第20話 手紙
(晴琉)
さて、どうしたものか。
この手紙…誰からなんだ?
昼休み、俺はトイレの中にいた。流石に人の目があるところで手紙を見るのは恥ずかしい。
俺は封筒を開け、中の手紙を取り出した。
どれどれ…
———今日の放課後、体育館の裏に来てください。待ってます———
おいおい…マジかよ。また同じ様な内容の手紙…。しかもまた名前無しかよ。
放課後っていやぁ、部活動が終わってからって事だよな?どうする?体育館の裏に立ち寄ってから松葉公園に行くか?
しょうがねぇ、先に手紙くれた奴には申し訳ねぇけど、少し待ってもらうか…。
にしても、これはモテ期なのか?これがチョコレートを渡すための手紙なら、健が言ってた事と全く違うぞ。中学になったらチョコ貰えなくなるんじゃねえのかよ。
とにかく放課後だ。部活動が終わったら、世奈に先に帰ってもらう様に断り入れて、体育館裏にダッシュ。さっさとチョコレートを受け取って、松葉公園にダッシュだ。
教室に戻ると、国語の先生が待ち構えていた。
「高尾!この間の小テスト、お前が1番悪かったぞ。今日は居残りで追試だ。部活動終わったら、少し教室に来なさい」
な、なにぃ!?
確かに、この間の国語の小テストは自信なかったけど、追試だと?しかも部活動の後に居残り?
「先生、なんとか明日にしてもらえないっすか?この通り!」
俺は頭を下げて頼んだが
「お前1人に付き合ってやるって言ってんだ、テストも少し簡単にしてやるから。ほんの15分で終わる」
と流された。ダメだ、居残り確定。
♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢
(世奈)
結局、2つチョコ作っちゃった。
私はため息をついた。どうしよう、本当にわからなくなってきた。私が好きなのはどっちなんだろ。
あのデートの後から心の中に陸がまた現れ始めた。優柔不断な自分に、私自身戸惑ってる。
沙耶は言ってた。そばにいなくなった時を想像して、心に最も大きな穴が空く1人が好きな人なんだって。
でも、今の私にとってはそれですら見分けがつかない。小学生の頃からずっと追いかけ続けてた陸と、最近異性として意識し始めちゃった幼馴染の晴琉。
今1人に絞れっていうのは無理。まぁ、どうせ晴琉には義理チョコとして渡すしかできないんだし、部活終わったら2人に義理チョコとして渡そ…。
そう決めた矢先、沙耶が話しかけてきた。
「世奈、何ぼーっとしてんの?部活行くよ?」
「…あぁ、うん!」
「あれれ?そのチョコは誰に渡すのかな〜?」
机に置いた2つの手作りチョコを見て、沙耶がおちょくるように聞いてくる。
「今年は義理チョコだよ、義理チョコ。渡す人いないから、晴琉と陸にでも渡そうかなって」
「へぇ、手作りのチョコをねぇ〜?」
「ほ、ホントに義理だよ?ほら、晴琉には毎年渡してるし。…そうだ、沙耶はどうだったの?晴琉に渡したんでしょ?本命チョコ」
「うん、でもそれが感想のひとつも無くてさ〜。中に手紙も入れたけど、読んでくれてるのかな?」
「手紙って?」
「学校帰りに、松葉公園に来てって。私、告白しようと思って」
「こ、告白?もう告白すんの?まだ早いんじゃないかな。ほら、この間はまだうまくいく手応えないって言ってなかったっけ?」
私は遠回しに引き止めようとしたけど、沙耶は止まらなかった。
「大丈夫、シミュレーションはすんでるわ。あとはぶつかるだけ。部活終わったら先に松葉公園で待ってようと思うから、晴琉を少し足止めしといてくれない?」
「…わかった。でもなんで松葉公園?瑞穂公園でよかったんじゃ…」
「瑞穂公園は帰り道途中まで一緒でしょ?もしフラれた時に一緒の道で帰るの気まずいじゃん」
なるほど。確かに松葉公園なら、お互い帰る道が逆だ。
「そっか。じゃあ、がんばってね」
♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎
(晴琉)
この日の部活は、なんかいつもより男子の張り切り具合が違った。なんだよ、バレンタインデーごときに浮かれやがって。
まぁいい。こんな連中に付き合ってやるつもりはねぇ。俺は俺で今日の練習もしっかり追い込むだけだ。
今日の練習はっと…
部室前に張り出してある練習メニュー表を見た。
今日は200メートル×10本か。生ぬるい練習だな。15本に本数増やすか…。
先生に相談しようとしたら、陸が俺より先に先生と話してた。
「先生、練習メニューの変更をお願いしたいんですが」
「どうした陸、お前がメニュー変更を申し出るとは珍しい。与えられたメニューを淡々とこなすのが陸だと思っていたが」
「お願いします」
けっ。コイツもはりきってやがるのか?カッコわりぃぜ。
「…うむ。何がやりたい?」
「3000メートルのタイムトライアルでお願いします」
タイムトライアルだと?しかも3000メートルって。いつもは1000メートルなのに。監督は少し考えた。
「んー…、タイムトライアルは本来、練習の成果を確認するために行うものだ。直近5日間のお前達の練習は結構ハードに組んである。今タイムトライアルを行っても、疲れで良いタイムは見込めんと思うのだが?」
確かに、いつもの流れならタイムトライアルの直前は練習量を落として疲れを抜く。流石に長距離の残りの連中も、陸の発言には驚いていた。俺もここ数日追い込み練習が続いて足はパンパンだ。
「いけます。なんなら俺1人でもいいです。今なら競り合う相手がいなくても自己ベストを出す自信がある」
今まで先生に従順に練習を行ってきた陸がここまで言うとはな。しかも疲れが残った状態で自己ベスト出しに行くってか。こりゃ俺も引き下がるわけにはいかねぇ。
「先生、俺はいいぜ、タイムトライアルでも」
先生は陸と俺を交互に見てから、目を閉じて顎ひげを手でモジモジし出した。
「んー…、お前ら2人がそこまで言うなら、いいだろう。今日はタイムトライアルだ」
ウォーミングアップ中、俺は陸に
「なんでタイムトライアルやろうと思った?」
と尋ねた。
「自分が強くなったか、早く確認したくなった」
え…早く確認したくなったってことは…。
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