイライラした口調でアルトはトビーに反論した。
「あれ?お前…でも、エイミーに婚約破棄を告げたんじゃ無かったか?」
「ちょ、ちょっと!トビーさんっ!」
キャ~ッ!よりにもよって、アルトの前でな、何て事を言うのよ…っ!!
すると途端にアルトの顔色が変わった。
「え?何故その事を…?まさか…エイミーッ?!君が彼に喋ったのかっ?!」
「あ、あの!そ、それは…!」
酷いっ!トビー!まさかアルトにバラすなんてっ!アルトは世間体を人一倍気にする人なのに…っ!
「ああ、そうだ。エイミーが何だか元気が無いように見えたからな…しつこく尋ねてようやく教えて貰ったんだよ。な?エイミー」
言いながら、何故かトビーは私の肩に腕を回して来た。
「ちょ、ちょっと何してるんですかっ!アルトの目の前でっ!」
私は小声でトビーの耳元に言った。
「いいから俺に任せておけって」
すると次にトビーが私の耳元で言う。
「何やってるんですかっ!2人共離れて下さいっ!」
アルトが突然私とトビーの間に入って来ると腕を掴まれ、無理やり私をトビーから引き剥がした。
「ア、アルト様…?」
驚いてアルトを見上げると、腕を掴んだまま私の事をじっと見ている。するとトビーがニヤニヤしながら口を開いた。
「何だよ?お前、エイミーに婚約破棄を言い渡したくせに…もしかして俺達に嫉妬しているのか?」
「え?」
アルトが私に嫉妬?
驚いてアルトを見上げると、彼は明らかに不服そうな顔でトビーを見ている。
「違います。そんな事ではありません。僕とまだ婚約中の身でありながら他の男性と親しくしているのは…品位に欠けます」
え?
アルトの言葉に耳を疑った。自分は私との婚約式の時に堂々とビクトリアさんと熱いキスを交わしていたのに?それなのに私がトビーと話をしていただけで品位に欠ける?
「ふ~ん…品位ねぇ…」
トビーは腕組みしながら意味深な表情でアルトを見た。
「な、何ですか…?」
アルトは少しだけ狼狽した様子を見せた。
あ…一応自覚はしているのかも…。
そこへトビーが追い打ちをかける。
「いや?ただ、話をしていただけで品位に欠けるなら、仮にキスでもしていたとなるとどうなるのだろうな~って思っただけさ」
「!!」
途端に真っ赤な顔になったアルトは、一瞬私を凄い目で睨み付けると教室を出て行ってしまった―。
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