第26話 帰り道で

誰だこのばあさん。


「おばあちゃん!どうしたのこんなとこで」


「外出許可がでたもんでねぇ。お散歩中だよ。ところで隣の男前さんは、この間話してた彼氏さんかい?」


「ん?あぁ、俺?俺は光永の…」


「そ、そうだよおばあちゃん!私の彼氏!おばあちゃんにも会わせたかったからちょうどよかった!」


ちょっと待て。たまらず俺は光永に耳打ちした。


「おい、どういうことだよ」


「いいから、今だけ話合わせて」


光永もばあさんに聞こえない様に返事する。


「ん?なんだいコソコソ喋って」


「いや、なんでもないよおばあちゃん!ね、高尾く…晴琉!」


「お、おぉなんでもねぇぞばあさん!」


ばあさんは怪しそうに俺達を交互に眺める。すかさず光永が切り出した。


「そうだ、今日はもう遅いし、病院まで送ってあげるよ!高尾く…晴琉も一緒にきてくれる?」


「あ…あぁいいぞ!いこういこう!」


俺達はそのまま病院へ向かった。ったく、なんでこんなことになっちまったんだ?


光永は手慣れた様子で、ばあさんをベッドに寝かしつける。散歩中から思っていたが、ばあさんは体がかなりしんどそうだった。


「すまないねぇ。せっかく彼氏と2人で下校してたのに」


「いいのいいの。おばあちゃんは自分の体のことだけ気遣ってあげてね!」


なんだ、光永。めちゃいい奴じゃん。その後、俺達とばあさんは軽く会話した。ばあさんと話す光永は、今まで見たことないくらい綺麗に笑ってた。


「じゃ、おばあちゃん。私達もう帰るから、なんかあったらまた連絡してね!」


「待ちな」


2人とも立ち止まったけど、ばあさんは明らかに俺の方を見ていた。


「薫を泣かせたら承知しないよ」


あぁ、言われちゃったよ。付き合ってないんだけどなー。


「わかったよ、ばあさん。あんたも無理すんなよ」


それだけ伝えて、俺達は病室を出た。まぁ後からなんとでもなるだろ。


「ごめんね。急に付き合わせて、嘘までつかせちゃって」


「あぁ、いいよ別に。いきなり彼氏とか言われてビビったけど、まぁ楽しかったし」


光永は少し悲しげだった。


「うちのおばあちゃんね、実は癌なの。末期の。もう余命宣告もされてるんだ」


「そうなのか」


ベッドに移動するのも大変そうで、ただの病気じゃねえとは思ったが。そこまでだったとはな。


「おばあちゃんね、いつも彼氏はまだかって聞いてくるの。まだ中1なのにね。だから、最近彼氏ができたことにして、週に1度お見舞いに行く時に、嘘の彼氏の話を聞かせてたんだ。おばあちゃん、すごく楽しそうに聞いてくれてさ。こんなに喜んでくれるなら、嘘でもいいやって、ずっと嘘つき続けてるの。ごめんね急に」


なるほどな。


「嘘の彼氏ってのはどんな設定なんだ?例えば、性格とか」


「えへへ、恥ずかしいんだけど、実は高尾くんを想像してお話してた」


「そっか。なら話は早いな。俺も見舞い付き合うよ。その方がばあさんも喜ぶだろ」


「え?本当に?いいの?」


「言っとくけど、ホントに付き合ってる訳じゃねぇからな!あくまで設定だぞ」


あぁ、また面倒な事引き受けちまったぜ。けどま、いっか。俺も光永の事もっと知りたくなってきたし。


♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

(世奈)


帰り道、1人でトボトボ歩く。


なによ、せっかく練習終わるまで待ってあげようと思ってたのに、光永さんと一緒に帰るって。少し待っちゃったから、友達も皆帰っちゃったじゃない。もう少し早く言ってほしいわ。


……。


一緒に帰るって事は、もしかして光永さん、また晴琉の事…。


そんな事を考えてたら、後ろから誰かが声をかけてきた。


「世奈か?」


「陸!あれ?先に帰ってなかったの?」


「ちょっと教室に忘れ物しちまってな。取りに帰ってた。今日は晴琉と一緒に帰らないのか?」


「うん、ちょっと先約があったみたい」


陸は私の顔をじっと見た。なんだか心を見透かされてる様な気がした。


「そっか。じゃ、途中まで俺と一緒に帰ろうぜ」


「うん、帰ろ!友達も皆先に帰っちゃって、1人で寂しかったんだ〜!」


「そうだな、背中から寂しさが滲み出てたよ」


「え!そんなに!?恥ずかしい!」


焦る私を見て、ハハッ!と陸は爽やかに笑う。


「冗談冗談!世奈は全部間に開けるから面白いな」


「からかってる?」


「ごめんごめん」


と言って陸は私の頭を軽く撫でた。あぁ、ずるいなー陸は。


そこからくだらない話をしていたら、すぐに別れ道に辿り着いた。


「なぁ世奈」


「なに?」


「やっぱり晴琉は特別か?」


「また晴琉の話?陸もなんだかんだ晴琉の事が好きなんだね!」


「いや、そういうんじゃ…」


「答えは前公園で話した時と同じ!じゃあ、また明日ね!」


「…あぁ」


陸に手を振って、私は家に向かって歩き出した。


でも、その数秒後。


…え?なに?


一瞬、何が起きたかわからなかった。視界に手が映る。この手は…。


「陸…?」


私は後ろから優しく抱き止められていた。


「世奈、やっぱ俺…晴琉よりも特別がいい」


「え?」


陸はゆっくり腕を振り解いた。私は陸に向き直る。


「それってどういう…」


「世奈が好きだ」


急に頭が真っ白になった。陸は続ける。


「花火大会ではあんな事言ったけど、撤回する。実は、ずっと頭から世奈が離れなくてさ。そのおかげで陸上も強くなれたと思ってる。だからこれからはもっと側で、晴琉よりも側で見守ってほしい」


「……」


「急にビックリさせてすまない。返事は今すぐじゃなくていいから。ホワイトデーの時に返事を聞かせてくれ。じゃあな」


そう言って陸は自分の家の方に歩いて行った。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る