第27話 尾行

「おい、世奈。話聞いてんのか?」


「ん?あぁ、なんの話だっけ?」


「ったく、最近ボーッとしてよ。らしくねぇぞ」


「うん、ごめん。で、何?」


最近、朝の登校中はいつもこんな感じ。まさか晴琉にボーッとしてるとか言われるなんてね。


「次からの試合の話だよ。俺達、2年になるだろ?2年からは3年と同じ種目で戦うことになるのかって」


「あぁ。そうだよ。1年生は同級生だけで走るけど、2、3年は同じ種目で競走しないといけないの。だから2年生には少し苦しい試合になるわ」


「へぇ、そうなのか」


晴琉はニヤニヤしている。


「ライバルが増えるのに、嬉しそうだね」


「当たり前だろ!長距離種目の一個上の世代は黄金世代って言われてんだ。そいつらと走れるなんて、ワクワクするぜ」


最近の晴琉はなんだか楽しそう。いつも本気で陸上に向き合ってると思ってたけど、更にのめり込む様になってきた。でも少し寂しくもある。なんだか最近、晴琉の背中しか見れていない様な気持ちになるんだ。



「お気楽なんだから。全国大会もその先輩全員倒さないと行けないんだよ?」


「倒すさ。陸も倒す」


私は陸の名前を出されてビクッとしてしまった。


「あ?どした?」


「ううん、なんでもない」


晴琉が鈍感でよかった。


学校に着いたら、いつも通り元気よく皆に挨拶を交わしていく。陸にもいつも通り、元気よく…


「おお、おおはよ!」


「…おはよ」


だめ、いつも通りなんて無理!告白されてからもう2週間以上経つのに、ずっとこんな感じ。いい加減、誰かに怪しまれそう。


と思ってたら案の定、休み時間に沙耶が嗅ぎつけてきた。


「世奈ちゃん!」


「ん?何?」


「最近私に隠してる事、あるでしょー?」


ちゃん付けと満面の笑みが怖い。


「べ、別に何にもないよ?」


「ほんとかなぁ?」


沙耶が耳元まで顔を近づけて続ける。


「陸となんかあったでしょ?」


やっぱりバレてる。私は大きくため息をつき、隠すのを諦めた。



………


「えー!!告白!?」


「しーっ!声がでかいよ」


「あぁ、ごめんごめん」


廊下に移動してよかった。教室なら皆に聞かれてたよ。


「で、どうするの?」


「まだわからない。返事はホワイトデーの時でいいって言われてるけど…」


「ホワイトデーって…。呆れた。そんなに待たせなきゃわからないの?好きか、好きになれそうか、ただの友達か、どれかしか無いじゃん。」


「それはそうなんだけど…」


沙耶には絶対に言えない。晴琉と陸で気持ちが揺らいでいる事は。


「あんたね、難しく考えすぎなのよ。自分の気持ちがわからなければ、付き合ってみたっていいんだよ?それで好きになれなければ別れればいいんだから。結婚する訳じゃあるまいし」


「うん…」


「誰が付き合うって?」


あれ、聞き覚えのある声。


「それは…って晴琉!あんたなんでここにいるのよ!」


気付いたら晴琉が目の前にいた。しまった…。


「何って、世奈に用があったからよ。廊下にいるって聞いたから来たんだよ」


「もしかして、話聞いてた?」


「いや?今来たとこだから何も聞いてないけど?」


助かった。この話は晴琉には聞かれたくない。


「で、用って何?」


「あぁ、そうだった。俺、今日も光永と帰るからよろしくな」


「え?薫ちゃん?」


沙耶の顔色が変わった。晴琉もそれには気付いたのか、しまった、という顔をして


「じゃあ、そういう事で!」


とその場を去っていった。…もう、誰がこの後のフォローすると思ってんのよ。


「どういう意味?」


ほら、食いついてきた。で、私は自分の知ってる事だけ説明してあげた。


「なるほど…。もしかして薫ちゃんも晴琉の事好きなのかな?」


「わからない。晴琉はここ最近、週に1回くらいは薫ちゃんと帰るんだけど、あまり薫ちゃんとの事は話したがらないから、私も聞かない様にしてる」


「怪しい…怪しすぎるわ」


ダメだ、この人また何かたくらんでる。


「今日、つけてみない?」


やっぱり。


「ダメだよ沙耶。流石にそれは。倫理に反するわ」


と言いつつ、私もめちゃくちゃ気になってた。


「だっておかしくない?急に一緒に帰る様になって。しかも綺麗に週一で。絶対何かあるわ。あんたも気になるでしょ?」


「まぁ、そりゃ気にはなるけど…」


「決まりね。今日、2人が下校した後をつけるわよ」


決まっちゃったよ。


部活動の後、皆が部室から出ていったのを見計らって、私は沙耶と2人で外に出た。


校門の奥で晴琉が薫ちゃんと合流したのが見えた。軽く話してから、歩き出す。


「準備はいい?」


私は無言で頷いた。ごめんね、晴琉。


晴琉と薫ちゃんはゆっくりと2人の家の方向とは違う方向に歩き出した。私達はうまく人や障害物に隠れながら、2人を見失わない程度の距離を保つ。


「どこに向かってると思う?」


「さぁ、わからない。どこかでお茶でもするのかな?」


「怪しいわ…。晴琉ったら、さっきからずっとキョロキョロしてるもん」


確かに…。あの様子は、いつもの晴琉じゃない気がする。明らかに誰かに見られてないか気にしてる様子だ。


そのすぐあと。とんでもない事が起こった。晴琉がいきなり薫ちゃんの手を握ったの。明らかに晴琉の方からだ。薫ちゃんは少しビックリした表情を見せたけど、すぐに笑顔になった。


「え?」


沙耶が呆然とする。私も何がなんだかわからない。2人がまた歩き出したので、私もまた歩みを進めようとした。けど、腕を沙耶に引っ張られ、止められた。沙耶の顔は涙でぐちゃぐちゃになっている。


「もういいの?」


「うん、いい。だってもう、あの2人付き合ってるじゃん」


確かに、手を繋いで、薫ちゃんも嬉しそうだった。これはもう…


「帰ろ。これ以上耐えられる気がしない」


「…そうだね、帰ろっか」


こうなる事も覚悟していたはずなのに、2人の足取りはとても重かった。

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