第24話 転校生

「今日からお世話になります、浅野蘭です。よろしくお願いします!」


朝のホームルーム。教壇の前で挨拶してるのは間違いなく蘭だ。本当に来やがった。


「おい、あの子可愛くね?」


「なんかお嬢様みたい」


皆ヒソヒソと言いたい放題言ってやがる。


俺の隣が空席だ。まぁ、十中八九ここに座るわな。


案の定、皆の視線を集めながら蘭はこちらに歩いてきた。俺の席の手前で立ち止まると、笑顔で小さく手を振ってくる。ばか、恥ずかしいからやめろ。


勿論それを健が見逃すはずがなく、休み時間に問い詰めてきた。


「晴琉、ちょっと集合!」


無理矢理腕を引っ張られ、俺は廊下に連れ出される。


「なんだよ、いてぇ、いてぇって!」


健は柔道部で力が強いから振り解けん。


「お前、あの可愛い転校生と知り合いか?」


健は顔をこれでもかと近づけながら喋る。なんだなんだと夏樹もやってきた。


「あぁ、まぁそんなとこだ」


「紹介しろ」


「なんでだよ!同じクラスなんだから自分で友達になりゃいいだろ!」


「恥ずかしいだろうが!それに、明らかに一般庶民の俺達と放つオーラが違う。敷居の高さをビンビン感じるぜ!だから、ここは知り合いのお前に一肌脱いでもらおうってわけだ」


「ったくめんどくせぇな…」


「いいだろ、別に!大体な、お前は毎日、浜川と登校できるという贅沢な立場にありながら、なんでまたあんな可愛い子と知り合いなんだよ!ずりーぞ!」


そうだそうだ、と夏樹もはやし立てる。


「知らねーよ。蘭とだって、事の成り行きで…」


「お前…名前で呼び合う仲なのか?くぅー!けしからん奴だ」


あぁ、めんどくせぇ。とりあえず俺は健と夏樹を蘭に紹介する事にした。


「のののっ…延藤健です!よよ、よろしく!」


「すす、菅田夏樹です!」


ガチガチじゃねぇか。


「コイツら、俺の友達なんだ。仲良くしてやってくれ」


「あぁ、そうなんだ。よろしくね!」


と蘭はニコッと笑った。どうやら健と夏樹は心を射抜かれたみたいだ。だらしねぇぜ。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎

(世奈)


「おはよ」


一緒に登校してきた晴琉と別れて教室に入ると、珍しく陸から挨拶してきた。


「世奈、昨日はチョコありがとな。すげー美味かった」


「ホントに?ありがと。溶かして固めただけの簡単な奴だけど」


「そうか?世奈のチョコが1番美味かったけど」


「陸もいくつかチョコもらったんだ?」


「…ま、まぁな」


まぁ、陸がモテる理由はわかる。中学生であれだけ女の子をリードできればそりゃね。今回だっていち早くチョコのお礼と感想聞かせてくれて。晴琉はなんも言ってくれなかったのに。でも、そんな気遣いのかけらもない晴琉が沢山チョコ貰う日が来るとはね…。


とか考え事をしてたら、沙耶が私の机をドンッと叩いた。あまりの音にビックリしちゃったよ。


「ねぇ世奈!昨日、晴琉なんて言ってた?」


そうだ、のんびり考え事してる場合じゃなかった。昨日の事を上手く沙耶にも話してあげないと。


「昨日会ってた女の子、晴琉の友達だって。付き合ってる訳じゃないみたいだったよ」


「友達?抱きついたりしてたのに?」


まぁそう思うよね。


「うん。話聞いてる感じだと、向こうは多分晴琉の事好きなんだと思うけど、晴琉は付き合う気ないって言ってたよ」


それを聞いて沙耶は少し安心した様だった。


「なんだ、よかった…。じゃあまだまだ私にもチャンスあるって事ね。ライバルは増えちゃったけど」


「うん。それとね、晴琉ったら沙耶の手紙にも気付いてなかったみたいで。あの後手紙見て青ざめてたよ」


「なんだ、そうだったんだ。なんかちょっと安心したわ…。あ、そういえば隣のクラスに転校生来たらしいよ、見に行こうよ!」


転校生?晴琉のクラスか。昼休み、私は沙耶に腕を引っ張られながら隣のクラスに入った。けど教室に入った途端、急に沙耶の歩みが急に止まり、ぶつかってしまった。


「どしたの、急に立ち止まって」


「嘘でしょ…」


沙耶の見つめる先には見たことない女の子が座っていた。あの子が転校生か。顔、ちっちゃいな。お人形さんみたい。でもそれよりも、転校生を見た沙耶の引き攣った顔の方が気になる。さっきまで転校生を見に行く気満々だった沙耶は何を思ったのか、私を押し退けて自分の教室に帰ってしまった。


「沙耶!」


と追いかけようとしたら、


「世奈、ちょっと待て!」


と教室にいた晴琉に呼び止められた。そのまま廊下に連れ出される。


「何?今ちょっと沙耶に用があるんだけど」


「だろうな。沙耶のやつ、血相変えて出て行ったもんな。見てたよ」


「どういうこと?なんか知ってんの?」


「あいつが例の…松葉公園の女子だ」


「え?転校してきたの?」


「そうだ。そういえば言ってなかったな」


うん、聞いてない。私が聞いたのは、あの子がフランスから日本に帰ってきたってところまでだった。って事は、沙耶はあの子がこの学校に転校してきた事にビックリして、教室を出て行ったのか…。でも私も迂闊うかつだったな。松葉公園で会ってたって事は、通学区域に引っ越してきた可能性もあったのに。昨日ちゃんと聞いておけばよかったよ。


「なんでそれ教えてくれなかったのよ!」


「そこまで細かく知りたきゃ、昨日聞けばいいだろ!」


ぐうの音も出ないわ。その時、背後から声がした。


「なんだか楽しそうだね。私も混ぜてもらってもいい?」


げ、転校生…。転校生はあざとい笑顔でこちらを見つめてる。


「あー!もしかしてあなたが晴琉くんの幼馴染の世奈ちゃん?」


初対面でもう下の名前、しかも「ちゃん」付け、そして何故私の手を握る…。距離感の近さに面食らった。


「そ、そうだけど…」


「晴琉くんからよく話聞いてたよ〜?あ!私、浅野蘭っていいます!よろしくね!」


「うん、よろしくね…」


自分の笑顔が引き攣ってないか不安になった。浅野さんは私の耳元まで顔を近付けて、晴琉に聞こえない様に小声で続ける。


「私、晴琉くんの事が好きなの。また色々相談してもいいかな?」


やっぱり。でも、初対面でいきなりこんな事言われるとは思ってなかった。どうしよ、沙耶の相談にも乗ってるのに。これじゃ板挟みになっちゃうよ…。


「う…うん、わかった…」


って言うしかないよね。トホホ…。


「なにがわかったんだ?」


晴琉はキョトンとしていた。まったく、人の気持ちも知らないで。


「なんでもないよ〜」


と浅野さんが可愛く返す。ってこんな事してる場合じゃなかった!沙耶のところへ行かなきゃ!


「ごめん、浅野さん!今ちょっと急いでて。また今度、お話しようね!じゃ!」


私は適当な事言って、沙耶のいる教室へ向かった。

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