……本当に面倒だな。これからどうなることやら……。


   ×   ×   ×


 しばらく、歩くことにした。

 結構、歩いたのにいまだ草原の中にいる。

 でも、時刻は午後一時を回っている。まだ日が沈むまで時間がかかるだろう。現実の世界がどうなっているのか気がかりである。

 この草原で夜を明かしたら、面倒だな。

 少しでも安全圏内に出ればいいのだが……。

 ここに来るまで、誰にも会わなかった。合わなかったのが不思議なくらいである。

「ギャァアアア‼」

「なんだ? 今の鳴き声は……」

 モンスターの鳴き声が近くで聞こえてきた。鳴き声は、後方から聞こえる。

 振り返ると、そこには狼ぐらいの大きさをした四足歩行のモンスターがいた。

 牙をむき出しにして、こちらを睨みつけている。

 ダークウルフか……。それにしてもまあまあなレベルだな。

「レベルは30。これぐらいは誰でも倒せるな」

 敵対する相手に向かって、俺は剣を抜いた。

 これでもMOBの上位ランカーである。レベルは86。

 一度、腕試しでもしてみるか。ここが本当にMOBの世界ならできるはずだ。

 仮想空間に存在する自分の肉体が、この世界でどういう風に動くのか再確認する必要がある。

「ヴォオオン!」

 ダークウルフはこちらを見て、雄叫びを上げる。

 間違いなくこいつは俺を狙っているようだ。強いものに戦いを挑むのは素晴らしい。

 さーて、どうやってどうやって攻撃してくるかな?

 ダークウルフは瞬発的な反応力がある。

 襲い掛かってきたダークウルフを剣で受け流す。

 そして、炎の魔法を剣にのせて、一刀両断する。

「うん。体はどうやら思っていた以上に動けるようだな。仮想空間でありながらでも素晴らしい」

 剣の先を腕にチクッと突き刺す。

 ——いたっ! おいおい、嘘だろ。血が出ているじゃねぇか。

 つまりこの世界は現実だ。仮想空間ではない。ゲームでは血は一度も出なかったはずだ。

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