第15話 2度目のデート

「な、なんだよ」


自主練コースを走っていたら、陸とすれ違った。気まずいからそのまま通り過ぎようとしたら、陸が折り返して俺の隣に並走しだしやがった。


「いや、その…」


陸が決まり悪そうな顔をする。なんなんだよ。


「こないだは…言い過ぎた、すまない」


「は?」


「だから…この間の部活での事だよ!悪かったって…」


「いや、知ってるけど。悪いのは俺なのに、なんで謝んのかなって。相変わらず変な奴だな」


「う、うるせぇよ!とにかく、お前がいないと張り合いが無いんだよ!…さっさと調子戻してこい」


「へっ!当たり前だ!」


俺達はペースを上げて煽り合った。流石にまだ陸のペースに合わせるので精一杯だわ。少し俺の疲れが出てきたところで、また陸は真剣な顔で話し出した。


「それともうひとつ、お前に言っておく」


「なんだよ」


ゼェゼェ言いながら言葉を返す。会話する余裕なんてねぇっつーの!


「明日、世奈とデートすることになった」


「へぇ、そうかい」


「…焦らないんだな。前はビックリするくらいわかりやすく焦っていたのに」


そういえばそうだ。全然焦らなかった。


「いや、別に前も焦ってねぇし。お前が世奈の事好きって言いだしたから、ビックリしただけだよ」


「そうか。なら遠慮なく世奈とデートさせてもらうわ」


「告白…すんのか?」


「言っただろ?自分が強くなったと確信を持てたら告白するって。まだ告白しないから安心しろ」


「勝手にしろっての」


会話はそれだけ。陸の野郎、話すだけ話したら、走るペースを上げて俺のこと置いていきやがった。


今に見てろ。このブランクが明けたら、レースでまたお前に背中見せてやる。


それにしても、陸が世奈とデートすると聞いても焦らなかったのはなんでなんだろ。自分の心境の変化に少し戸惑いながら走ってたら、キツかったはずなのにいつの間にか1時間も走ってた。


♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢♦︎♢

(世奈)


最寄駅で待ち合わせ。


予定より15分も早く来てしまった。これじゃ私が楽しみにしてるみたいじゃない。


デートの誘いかもと思ったら、なんだかソワソワしちゃって。ていうか私、人にデート誘われて行くの、初めてだ。前回陸と花火大会行った時は私から誘ったし。いや、そもそも今回はデートの誘いかどうかなんてわかんない…いや、でもデートだったら…


「おはよ」


「わっ!!!」


余計な事考えてたら背後から急に陸が現れて、思わず叫んじゃった。


「そんなにビックリすることないだろ。てかわりぃ、俺も早く来たつもりだったんだけど、待った?」


「そんな事ないよ、私も今着いたとこ〜」


「そっか、じゃあいこうか」


電車は結構空席があったから、肩を並べて座る。少し間を空けて。なんかドキドキする。


名古屋が近くなってくると、人が次々と乗ってきた。


「もう少しこっちにおいで」


陸が私の袖を摘んで引っ張り、少し強引に2人の距離を縮める。


え、近くない?


不思議と嫌な感じはしない。陸はとてもいい匂いがした。香水なのかな?石鹸に近い様な、爽やかな匂い。


でも、こんなに男子とくっついたの初めて。どうしよう、恥ずかしい…早く名古屋に着いて…


そこから名古屋に着くまで5分程度だったけど、すごく長く感じた。駅に降りようとすると緊張で足がもたつく。


人混みにも押されてこけそうになる私を陸が支えてくれた。


「大丈夫か?ちゃんと周り見て歩かないとな」


そう言って私に微笑む。笑顔が眩しい。


「…ありがと」


私達は改札を出て陸のお目当てのものを探しに行った。そういえば私、陸のお姉さんに会った事ないけど、どんな人なんだろ。


「お姉さんの趣味とか、どんなものが好きとか、わかる?」


「んー、俺もよくわからないけど、姉さんは結構美容に興味持ってて、いつも化粧品や美容グッズは見てるかな〜。あ、この間、新しい財布も欲しいって言ってた」


「財布か〜、ハイブランド物だと高いからな〜。ちなみに予算はどれくらいなの?」


「1万5000円〜2万あたり…かな」


「それじゃ財布は厳しいな…。美容グッズ見に行こっか!」


私達は駅構内や隣接のビルをグルグル回る。その間も、陸は歩く速度を合わせてくれたり、歩き疲れてないか心配してくれたり、エレベーターに先に通してくれたり、なんだか凄く大切にしてくれてる気がして、嬉しかった。


「ねぇ陸、どうして陸はそんなに女の子に気が使えるの?」


お店の陳列棚を見ながら聞いてみた。陸は「別に気は使ってないけど…」と前置きして少し考えてから続ける。


「まぁでも、うちは女系家族だし、親父には女性は大切に扱うもんだって叩き込まれた。小さい頃、些細な喧嘩で姉貴の顔を殴った事があるんだ。その時俺は、これでもかってくらい叱られてさ。『女は何よりも大切にしろ。それができなきゃお前は俺の息子じゃねぇ』って。その教訓かもな」


「そうなんだ…お父さんも素敵な人なんだね」


「晴琉はしてくれないの?そういうの」


「晴琉?…ないない!あいつは女心わかってないから!それどころか、私がいつもお世話してるんだから。この間なんて、国語の教科書忘れたって言い出して。取りに帰って出発したら次は理科の教科書が無いって…いつも出発前に忘れ物ないかチェックしろって言ってるのに。ほんと、どうしようもない奴だよね」


「それは大変だね。でも晴琉の話をしてる時の世奈は、全然大変そうじゃない。むしろ楽しそう」


「えっ…そんな風に見えるかな、大変なのは本当だけど…」


「なんだか嫉妬しちゃうな」


「えっ?」


それってどういう…。


「なんでもないよ!それよりさ、世奈にも何かお礼させてよ。そこのパンケーキとか有名なんだけど、一緒に食べない?」


陸が少し離れた小洒落た店を指差す。確かに、Twitterかなんかで見たことある。


「パンケーキ!食べよ食べよ!私甘いの大好き」




パンケーキは絶品だった。さすが陸、下調べも完璧。


その後、陸は人気ブランドの香水をプレゼントに選んだ。香水って結構センスが問われるけど、陸ならお姉さんの好みをちゃんと把握してそうだし、問題ないか。


「今日はありがとな」


帰り際、陸が私にお礼を言う。


「こちらこそ、結局何も協力できてないけど、パンケーキまでご馳走してもらっちゃったね。ありがと。楽しかったよ」


「俺も楽しかった。今度さ、もうひとつオススメのパンケーキ屋あるんだけど、また行かね?男だけで入るの、ちょっと恥ずかしいし、女子で気軽にこんな事言えるの、世奈しかいないからさ」


「陸って意外に甘党なんだね。いいよ、行こ!」


「また空いてる日連絡するわ、じゃあな」


そう言って陸は私を家まで送って帰って行った。また自然な流れで陸の誘いを受けちゃった。


今日の陸、優しかったな…。いや、いつも優しいけど、もし付き合ったらあんな風に毎日大切にしてくれるんだろうな。


私の心はまた少し、陸に傾いていた。あれだけ晴琉の事が好きって確信したのに。でも、沙耶の事を応援するって決めたから、晴琉とは付き合えない。でも陸なら…。ダメダメ!こんな考え方!本当に、中途半端な最低女だ、私…。


もうすぐバレンタインか。チョコレート、どうしよう。


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