第2話 幼馴染と好きな人
あー、こないだの試合の陸かっこよかったなー。
思いにふけりながら朝の通学路を歩く。
今、ちょうど7時半になったところ。
本当ならあと30分くらい遅く家を出てもいいんだけど、今から大事なお仕事があるの。
———晴琉の家まで徒歩5分。
家に着いたらいきなりドアを開ける。
どうせ晴琉1人だけだしね。
玄関で靴を脱いで、綺麗に揃えたら二階にある晴琉の部屋へ。
…ほら、やっぱり寝てる。
「晴琉、起きて!」
「…んー…んにゃ?世奈?」
「学校!行くよ!もう時間ないから早く着替えて!」
これが私のお仕事。毎日だよ?
晴琉ときたら、中学に入学してから自分で起きた事なんて片手で収まるほどしかないんだから。
ちなみに家の鍵は、晴琉のお父さんが朝だけ開けてくれてる。私が起こしに来るから。
晴琉が着替えてる間に、台所の片隅に置いてある食パンを焼いてあげた。
晴琉は急ぐ素振りすら見せない。
仕方ないなぁ、もう。
結局時間ギリギリになって、小走りで学校に向かう事になった。
「筆箱持った?国語の教科書は?」
「あぁ、持ったよ!」
晴琉はくしゃっと笑う。
こんな感じで、私は小さい頃から晴琉の面倒を見てる。
晴琉は幼少期にお母さんを事故で亡くしてるし、お父さんは朝早くから仕事に向かうから、私が晴琉の面倒見てあげなくちゃダメなんだ。
もちろん凄く大変。
だけどなんかほっとけないの。
それに…
「…なぁ、世奈」
晴琉が立ち止まった。
身長156cmで私より2cm小さい小柄な少年は、急に真面目な顔付きで私を少しだけ見上げる。ツンツンに立ててる髪を足しても私と身長一緒くらい。
「何?」
「今度の日曜、花火大会あるじゃん?もし世奈が…」
きーんこーんかーんこーん———
「やばっ!晴琉、急いで!!」
もう、立ち止まってる暇なんてないのに!
晴琉は隣のクラスだから、廊下で別れて互いの教室へ。
今日もなんとか間に合った…
私の席は窓際の1番後ろ。
友達と挨拶を交わしながら自分の席に向かう。
最後に挨拶を交わしたのは陸だった。
陸は私のひとつ前の席。
「おはよう!」
私は陸の目を見て、皆より心を込めて挨拶した。
「あぁ、おはよ」
陸は今日もクールだった。
チラッと私の顔を見て挨拶すると、窓の向こうに視線を向ける。
席に着いてからも頭の中は陸でいっぱいだった。
私が陸の事を好きになったのは、小学5年で出場した陸上の県大会。
走り高跳びでまさかの2位に終わってしまい、雨の中泣き崩れてるところに陸がやってきて、初対面の私に傘を渡してくれた。
「持っていきな」
と一言残して陸は走って去っていったの。
その後なんとなく男子1000メートルを見ていたら、ダントツで優勝したのが陸だったんだ。
それが凄くかっこよくて。
自分の試合が間近だったのに、見ず知らずの私に傘渡してくれるって、もう優男すぎて!
陸にはその話をした事がない。
陸はあの日の事、覚えてくれてるかな?
そんな事考えてたら、一時間目が終わっちゃった。
陸は人気者で、休み時間には陸の周りに友達が集まってくる。
とても私が1人で話しかけていい雰囲気じゃないし、部活の時間は種目が違うから関わる時間もない。
どうにかして2人の時間を作れないかな。
晴琉との時間はあんなに容易く生まれるのに、陸との時間を作るのは本当に難しいよ。
…そういえばさっき、晴琉が花火大会の話しようとしてたっけ。
もう今週か。
よし。今日の部活終わったら、頑張って陸を誘ってみよう。
「な〜に陸の事じっと見つめてるの〜?」
耳元で小声で誰かが話しかけてきたから驚いて振り返ったら、親友の
沙耶とは同じクラスで、小学校の頃からの付き合いだからか、陸の事が好きなのもすぐにバレちゃった。
「いや、その…花火大会、陸の事誘おうかなって…」
「いいじゃ〜ん!今から誘うの?呼んでこよっか?」
「い、いいよ!部活終わったら勇気出して声かけてみるから。」
沙耶の行動はいつも大胆だから、焦っちゃう。
緊張しながら一日中誘い文句考えてたら、いつの間にか部活の時間に。
沙耶は同じ陸上部だから、着替えて一緒にグラウンドに向かう。
グラウンドに着いたらすぐに集合。
先生が各種目の練習メニューを発表して、一通り説明が終わったら種目別に別れて練習。
今日のハードル組の練習はそんなにキツくなかったから、時々長距離組の練習を眺めながらやってた。
長距離は各選手の実力に合わせて細かくペースの指示が出てる。
陸は勿論1番速いペースで先頭。
あー、晴琉ったらまた先生の指示無視して陸についてってるよ…
何周かグラウンドを回ると、晴琉が陸に引き離され始める。
毎日こんな感じ。
晴琉は陸に勝つ事しか頭に無いから、細かい練習の意図は無視するの。
しょうがないんだから…
練習後、私は晴琉に話しかけた。
「ダメでしょ、先生の言ったペース無視して走ったら!」
「先生の言うことずっと聞いてたら、俺は一生陸には勝てないんだよ」
晴琉がムッとして言い返してきた。
晴琉はなんでも長続きしないし、誰かと競争して負けたって、ちょっと悔しそうにするだけで特別負けず嫌いなわけでもない。
でも、陸にだけは凄く対抗意識を燃やしてるの。
何故そこまで陸に勝つ事にこだわるのか、私にはわからなかった。
「陸とはまだ陸上やってる年月が違うんだからさ、自分のペースで速くなればいいじゃん?」
「それじゃダメなんだ!」
私は晴琉が急に大きな声を出すから、ビックリした。
「…わ、わりぃ」
「いいよ。でもなんで?なんでそんなに陸に対抗意識燃やしてるの?」
「そ、それは…。あ、それよりさ、今度の花火大会…」
「世奈〜、陸いっちゃったよ〜!!」
遠くで沙耶が叫んでるのが聞こえた。
もう、大きな声でそんな事言ったら、私が陸の事好きって皆にバレちゃうじゃない!
「わ、わかった〜!今行く!じゃあ晴琉、今日は先に帰るね!」
私は急いで陸を追いかけた。
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