第23話 事情聴取

俺は息を切らしながら、松葉公園にたどり着いた。公園内に入ったら、いつもの芝生へ足を運ぶ。


1人、黒髪ロングの女の子が立っていた。やっぱり…


「蘭…なのか?」


俺は女の子の背中越しに、少しビビりながら話しかけた。人違いだったら恥ずかしい。女の子は勢いよく振り返った。


「晴琉くん!」


と叫ぶと、いきなり抱き付いてきた。おいおい外だぞ、ここ。


「やっぱ、蘭なのか?」


俺はもう一度確認する。蘭はしばらく見ない間にとても綺麗になっていた。あまりに変わっていたので、まだ人違いの可能性が拭いきれない。


「そうだよ、久しぶりだね」


蘭の抱き締める強さが一層強くなる。


「おい、そろそろ離してくれ、苦しい。それに恥ずかしい」


「あぁ、ごめん!嬉しすぎてつい」


「海外の挨拶はいつもこんな大胆なのか?」


「んー、まぁね!でも、本当に来てくれたんだって思ったら自然と抱き付いてた」


「まぁ元気そうで何よりだよ。で、下駄箱に手紙まで入れて、どうした?」


この質問したら、また光永みたいに怒られるかな。


「んー、なんだと思う?」


ニヤニヤしながら聞き返してきた。こりゃ一本取られたな。


「そりゃ〜まぁ…バレンタイン…とか?」


くっそ、なんだこの言わされた感。


「当たり」


蘭は鞄から小包を取り出した。


「さんきゅ」


と言って受け取ろうとしたら引き下げられた。なんだよ、小悪魔め。


「あともうひとつ、報告があってね」


「なんだよ」


「私ね、晴琉くんの学校に転校する事になった」


…なにぃ?


「これからよろしくね!先生にクラスの名簿見せてもらったけど、晴琉くんと同じクラスみたいだったから」


「マジか!それはビックリだわ!てか、体調は良くなったのか?」


「うん、体調不良になる日もかなり少なくなってきて、日本に戻りたい気持ちもあったから、戻ってきちゃった。それに…」


蘭は、以前の別れ際の時の様に俺の耳元まで顔を近付けた。


「晴琉くんにまた会いたくなったから」


「えっ…」


「なんか、しばらく見ない間にますますカッコよくなったね」


「さ、さんきゅ…」


沙耶といい、蘭といい、なんでこんな直球で恥ずかしげもなくそんな事言えるんだ? 


蘭はチョコを俺に押し付けると


「じゃ、今日は帰るね!明日から学校行くからよろしくね!」


そう言って元気よく走って帰って行った。ビックリはしたけど、まぁ以前より元気そうで安心したわ。


蘭を見送ってから俺も帰ることにした。


いやー、なんだか昨日からいろんな事がありすぎて疲れたな。今日は早く寝よ。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

(世奈)


あー、どうしよ、このチョコ。


そう思いながらトボトボ帰る。結局私は、松葉公園までの道は選ばず、ちゃんと家までの道を歩いていた。


すると後ろから、聞き慣れた女の子の声が聞こえてきた。


「世奈〜!」


沙耶が走ってこちらに走ってくる。…ってあれ、泣いてる?


さては晴琉にフラれたか。内心、少し嬉しくなってる自分が憎らしい。けど、沙耶は大事な友達、沙耶は大事な友達…って言い聞かせて、自分の心の中の悪魔を追い出した。


「どした、沙耶?」


私の胸に飛び込んできた沙耶を優しく抱き止める。


「ダメだったよ〜!!!」


と沙耶は泣き散らかす。


「そっか、でも今の気持ちはちゃんと伝えられたんでしょ?」


「伝えてない」


「え?どういう事?」


「晴琉、松葉公園で違う女子と待ち合わせしてて、その子と多分付き合ってる」


「え?誰それ?」


「わからない。けどその子、晴琉に抱き付いてたし、チョコも渡してたし、晴琉の耳元でコソコソ話してたし…、絶対付き合ってるよ!」


「落ち着いて、沙耶。その2人の会話は聞こえてた訳じゃないんでしょ?」


「うん、遠くから隠れて見てたから、聞こえてない」


「じゃあまだ付き合ってるかどうかなんてわからないじゃん」


沙耶をそうなだめながらも、自分自身色々整理できない。晴琉に今まで女子の影が見え隠れする事は無かった。そもそもあいつが上手に隠し事なんてできるわけないし…。


でも、抱き付いて、チョコ渡して、って確かに普通の関係の女子にはできないよね。


しかも沙耶がいる松葉公園でそんな事する?


ますます意味わかんない。どうしよ、誰なのかめっちゃ気になる。


…あっ!そうだ!


「沙耶、私まだ晴琉にチョコあげてないんだ。チョコ渡してくるついでに、その女の子の事、聞いてくるよ!」


私は晴琉の家に向かった。


晴琉の家は灯りが着いていなかった。家のインターホンを押しても反応がない。晴琉はまだ帰ってきてないみたいだ。しょうがない、帰ってくるまで待つか。


ほどなくして晴琉が帰ってきた。家の外にいる私を見て、少しビックリした顔をする。


「おぉ、世奈。こんな時間にどした?」


「校門であんたが補習終わるのを待ってたのに、さっさと帰っちゃうからここにいるの!」


少しキツめの口調になっちゃった。私はバックからチョコを取り出す。


「どうやら今年は沢山もらっちゃってるみたいだし?いらなければいいけど」


「いるいる!さんきゅー!」


と言って私のチョコを受け取る。晴琉はチョコを眺めながら続ける。


「でもマジで今年結構チョコもらっちゃってさぁ。俺、モテ期きてんのかな?」


へへっと笑う晴琉に


「調子にのるな」


と釘を刺しておく。さて、本題はここから。


「そういえば、放課後沙耶と会う約束した?」


「いや、してねぇけど?あ、そういや沙耶のチョコまだ食べてねぇや。悪くなる前に食べてやんねぇとな!」


「はぁ…やっぱり」


「ん?やっぱりって?ん?」


「沙耶のチョコ、今ここで開けてみ?」


一旦晴琉は家に入って、まだ未開封の小包を持ってまた現れた。中を開けると、チョコと手紙が入ってる。晴琉はその手紙を読んで青ざめた。


「おい、松葉公園って…まさか…」


「そ。あんたが知らない女子と会ってるとこ、見ちゃったんだって」


「マジか」


「マジよ、おおマジ。で、その子誰なの?私、なーんも聞いてないけど?」


と晴琉を問いただした。そこからその子の事を把握するのに少し時間がかかった。


「なんだ、そういうことね。で、晴琉はどうしたいわけ?その子、多分晴琉の事好きだよ」


「ばーか、付き合わねぇよ」


やっぱり。晴琉ならそう言うと思った。だって、その子の事を晴琉が好きなら、絶対今まで隠しきれずに私に話していたはずだもん。


「そうなんだ」


「なんだ?ホッとしてんのか?」


「べ、別に!じゃ、私帰るから。ちゃんと沙耶に謝っときなよ!」


晴琉に心を読まれると、なんかムカつく。


まあでもよかった。明日沙耶に報告してあげよっと。


でもその翌日、学校で私達は衝撃の事実を目の当たりにすることになった。


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