第17話 ファーストキスの思い出 前編
———2年前。
「じゃあこの問題、わかる人ー?」
先生が俺達に問う。俺は思った。ここだ!
「はいはいはい!!!」
俺は必死に手を上げた。今日、俺が目立つにはここしかない。
「じゃあ元気のいい、晴琉くん。答えは?」
「はい!…ってあれ?答え忘れました!」
本当は答えられるけどな。わざと小ボケをかます。その瞬間、クラスが笑いで湧く。
「バカだなー、晴琉は!」
健が手を叩いて笑う。他のクラスメイトも次々と俺をバカ扱い。でもこれでいいんだ。クラスの皆の注目は今、俺に集まってる。
先生はため息ついてたけどな。
授業が終わったら皆俺の方に集まってくる。
「お前、今日も最高に面白かったぜ!」
「ほんと晴琉って天然っていうか、バカだよなー!」
1日に1回、こういう小ボケをかましておけば、その1日は俺の勝ち。大体1日くらいはそれをネタに皆笑ってくれるから。俺はそうやって毎日過ごしてきた。
「あんた、あんな事ばっかやってたら成績下がっちゃうよ?」
帰り道、世奈が俺の事を心配する。世奈の事は好きだけど、こういうとこがたまにムカつくぜ。
「いいんだよ、面白かったろ?」
「ぜんっぜん。晴琉は皆にあんなにバカ扱いされて!悔しくないの?」
「けっ。運動できて頭のいい世奈さんには、俺の気持ちなんてわかんねえだろーよ」
そう、俺は目立ちたかった。クラスの中心人物になりたかった。小学校の世界では、スポーツができればモテるし、勉強できれば皆に褒め称えられる。でも、俺はどっちもクラスで下の方だった。
だから皆が注目する様なバカやって皆の気を惹きつける。俺にはこれしかない。
学校から帰って、部屋にランドセルを無造作に投げ捨てたら、俺は家の松葉公園まで散歩しに行った。松葉公園は、近くの公園では1番大きな公園なんだ。外周を回って歩くと、1周1.5キロもある。公園内は木々が生い茂っていて、自然と戯れながら1周歩くのが好きだった。
周回の途中には綺麗に整備された芝生がある。日差しが届いて、芝生が光って見える。今日の俺の特等席はここだな。俺は芝に寝転がって空を眺めた。
今日の学校も手応えあったな。皆の退屈な1日に、刺激的な風を送り込んでやった。これが俺の存在意義だ。この達成感、たまんねぇぜ。風に吹かれながら、目を瞑る。
ウトウトして寝落ちしかけたところだった。いきなり顔中を何かに舐め回される。
「うわっ!なんだ!」
クソでかいゴールデンレトリーバーだった。俺の体よりも大きいんじゃねぇか?首輪とリードがついてるが、飼い主が見当たらない。首輪には名札が付いていた。フランと書いてある。
「お前、脱走でもしてきたのか?」
と撫でてみる。毛並みはよく手入れされていて、綺麗だ。
「お前も退屈だったんだな」
飼い主を探してやろうと、リードを持って立ち上がった時、後ろから声がした。
「フラン!いた!」
振り返ったら、俺と同い年くらいの女の子が長髪ロングの髪の毛をなびかせながら、遠くから駆け寄ってきていた。身長は小柄な俺よりも更に小さくて、ゴールデンレトリバーを散歩するには心配になるくらいの細身だった。
「もう、また逃げ出して。ちゃんとそばにいなきゃだめでしょ!…あの、うちの子を捕まえてくれて、ありがとうございます」
「あぁ、大丈夫だ。それより、見た感じ同い年くらいに見えるけど、学校で見ない顔だな。隣の小学校か?」
「あー…、うん、そうそう!5年生!」
「おー、やっぱ同い年じゃん!俺、高尾晴琉ってんだ、よろしくな!お前の名前は?」
「
「犬の散歩中か?俺、退屈してんだ。付き合ってくれよ。少し話そうぜ」
「あー…、うん、いいよ!」
蘭が公園内の時計をチラッと見たのがわかった。この後なんか予定でもあんのかな?
その後、俺達は芝生の上で座りながら、沢山話をした。蘭はあまり自分の事を話したがらなかったけど、俺の話にすごく興味を持ってくれて、普段あれだけ必死こいて皆の注目を集めようとしてる俺にとっては、すごく心地よかった。
「…それでよ、クラスの皆の前で答え忘れちまって…答え忘れましたっつったら、皆に大笑いされちまったよ!」
蘭は腹を抱えて笑う。
「なにそれ、自分から手を上げて忘れるってどういう事?ほんと面白い!…あ、もうこんな時間だ。私帰らなきゃ」
公園の時計を見たらもう17時前だった。俺もそろそろ帰らねぇとな。
「あぁ、そうだな!家まで送ってくよ!またフランに逃げられるかもしれねぇし」
「大丈夫だよ、1人で帰れるから。それに、フランはこう見えて結構お利口さんだから」
「そうか?それならいいけどよ」
「うん。じゃあ、またね」
元気よく手を振って、蘭はフランを連れて帰っていった。と思ったら、少し離れたところでまたこちらに振り返り、大きな声で話し出した。
「ねぇ、明日もここにくる?」
「あぁ、大体毎日ここに来てるよ!」
「じゃあ私も、明日またここに来る!またお話しようよ!」
「わかった!また明日な!」
それから俺達は毎日、学校終わりに松葉公園で待ち合わせて、話す様になった。蘭は俺の学校での武勇伝を聞いて笑ってくれる。それが俺も凄く嬉しかった。学校では多少無理しないといけないけど、ここでは素でいられる。気が付けば俺も、毎日公園に行くのが楽しみになっていた。
…そう、あの事実を知るまでは。
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