第22話 クラスメイトの本気

(晴琉)


「お前は…」


体育館裏。俺の前に立っていたのは、沙耶でも、世奈でもなく、まさかのクラスメイトの光永薫だった。


光永…。正直、花火大会以降は特に接点がなかった。勿論、あの時置いてけぼりにした事は謝罪済みだ。けど、それ以降で光永と印象に残る様な会話をした記憶がない。


それどころか、花火大会の一件で光永の仲良いグループの女子から俺は嫌われてるって、沙耶から聞いてたんだけど。その話が入ってきてからは、俺も光永となんとなく話し辛くなっていた。


「光永か?手紙くれたのは」


「そうだよ」


「そっか、意外だったわ。で、何?」


「何って、大体わかるでしょ?」


光永はカバンから手作りチョコを取り出した。確かに、この質問はタブーだったか。


「俺にくれるのか?お前にもらえるとは思ってなかったわ。正直、嫌われてると思ってた」


「なんで?」


光永はきょとんとして首を傾げた。


「花火大会の時、置いてけぼりにしたからよ。あの後、風の噂で光永のグループの女子から嫌われてるって聞いてたし」


「全然そんな事ないけど」


「え?そうなの?」


沙耶の野郎、騙しやがったか。本当にあいつは何考えてるかわからん。


「まぁそれならいいや、チョコさんきゅーな!家でゆっくり食べさせてもらうわ!」


俺はそう言って立ち去ろうとした。まだ人を待たせてる。手短に終わらせねぇと。


けど、光永は俺の腕を掴んで引き止めた。


「行かないで」


「え?」


「今日は私と一緒に帰ってほしい」


えぇぇぇえ…。光永は続ける。


「正直、世奈ちゃんがすごく羨ましかった。高尾くんと毎日一緒に登下校して。私は、話しかけることですらこれだけ勇気を振り絞らなきゃいけないのに…」


「え?急にどした、光永?」


「私と付き合ってほしい」


「…え?今なんて?」


「だから、私と付き合ってほしいの」


いやいやいや。まさかチョコだけに留まらず、告白までされるとは思ってなかった。しかも全くと言っていいほど接点のなかった光永に。


「いや、俺達そんなに喋った事もねぇしよ、まだ付き合うとかそういうのは…」


俺の話を遮って光永は話し始める。


「ずっと見てた。校舎から高尾くんが一生懸命に走る姿。三岡くんに食らいつく姿。自主練習してるのも知ってる。もっとそばで応援したいって思ったの」


こいつ…。光永は俺を真剣な眼差しで見つめる。でも、ここは心を鬼にしてキッパリ断るべきだよな。


よし。


「すまねぇ。俺は光永の事、何も知らないし俺にとってはいきなりすぎてよ、今すぐに付き合うなんてのは…」


「そうね」


また遮られた。コイツ、俺の話聞く気あんのか?


「確かに、いきなり付き合ってって言ったって無理だよね。わかった」


なんだ、わかってんじゃん。じゃあさっさとこの場をおさらばして…


「じゃあこれからは私も高尾くんに積極的にアピールするわ。一旦付き合う事は諦めるけど、もっと私の事知ってほしい。だからもう一回チャンスちょうだい」


な、なにぃ!?


「確かに付き合うのは無理言ったかもしれないけど、フラれるなら私の事知ってもらった上でフラれたいんだ」


やべぇ、めっちゃ断り辛ぇ…。でも時間がない。ここは1番手っ取り早くここを離れられる方法を考えねぇと。


「わかった。けど、悪りぃが今日は一緒に帰れない。用事があるんだ。世奈とも今日は帰るつもりはないから安心してくれ。急ぎの用なんだ」


「そうだったんだ…。それはごめんね。忙しいのにわざわざ来てくれてありがとう」


「いや、これくらいなら問題ねぇよ。じゃな!」


俺は松葉公園へ急いだ。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

(世奈)


遅いなぁ…。


私は校門前で晴琉の追試が終わるのを待っていた。


どうせ晴琉の事だから、追試の内容もよくなくて、居残り勉強の時間増やされてるんだろうな。


1人で立っていると、さっきの出来事が頭の中をぐるぐる回る。私はカバンの中から手鏡を出した。どうしよ。顔、まだ赤いや…。


そうこうしてると、校舎から誰かが走ってきた。晴琉だ!


「おーい!晴琉〜!」


私は晴琉に呼びかけた。沙耶が松葉公園で待ってるから、手短にしないと。


「なんだ、待っててくれたのか!けどわりぃ、今急いでんだ!先帰るわ!じゃな!」


え…?えーーーーー!?

なにそれ、せっかくチョコ渡すために待ってあげたのに!晴琉はそのままダッシュで私の前を駆け抜けていった。


なによ、もう絶対チョコあげない!


私は1人でトボトボ帰ることにした。


急いでるって、やっぱ沙耶を待たせてるからかな…。でもそれにしたって、待たせといて先帰るって酷くない?まぁ私が勝手に待ってただけなのかもしれないけど。


私は交差点の信号で立ち止まった。私の家はここから真っ直ぐ。左に曲がれば、沙耶がいる松葉公園に着く。


…どうしよ、気になる。行ってみようかな。


沙耶がもし晴琉に告白したら、晴琉は付き合うのかな?でも、晴琉の話聞いてると、キスまでされても沙耶の事好きにならなかったみたいだし…。


ダメダメ、私は沙耶の事応援するんだ。今思えば、沙耶の告白引き止めようとしたり、沙耶が晴琉にチョコ渡すって知ってて自分もチョコ作ったり、全然応援できてないじゃん。

当の私は、陸とデートやキスまでしちゃったのに…。

 

私はやっぱり、陸を選ぶべきなのかな…。


誰か教えてよ。


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