モフモフ帝国の野望

玄武堂 孝

【KAC202210】モフモフ帝国モフラー総統


 僕こと加原かばら 一はクラス単位で異世界召喚され淫魔王と呼ばれる存在となった。

 チートで無双し、そのたびに嫁が増えていった。

 チーレム大勝利のはずなのだがちっともそんな感じではない。

 僕の異世界チーレム生活はどこかおかしい。



 ニアは僕の零番目の嫁だ。

 だが最近夜の部活同に参加していない。

 夜の生活がいきなりなくなれば普通の夫なら浮気を疑うだろう。

 でもニアは猫だ。

 …一応言っておくけど叡智な行為をするときはちゃんと人間形態に変身するからね!

 妖精猫であるニアは猫の性格が強い。

 つまり気まぐれ猫さんなのだ。

 だから夜の生活も気まぐれで参加するし、気が乗らなければベッドの横で丸くなっている。

 他の嫁との叡智な行為も完全スルーというちょっと特殊な嫁だ。

 そんな妖精猫のニアが真夜中に何も言わずに出かけるには理由がある。

 そしてその理由を僕は予想していた。


「よし、【転移】出来る」


 そもそもニアの真夜中のお出かけには興味がなかった。

 だがわざわざ僕の【転移】を封じてまで出かけるのには違和感があった。

 だから知りたいと思ったのだ。

 だがわざと興味がないふりをした。

 そして何回目がの夜のお出かけにニアは【転移】を封じなかった。

 油断したのだと思う。


 さて、賢明なる卿等けいらは『デスラー戦法』を知っていると思う。

 敵艦付近に自軍の戦闘機や戦闘艦を転送して強襲攻撃するという戦術。

 ガミラス帝国のドメルが七色星団決戦で実戦に使用したのが最初だがなぜかデスラー戦法と言われる。

 まあ簡単に言うと敵の目の前にいきなりワープ(僕の場合は【転移】)して相手を攪乱する作戦だ。

 昔のアニメは心ときめく戦法が多い。


「素晴らしいと思わないかね、タラン?」


「それって私が頭が足りないって意味なのかな、ハジメちゃん?」


 隣にいたマインに語りかけたがネタを理解していなかったらしい。

 まあ、リメイクされたとはいえ『宇宙戦艦ヤマト』はもう40年以上前のアニメだからね。

 ちなみにタランはデスラーの副官(ヤマト2以降)だ。

 ガミラス帝国ではデスラーという通貨単位を採用しており、1デスラーに満たない単位はタランだとネットでは囁かれている。


「ぬ、ハジメにゃにを死に来たのじゃ?」


 ニア、焦っているせいか噛んでるから!

 多分サザンクロスの街から少し離れた森。

 強力な魔獣が徘徊する森で真夜中の猫の集会。

 そう、僕らは猫の集会に乱入したのだ。

 そして強力な魔獣のいる森でただの猫だけで集会するわけがない。

 明らかに2足歩行する猫が混じっている。

 ケットシーだ。

 妖精女王であるニアが連れてきたのだろう。

 最近サザンクロスでやたら猫が増えていると報告があったがやはり。


「ソロモフよ!私は返ってきた!!」


 僕の叫びに猫ちゃん達が一瞬びくっとする。

 何をしにきたのか?

 当然モフりにきたのですよ。

 僕はマインから『シュレディンガーの悪夢』と呼ばれる重度のモフラーだ。

 モフリ過ぎてその後の猫ちゃんが生きているか死んでいるかわからない状態にしてしまうのが名前の由来。


「異世界召喚されて叶えたかった夢が今日叶うのだ!

 私はここにモフモフ帝国の建国を宣言する!!

 我こそはモフモフ帝国のモフラー総統である!!」


「ハ…ハジメ、お主頭は大丈夫か?」


 ニアの言葉にマインも同意する。

 だが、断る!

 僕の領地にいる猫は僕の物。

 これがお貴族様のジャスティス!


「これだからハジメには知られたくなかったのじゃ」


 ニアが頭を振る。


「人間!調子にのるな!!」


 1匹の猫が2足歩行で僕の前に歩み寄る。


「我々誇り高いケットシーが人間ごときに下るなどありえない。

 人間ごときがモフモフ帝国総統だと?

 …相当冗談がお好きなようだな」


 ドヤ顔のケットシー。


 ズキュウ―――ン!!


「我がモフモフ帝国に下品な猫はいらん」


 ケットシーの頭を撃ち抜いた。

 …勿論殺してはいない。

 雷属性由来のスタンを付与した【エネルギーボルト】だ。

 一応弁解しておくが動物虐待ではない。

 ケットシーは妖精であってそれを保護する法律はない…多分。

 泡を吹いてひくひくしているけどね。


「いかん!皆の者、逃げるのじゃ!」


 その言葉と同時に猫達は逃げ出そうとする…だが僕はそれを許さない。

 1人のハジメが2人のハジメ、3人に4人、5人!10人!!

 すでに数えきれない数の【影分身】が周囲を取り囲んでいた。

 確実に自己新記録の分身数。

 モフモフのためならやすやすと限界を越えられるモフラーなのですよ、僕は!


「どの子をウチの子供にしようかなー」


 マインの目的は自分の工房で飼う猫探し。

 自宅で猫を飼っていたマインによってニアは瞬殺でモフられた。

 足をヒクヒクさせながら泡を吹いている。

 くどいようだがニアは妖精猫であって動物虐待ではありません。

 真夜中の森に猫ちゃん達の絶叫が響いた。



 …賢者タイム。

 存分にモフモフした僕は大満足。


「にゃぜ、このようなひどい仕打ちを…」


「ん-、単に猫の集会に参加したかっただけ」


 僕は不思議と猫から逃げられる。

 猫好きなのにそういう人っているよね?


「ならばお主が猫に【変身】すればよかろう」


 それってメタモルフォーゼ!?

 確かにチートインフレの今の僕なら出来そう。

 挑戦…成功!

 今、僕の手には憧れていた肉球がある!!


「…かかりおったな」


 ニアのドス黒い笑顔。

 周囲から熱い吐息を吐く猫さん達がじりっいりっと距離を詰めてくる。

 その目は獲物を狙うビーストさんのそれだ。

 だが同じ猫同士襲われる理由などないはず。


「ケットシー族も女性ばかりの種族でな…」


「いや―――!ちょ、おま!!

 あれ!?変身が解除されない??」


 ニアを出し抜いたつもりだったのだが実は誘い込まれたのかもしれない。

 何匹ものメス猫に僕はペロペロされたのだった。



「ハジメ様、昨日はどちらに行かれていたのですか?」


「総統は昨日メス猫に囲まれて鼻の下を伸ばしておいででしたよ」


 結局マインは僕に話しかけてきたケットシーを飼い猫にした。

 マイン曰く『猫は馬鹿な方が可愛い』だそうだ。

 名前は『マジメ』ちゃん。

 絶対に僕『ハジメ』に対する当てつけだ。


「…へえ、そうなんですか」


 ヘラの光彩のない瞳が僕を覗き込む。

 マジメ、事実かもしれないけど言葉は選ぼうな!

 ヘラが闇落ちしちゃうから!!



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