第3話 旅立ち

「忘れ物はない? まずどこに行くかわかってる?」


 フィエ姉さんが矢継ぎ早に確認してくる。

 術騎士学園行きは賞金首と戦うのよりも全然危険は少ないはずが心配される量はこちらのほうが桁違いだ。


「大丈夫だよ、まずはイテネの町長さんに会って推薦状を貰うんでしょ」


 術騎士学園に入るには将来有望で素質があると判断された者しか入れない。

 その判断は街の有力者であったり、懇意にしている貴族だったりと色々なルートがあるが、ライドの場合は町長だった。

 ライドの知らない内にフィエ姉さんと師匠が段取りを進めていたようなのだ、主に姉さんがだが。


「多分だけど来年には私も行くからね~、あと帰ってくる時はお土産お願いね!」


 姉さんと対象的にいつもどおりな妹のルテであった。


「ま~あれだ、気楽に行って来い」


 覇気の無い師匠が俺の前に立つ、この姿こそが師匠の平常だ。


「この前にも言ったが、お前に教えれることは教えた。同年代でお前とまともに戦える奴は恐らくいないだろう。だが、お前が逆立ちしても敵わない者も世界には居る。それを知ってこい」


 笑いながら師匠が言う。

 今生の別れではない、学園の過程は長くて4年間だ、その間に帰省することだって勿論あるだろう。

 長くはない、だが短くもない別れ。


「行ってきます!」


 そう声を出してライドは家を後にしたのだった。



 イテネの街について町長の屋敷に向かう。

 町の中心、賞金首を受け渡した事務所にほど近いところに立つ屋敷の前にライドは立っていた。

 開拓中のこの町をよく取りまとめてくれている男性で何度も会ったことがある。

 幼いながら危険度の高い仕事をこなすライドの事を最初は気にかけ、実力がわかってからは信頼をして仕事を任せてくれていた人だ。

 この町としては大きな扉を開き、中のお手伝いさんに面会の予約をしている旨を伝える。

 程なくして屋敷の中に案内をされ、屋敷の一室で町長が来るのを待つライド。

 扉が開き、身なりの良い年配の男性が入ってきた。


「すまないねライド君、待たせてしまった。元気にしていたかい」


 年の頃は70くらいなのだろうか、かなり高齢のはずだがそれよりも若く見える。


「いえ、今回は師匠と姉の我儘を聞いていただき、ありがとうございます」


 席を立ち頭を下げる、親しき仲にも礼儀ありというやつだ。


「ははは、そんな事はないよ。我が町から学園に推薦できる者が出ることは誇らしいことであるし、何よりライド君ならば間違いないのがわかっているからね」


 この前も賞金首の捕縛ありがとう、と町長は言う。


「僕は未だに術騎士学園がどういうところなのかわかってないというか、不安なんですけどね」

「なぁに簡単に言うと人を守る人材を育てる場所さ、開拓地であれ王都であれ必要な人材だからね」


 簡単に言い過ぎなんだよな、大人達はと考えていると町長が一通の封筒を差し出す。


「これが推薦状だ、君のこの町での実績を考えれば今更学園に行く必要はないかもしれないが……”ホロ国立術騎士養成学園を卒業したという実績”これがあると無いのでは信用が違う。ご家族の言う通りさ」


 礼を言い、推薦状を受け取る。

 これを持って王都の学園に行けば晴れて1年生というわけだ。


「さて、実は私から一つ頼み……があってね、これは君のためにもなるとは思うのだが、聞いてくれるかい?」

「頼みですか? 僕は今日出発しなければいけないんですが……」


 そう言うと町長はもう一枚封筒を出しながら事情を話し始めた。


「ここから少し北に行くとシーロイという町がある、ここよりは大きな町になるね。そこの領主とは古い馴染み、友人なんだが、その娘が同じく術騎士学園に入学する。君にはその娘と一緒に術騎士学園に向かって欲しいんだ」


 どういうことかと訝しがっていると声を潜めながら町長の話は続く。


「どうもその友人の家の周辺がキナ臭いんだ。学園への入学も娘さんの安全を考えると実家にいるよりも学園寮に入ったほうが良いと判断したという話もある」


 なるほど、と頷く。


「その娘の道中の護衛……という事ですか?」


 話が早いねと町長は笑いながら頷く。


「実際の所は保険以上の意味は無いんだ、もちろん私の友人の家だって警戒してるし対策だってしているからね。だが、折角同じ道を行く実力が確かな術士がいるのなら、同行して貰ったほうがより安全だろう」


 差し出された封筒を受け取る、どうやらこちらの封筒はその友人の家への紹介状のようだ。


「君のためになるというのは道中の費用とかは友人の家が負担してくれるというところ、そして何よりも」


 少しだけ笑いを堪えながら町長は続ける。


「友人の娘はとても聡明で美しいよ」


 そう言いながらウインクをしてくる老人を見て、少し呆れてしまうライドだった。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る